第3話 前編
夜明けを迎えた時、吸血鬼ハイドーン家の屋敷は焼け落ちていた。
敷地内には無数の吸血鬼の死体が転がっている。
いずれも首を切断されているか、心臓を破壊されていた。
東の空から注ぐ朝日を浴びて、死体は黒い煙を上げて蒸発していく。
そんな中、シークは瓦礫の隙間の日陰に座り込んでいた。
シークは外套に身を包み、仮面や手袋で肌の露出を徹底的に防いでいる。
血みどろの剣を投げ捨てたシークはぼやく。
「吸血鬼って不便だな……」
日光が弱点の吸血鬼だが、魔術で全身を保護することである程度は対策できる。
ただし魔力の消耗が激しいため、シークはあまり使いたがらなかった。
さらに現在は数時間にも及ぶ戦闘により、彼は全身に重傷を負っている。
吸血鬼の生命力と再生力があるため死ぬことはないものの、決して万全ではないのである。
「よっこらせっと」
瓦礫に背を預けたシークは、特殊な呼吸法で肉体回復を促す。
その間、頭の片隅で状況を整理する。
(これでハイドーン家は壊滅した。逃げた吸血鬼もいるが、復興はかなり厳しいだろう。元の状態に戻るまで少なくとも数十年はかかる)
敷地全域を日光が照らし上げる。
視界内の死体がすべて蒸発したのを確認して、シークは小さくため息を洩らした。
(当主のグラン・ハイドーンは、現代の吸血鬼の中でも最強格だった。あいつが死んで世界のパワーバランスが崩れた。色々と混乱が生じるだろうが、まあいいさ。俺は吸血鬼を借り続けるだけだ)
今後の方針がまとまったところで、遠方から鋭い声が飛んでくる。
「そこの吸血鬼、動くなっ!」
「あ? 俺のことか」
シークは顔を上げる。
二振りの斧を携えて歩いてくるのは、白い軍服を着た女だった。
女は吸血鬼狩りであることを示す腕章を着けている。
「私は聖騎士ミラ・ハートンだ! 貴様を抹殺する!」
ミラは名乗り終えたと同時に突進を始めた。
跳ね起きたシークは怪訝そうに唸る。
「ミラ・ハートン……ハートンだと? お前、まさか――」
「隙ありだッ!」
ミラが渾身の力で斧を叩き付けた。
シークは上体を反らして躱すも、すぐさま追撃が迫る。
瓦礫をまとめて薙ぎ払う威力を見て、シークは思わず舌打ちした。
(くそ、悪くねえ腕だ。本気で俺を殺す気らしい。長期戦になると面倒だな)
素早く判断したシークは剣を拾い、刃に聖気を込めて光を放つ。
神々しい光を目にしたミラは驚愕した。
「そ、その力は……ッ!?」
「頼むから落ち着け。俺達には話し合いが必要だ。ダエル・ハートンからの頼みなら聞いてくれるか?」




