第5話 前編
ミラの父でありハートン家当主バリー・ハートンは、怒りと憎悪を露わにして叫んだ。
「見え透いた嘘をつくな、吸血鬼が……ッ!」
一方、シークは怪訝そうに眉を曲げた。
彼は大きくため息を吐いて応じる。
「なぜ信じない? 娘の報告を聞いているはずだ」
「ハイドーン家は精鋭揃いだ! 実に忌々しいことだが、一夜にして壊滅などありえん! ミラが操られているものとして、我々は待ち構えていたまでだ!」
バリーが剣を掲げて突進を開始する。
刃には極大の聖気が込められており、吸血鬼にとって有害な光を余すことなく発していた。
シークは眩しそうに目を細めて嘆息する。
(まあ、こうなるよな。どうやって説得するかね)
距離を詰めたバリーが連続で剣を振るう。
太刀筋を読んだシークは、そのすべてを紙一重で躱していった。
それでもバリーは動じることなく次々と攻撃を仕掛ける。
反撃を封じる立ち回りに、シークは思わず感心した。
(悪くねえな。しっかりと鍛錬を積んでいる。吸血鬼との戦闘経験も豊富だな)
バリーの斬撃が頬を掠めた瞬間、シークは大胆に踏み込んだ。
懐に潜り込んだシークは、聖気を使った閃光を手の中で解き放つ。
「なっ……!?」
予想外の攻撃に戸惑うバリー。
その僅かな隙を逃さず、シークはバリーを掴んで地面に引き倒す。
聖なる剣は手の届かない位置まで蹴飛ばした。
これには他の聖騎士も狼狽する。
「当主様っ!」
「動くなよ。手荒な真似をさせるな」
シークはじっとりとした眼差しで聖騎士達を牽制する。
彼は片手に聖気を集めると、見せつけるようにして光を発した。
「俺は聖騎士ダエル・ハートンの弟子だ。吸血鬼狩りを使命に生きている。だからお前達と敵対するつもりは――」
「遠慮するな! 攻撃しろォッ!」
押さえつけられたバリーが血走った目で叫ぶ。
刹那、他の聖騎士達が一斉攻撃を開始した。
飛んでくる光の斬撃を見て、シークは渋い顔で悪態をつく。
「チッ、余計なことしやがって……」
飛来した斬撃を躱したシークは、バリーを掴んだまま疾走する。
後方にいたミラが彼に向かって訴えかける。
「シーク! 殺さないでくれ!」
「ああ、わかってる」
聖騎士達に飛びかかったシークは、彼らを素手で殴り倒した。
戦闘技術の差もあり、勝敗は一瞬で決した。
ただしシークも無傷ではなく、全身各所が蒸発している。
聖気の攻撃を食らったせいだった。
「吸血鬼の肉体は脆いな、ちくしょうめ」
ぼやくシークを見て、バリーは畏怖を覚えていた。
彼は掠れた声で問う。
「き、貴様……何が目的だ」
「だから吸血鬼狩りだって言ってんだろ。そのために来たんだ。話し合いをしようぜ」
シークは面倒臭そうに提案した。




