第10話 前編
心臓を失ったファジオンの吸血鬼達が一斉に倒れた。
彼らは苦痛に喚きながら再生を試みるも、あえなく力尽きていく。
血を操る吸血鬼にとって、心臓は数少ない急所の一つだった。
息絶える吸血鬼を眺めるシークは、くり抜いた心臓を口に運ぶ。
牙を立てて噛み切り咀嚼すると、枯渇しかけていた魔力が満たされていく。
全身の傷も急速に癒えて万全の状態となった。
(人間より吸血鬼の血を好む同族喰らい……だいたい妙な性質を持ってて厄介だった。まさか俺自身がそうなるとは)
シークは軽く手をかざす。
すると、大地に撒き散らされた鮮血が不気味に蠢き出した。
鮮血はシークの意のままに動いてみせるが、唐突に制御できなくなって元の血だまりに戻る。
シークは近くに転がる吸血鬼の死体に歩み寄り、おもむろに人差し指を突き刺した。
付着した血を舐めると、再び鮮血が蠢く。
(吸血鬼の血を摂取することで、一時的に血の魔術が使えるようになるわけか。まあ性能的には悪くねえし、吸血鬼狩りにぴったりだな)
納得したシークは、ファジオンの吸血鬼達の死骸を漁る。
使えそうな装備や金目の装飾品を拝借した彼は、続けて渓谷を覗き込む。
巧妙に隠蔽されているが、シークは確かな魔力反応を捉えていた。
聖剣を握り締めたシークは深呼吸をする。
それから己の殺気を認識しつつ鎮めた。
衝動ではなく理性で行動できるよう律していく。
(……気配を殺しているが、それなりの数が潜んでやがる)
シークは膝を曲げて跳躍した。
彼はまっすぐに渓谷へと落下していく。
掲げた聖剣が神々しい光を帯びて輝いていた。
「クソッタレの吸血鬼どもは一匹残らず皆殺しだ」
宣言したシークは身体を翻し、岩壁を走り降りていく。
加速する彼の視線の先には、身を縮めて怯える吸血鬼がいた。
その吸血鬼はシークと目が合った瞬間、絶望に染まった表情で叫ぶ。
「う、わあああああああぁぁっ!?」
吸血鬼は背中を見せて逃げようとする。
そこに落下してきたシークが聖剣の上段切りを叩き込む。
頭頂部から股間まで真っ二つにされた吸血鬼は、臓腑をぶちまけて絶命する。
血を振り払ったシークは真顔で渓谷の底を見据える。
当主ガベルの命令に背き、保身に走った吸血鬼達が我先にと渓谷から脱出しようとしていた。
彼らは互いに蹴落とし合って少しでもシークから距離を取ろうとしている。
軽蔑を隠さず嘆息したシークは、残る獲物を狩るために駆け出した。




