第7話 前編
武器庫を出たシークとミラは、当主バリーから馬を借りて城を出発した。
開かれた門を馬に乗った二人が抜ける。
見送りの聖騎士はおらず、代わりに城の窓から遠巻きに眺めていた。
彼らの視線に込められた怒りを感じ取り、シークは肩をすくめて息を吐く。
(一方的にぶっ倒されたのがそんなに屈辱かよ)
二人は森の中の獣道を進んでいく。
途中、ミラはシークに尋ねた。
「シーク、次はどこに行くんだ?」
「ファジオン家の吸血鬼を殺しに行く。ハイドーンが壊滅した今、連中が暴れ出すのは目に見えている。余計なことをする前に叩き潰さねえといけない」
前方を睨むシークは忌々しそうに述べる。
ファジオン家はかつて吸血鬼の名門の一つであった。
しかしハイドーン家との闘争に敗れた結果、辺境の渓谷に追いやられている。
現在は落ち目にあるとは言え、ファジオン家の吸血鬼は実力者揃いだった。
一時はハイドーン家に比肩するほどの戦力を備えており、彼らの拠点である渓谷周辺は禁足地ととして有名である。
「ファジオン家は血の魔術の扱いに長けている。聖騎士の精鋭部隊でも奴らの領域にはおいそれと踏み込めない。私達だけで攻略できるのか?」
「問題ねえよ。真正面からねじ伏せる」
「シークは本当に自信があるんだな……」
「お前はもっと自信をつけろ。ハートン家の聖騎士だろ」
「君に負けて自信を失ったのだが」
「じゃあ俺に圧勝できるくらい強くなれ」
シークの言葉を受けたミラは、じっと己の手を見て考える。
彼女の横顔は、新たな覚悟を仄めかせていた。
◆
十日後の昼。
シークとミラはファジオンの渓谷の前にいた。
渓谷全域が闇で覆われており、内部の様子を窺うことはできない。
ミラは闇を観察して唸る。
「これはすべて闇の魔術か……?」
「日光対策の固定結界だな。吸血鬼が暮らしやすい環境を構築してやがる」
「結界を剥がすことはできないか」
「できるが時間がかかる。丸ごと破壊するのは現実的じゃないな」
馬を降りたシークは、手を伸ばして闇に触れる。
闇は液体のような質感で、触れた箇所を中心に波紋を広げた。
指を離したシークはミラに忠告する。
「気を付けろ。既に連中の縄張りに入っている。聖気で全身を保護しておけ」
「ああ、わかった――」
ミラが険しい面持ちで頷く。
次の瞬間、彼女の乗る馬の首が刎ね飛ばされた。




