第8話 後編
背中を斬られたシークは歯を食いしばってよろめく
彼は抱えた子供をミラへ投げ飛ばした。
「安全な場所まで逃がせっ!」
「わ、わかった!」
子供を受け止めたミラは、身体強化を使った加速でその場を離脱する。
残されたシークは顰め面で振り返る。
そこには闇をローブのように纏う大柄な吸血鬼がいた。
夕焼けのような色味の双眸を輝かせて、その吸血鬼は顎を撫でる。
「大した反応速度だ。胴体を輪切りにするつもりだったんだが……」
「そいつは残念だったな。ガキを囮にして掠り傷だけとは、吸血鬼も質が落ちたもんだ」
シークは挑発混じりに笑う。
対する吸血鬼は余裕を崩さず、己の血で形成した刀を携えて名乗る。
「我が名はガベル! 族長ガベル・ファジオン! 貴様が何者かは知らん。だが、聖騎士に与して同族を殺す外道なのは間違いない。ここで死んでもらうぞ!」
ガベルが宣言した後、生き残っていた吸血鬼達が闇の結界でシークとガベルを包囲する。
退路を断たれたシークは、即座に剣を闇の結界に突き込む。
放射された聖気が結界を崩していく。
しかし、その力が広がる前にガベルが襲いかかった。
「我に背を晒すとは良い度胸だ!」
血の刀による斬撃がシークに打ち込まれる。
シークは剣を割り込ませて防いだが、押し切られて吹き飛ばされる。
地面を転がったシークは、剣を持つ腕を見やる。
衝撃に耐え切れず、手首や肘が折れて骨がはみ出していた。
徐々に再生する腕から視線を外し、彼はガベルを睨む。
(単純な膂力は向こうが上。しかもそれなりに戦い慣れてやがる。聖気で致命傷を与えるのが手っ取り早いが……)
仁王立ちするガベルの全身から無数の血の糸が飛び出した。
糸は付近一帯に固定されてシークの動きを制限してくる。
(血の糸の包囲網……大した魔力量と術の精度だ。さすが族長といったところか)
分析するシークが目の前の糸を薙ぎ払う。
その瞬間、切れた糸の断片が鋭利な槍となってうねるように伸びた。
穂先がシークの耳を掠めて血を飛ばす。
飛び退いたシークは冷静に観察する。
(なるほど、接触式の罠か。厄介な能力だ)
四方八方を糸に囲まれたシークは、剣を構えたまま立ち止まる。
そこにガベルが嬉々として突進した。
鍛え抜かれた巨体が進路上の糸をぶちぶちと千切り飛ばすも、シークの時のように槍の罠は発動しない。
それどころが糸の断片が集まって球体となり、高速回転しながらシークに迫る。
「わっはっはっはっはァ! 貴様にこの攻撃が防げるかッ!」
ガベルの血の刀が急速に肥大化し、大上段からシークへと振り下ろされた。




