第4話 後編
ミラは無言で何か思案している。
気になったシークが尋ねた。
「どうした?」
「私も、聖騎士として鍛錬を重ねてきた。様々な吸血鬼を殺してきたが、君ほど強い個体と戦うのは初めてだ。正直に言うと、とても悔しい……」
「吸血鬼の基準だと、俺は強いどころか欠陥だけどな」
「ど、どういうことだ……?」
「眷属はいないし、血の魔術も使えねえ。ほんの少しの怪力と再生力、それと老けにくい体質くらいが利点だろうな」
シークは自虐気味に述べる。
するとミラは驚きながら彼に訊く。
「眷属と血の魔術……どちらも吸血鬼の基礎能力だ。なぜ使えない?」
「知らねえよ。生まれつきそうだったんだ」
そう答えるシークだったが、実際は心当たりがあった。
幼少期、彼は自分が吸血鬼に転生したことに強い嫌悪感を覚えていた。
そのためハイドーン家による座学や訓練をことごとく放棄し、吸血鬼の力を磨くことを拒否した。
さらに生前の力にこだわり、聖気ばかり練り上げて肉体を自壊させてきた。
自殺行為に等しい習慣の末、吸血鬼の力を使えない吸血鬼になってしまったのである。
「人間の血を吸ったことがないから、力は弱いしすぐ疲れる。日光を浴びれば致命傷だ。こんなに脆い吸血鬼は他にいねえよ」
「人間を襲わないのは良いことだが、どうしてやらないんだ。吸血鬼は本能的に血を求めるものだろう」
「聖騎士とは思えない台詞だな」
「じゅ、純粋な疑問だっ!」
ミラは顔を赤くして反論する。
その姿を笑った後、シークは冷めた目で語る。
「血を吸うことに興味ない。俺の本能は吸血鬼を狩ることだけだ」
「……変わり者だな。シーク、君はひょっとすると悪い吸血鬼ではないのかもしれない」
「つまり良い吸血鬼ってことか?」
「それを判断するのは私ではない。ほら、そろそろ到着するぞ。ハートン家の城だ」
ミラが指し示した先には大きな城がそびえ立っていた。
まるで砦のような外観を目にしたシークは感心する。
(俺の子孫か……随分と立派じゃねえか。聖騎士の一族として上手くやっているらしい」
門の前には十数人の聖騎士が集っていた。
彼らは殺気を隠すことなく発し、剣や盾を構えて二人を待っている。
只ならぬ空気を感じ取ったシークはミラに確認する。
「……おい、俺が同行していることを伝えているよな?」
「もちろん連絡済みだ。しかし、明らかに警戒されている……」
聖騎士達のうち、灰色の髭を持つ男が前に進み出た。
男は怒気を孕んだ声音で追及する。
「ミラ! 貴様、血迷ったか! 吸血鬼を捕獲しただと!? 貴様が懐柔されているわけではないかっ!」
「聞いてください、父上! この男、シークは特別なのです!」
ミラは懸命に主張する。
しかし、聖騎士達の雰囲気は微塵も緩まらない。
一触即発の中、シークは面倒臭そうに名乗りを上げた。
「シーク・ハイドーンだ。俺がハイドーン家を壊滅させた」
彼の言葉を聞いた瞬間、聖騎士達は愕然とする。




