第9話 後編
それは無意識の行動だったが、数多の戦闘経験を積んできたシークが本能的に辿り着いた最適解であった。
ガベルに噛み付いたシークは喉を鳴らして血を飲む。
嚥下のたびに魔力が脈動し、間もなく彼の傷口から血が噴き出した。
噴出した血液は真っ赤な手足を形成となり、強引にガベルの顔を掴んで引き裂く。
「ゴガアアアァァァァァッ!?」
ガベルが絶叫し、しがみ付くシークを振り払った。
分断された顔面を押さえたガベルは、傷口同士を密着させて再生を促す。
シークの首を掴んだがベルは、目を血走らせて怒り狂う。
「き、貴様っ! 同族を喰らうとは――」
ガベルの言葉を待たず、シークがガベルの手に噛み付く。
シークは血肉を啜るりつつ、同時に牙から聖気を発散させた。
己の頭部を崩壊させながらも、それ以上の速度で再生して喰らいついていた。
聖気を流し込まれたガベルは悶絶し、半狂乱になってシークを引き剥がそうとする。
しかし、肉体を浄化されている上に力の源である血液を奪われたことで、あえなく膝をついてしまう。
そこからはまともな反撃すらできずに、ぐずぐずと全身が溶けて絶命した。
ガベルの残骸を踏みつけたシークは、血で形作られた四肢を一瞥する。
(吸血鬼の血を摂取することで、血の魔術が目覚めたか。あまり使いたくない能力なんだが……)
シークは剣を拾おうとする。
ところが柄に触れた瞬間、指が蒸発してしまった。
血の魔術で作った指では聖剣に触れることができなかったのだ。
仕方ないのでシークは切り落とされた腕を掴んで断面に押し付ける。
血を糸に縫合し、どうにか繋げてみせると、今度は問題なく剣を握ることができた。
シークは同じ要領で残る手足も元通りに治していく。
一連の行動はとても悠長で、あまりにも隙だらけのようにも見える。
直前までのスピードが嘘のように緩慢としており、血の魔術に不慣れなシークは何度も失敗して手こずっていた。
しかし、生き残りの吸血鬼達はその間に誰も動かない――否、動くことができなかった。
シークの纏う禍々しい殺気に恐怖し、身が竦んでいたのだ。
「……よし、こんなもんか」
四肢を繋ぎ終えたシークは、軽く動かして問題がないことを確かめる。
そして、彼はだらりと脱力した。
剣を杖のように立てて身体を支えたかと思いきや、後方へゆっくり倒れ始める。
その際、彼の口が動く。
「――聖刃次式・裂」
仰向けで地面に触れる寸前、シークの姿が霞んで消える。
次の瞬間、周囲の吸血鬼の心臓が同時にくり抜かれた。




