第9話 前編
特大の刀による渾身の一撃が命中する寸前、シークは這うような姿勢から急加速した。
彼は回避しながら懐に潜り込むと、聖気を纏う刺突をガベルの胸に放つ。
「ぐぉっ!?」
ガベルは全力で上体を反らす。
それでもまだ足りなかったので、脊椎を砕いて無理やり躱した。
結果、刺突はガベルの胸部と顎を抉るも、心臓を捉えるには至らなかった。
(不死と再生力を活かした挙動……しぶとさは随一だな)
シークは真顔で追撃しようとする。
しかし、絶妙なタイミングで飛んできた血の球体が彼の右肩の肉を深々と削る。
「チッ……」
追撃を妨害されたシークは舌打ちし、球体を切断して消滅させる。
その間に距離を取ったガベルは、崩れ出した胸と顎を切り飛ばす。
ガベルは興味深そうにシークを見て指摘した。
「……貴様! 今のは聖気だなっ! 吸血鬼がその忌々しい力を使うなど、なんという冒涜だッ!」
「うるせえよ。敵を殺すのに手段を選んでいられるか」
悪態をついたシークは、剣を振りかぶった前傾姿勢になる。
空いた手を大地に添えて、全身に力を漲らせていく。
真紅の瞳に冷たい殺意を込めた彼は、呼気と共に言葉を吐く。
「――聖刃始式・廻」
刹那、ガベルの視界からシークが消えた。
赤い糸を切り進み、伸びる槍を打ち砕いたシークは最短最速でガベルに斬りかかる。
絶えず回転しながら繰り出される致死の連撃に、ガベルは血の刀で応戦した。
ところがシークの速度についていけず、あっけなく全身を切り刻まれる。
辛うじて軽傷に留めているものの劣勢なのは明白であった。
肉体を蝕む聖気を己の魔力で抑えつつ、ガベルは大声で叫ぶ。
「何をしている! 早く加勢しろォッ!」
配下の吸血鬼達は、結界を解除して一斉にシークへと襲いかかった。
ところが次の瞬間、彼らの大半の首が刎ね飛ばされる。
魔力感知で正確に位置を把握したシークの仕業であった。
シークは返す刃で残る配下を仕留めようとするも、血を吐いて動きを止める。
無茶な戦闘術で肉体に限界が訪れたのだ。
その隙を逃すはずもなくガベルが吼えた。
「今だァッ!」
残る吸血鬼達が血の糸を発射する。
糸がシークの四肢を切り落とし、首と腹部に大きな裂け目を作った。
胴体だけとなったシークは地面に転がる。
勝利を確信したガベルはそんな彼を見下ろして嘲笑った。
「ハハハ、無様だな」
シークは恨めしそうに睨み返す。
そして、ぼそりと呟いた。
「血が、足りねえ――」
胴体だけで飛び跳ねたシークは、無防備なガベルの首筋に噛み付いた。




