第2話 前編
部屋を出たシークは、成人の儀が執り行われる広間へと向かう。
途中、廊下に瓜二つの二人の青年が立っていた。
シークの双子の兄、アルン・ハイドーンとケルン・ハイドーンである。
彼らはシークの行く手を阻むように佇み、悪意に満ちた笑みを浮かべていた。
二人はシークの背中や頭を叩きながら労う。
「よう、シーク! お前もとうとう成人か」
「会えなくなって寂しいぜ」
しばらく無抵抗に叩かれていたシークだったが、ふとした拍子に顔を上げる。
彼は気だるい表情で辛辣に告げた。
「そうか。俺は嬉しいよ。性根の腐った双子の顔を拝まずに済むんだからな」
双子の動きがぴたりと止まる。
二人は全身から殺気を滲ませながらシークを睨んだ。
「……おい。今日はやけに強気じゃねえか。俺達にいつも勝てないノロマのくせに」
「居眠りのしすぎで力関係を忘れたのか?」
双子がゆっくりと身構える。
それぞれの手には真っ赤な短剣が握られていた。
血の魔術で生成した武器である。
刃先をシークに突き付けた双子は高々と宣言する。
「決めた。お前の顔をズタズタに切り裂いてやる」
「思い出に残る成人の儀にしてやるよォ!」
双子が短剣を動かす瞬間、シークは二人の顔面を殴り飛ばした。
視認できない速度で先手を取られた双子は、困惑した表情で尻餅をつく。
「……は?」
「今、何を……」
「確かに俺は血の魔術が使えない落ちこぼれだ。ただし、それは吸血鬼の基準だな。暴力ってのは色々とやり方がある」
シークがアルンの腹に蹴りを炸裂させた。
アルンは身体を折って悶絶する。
「ぐっ……!?」
「たとえば闘気だ。精神力で練り上げるだけだから手軽でいい」
説明するシークの膝がケルンの側頭部を捉えた。
吹っ飛ばされたケルンは壁に激突する。
「あぎゃっ」
「次に発勁。習得が難しいが、使いこなせば便利だな」
起き上がった双子が同時攻撃を仕掛けた。
前後から迫る血の刃に対し、シークは流れるような動きで回避を選んだ。
紙一重で刺突を躱しつつ、二人の鳩尾に強烈な肘打ちを叩き込む。
アルンとケルンは床を何度も転がってから嘔吐する。
悶絶する彼らの肋骨は砕け散り、衝撃で内臓も破裂していた。
吸血鬼の生命力ならば再生できるものの、凄まじい苦痛を和らげられるわけではない。
「魔力の身体強化も悪くない。割と才能依存だが、吸血鬼の肉体との相性は抜群だ」
淡々と解説を終えたシークは双子を引っ張って一か所に集める。
それから静かに憎悪を滾らせて告げた。
「アルン、ケルン。俺は今まで目立たないように過ごしてきた。厄介事が大嫌いだからだ。それ以上に嫌いなのは吸血鬼だ」
「ひっ!?」
「や、やめて……」
「成人の儀の後、俺はこの城を出て行く。だから最後に憂さ晴らしをさせてくれ」
シークは真顔で拳を振り上げる。
城の全域に双子の悲鳴が響き渡った。




