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ここから話は急展開。

少女がずっと心配していた人の心中に触れていきます。そこから少女は何を思うのか?

「お父さん!? 何で私があそこにいるって知ってたの!?」

「……」

「どうして私を攫うの!? 私はお父さんにとって要らない子だったんでしょ!?」

「……」

「お父さん、何か言って。……何でもいいから話してよ!!」



 父がどうやって忍び込んだかは分からないけど、私を縛ると屋敷を飛び出していった。敷地から出るとそこからはただひたすらに私を担いで走っていった。


 はあはあと息を切らしながら無言で父は走る。


 その父に必死になって私が問いかけると父の顔が見る見る内にドス黒くなっていく。それに気付いて私は昔を思い出して怯えてしまった。



 父の顔がスラムの大人たちと同じに見えたからだ。



 私を蹴飛ばして殴って、憂さ晴らしのためにただ暴力を振るわれた日々を思い出して咄嗟に口にしようとした言葉を止めた。


 父は怯える私にギロリと睨みを効かせて走りながらブツブツと話しかけてくる。



「……お前だけは絶対に手放さない」

「だって私はお父さんにとって……」

「お前は俺のそばに置いておく」

「お父さんは私が死んでもいいんでしょ?」

「死んだら死んだで俺のそばに置く。……それをよりにもよってローレヌの屋敷なんかに行きやがって……」

「お……父さん?」

「お前は俺があの屋敷から奪ってやった唯一の戦利品だ!! そのお前を奪い返されて黙ってオメオメと引けないんだよ!!」



 初めて父に怒鳴られた。


 だけど怖くはなかった。どちらかと言えば私は戦利品と言われたことの方が悲しかった。父があの屋敷とどんな関わりがあって、何があったかは知らない。


 だけど父は私をモノだと言った。


 子供では無くモノ、父にとって私は所有物だったと知ってしまった。


 お父さんが私を奪い返しにきた理由は好きと言う愛情では無くただの独占欲だった。その事を知って私は声を殺して泣くしかない。


 それ以外にやれる事は無い。


 私の大切な人たちがドンドンと遠のく様子すら見る事を許されず、少しでも動こうとするとお父さんは力一杯私を締め付けてきた。



 項垂れながら私は必死に願った、ジャンヌ様、私を助けてと。


 小一時間は走ったと思う、お父さんは息を切らす事さえ忘れるくらい興奮しているのかとにかく走り続けた。するとそんなお父さんが急に足を止めた。


 私はもう諦めて泣くことさえ止めて脱力しながら地面を眺めているだけだったから、何が起こっても驚くつもりは無かった。だけど私を担ぐお父さんが小刻みに震え出せば、そんな私だって何があったのかと考えると思う。



 ふと視線を上げるとそこには一台の馬車が停まっていた。


 そして馬車の前にはお父さんを睨み付ける一人の男の人。年齢は多分お父さんと同じくらいだと思う。ピシッとした白の執務服に身を包んでその人は真っ直ぐお父さんを見ていた。


 ジャンヌ様を髣髴とさせる赤髪をオールバックでまとめた男の人は堂々と胸を張って父を威嚇しながら佇んでいた。



「ジョセフ、お前には二度と屋敷に近付くなと釘を刺した筈だ」

「くっ」

「そうすればマリーの件は不問とするとも私は言ったな?」

「ローレヌ侯爵……」

「その禁を犯せば何をされてもお前は文句を言えない、……そうだな?」

「アンタが、アンタがテレジアを奪わなければ俺は……!!」

「彼女は望んで私に嫁いだのだ。確かにテレジアはお前を気にかけていた様だが、それは幼馴染としてだ。その彼女の想いをお前は独占欲だけを理由にして一方的に汚すのか?」

「……俺は……俺は」

「テレジアが必死になってお前の助命を求めるから私の娘を攫ったお前を渋々許したと言うのに、お前は二度も私から娘を奪うのか?」



 お父さんは目の前の人をローレヌ侯爵と呼んだ。


 じゃあこの人はジャンヌ様とレオポルト様のお父さん? でもローレヌ侯爵はお父さんと知り合いみたいだし、会話の内容も私には良く分からないものだった。


 もう頭の中が状況についていけない。


 混乱する私をお父さんは気にも留めずずっと目の前のローレヌ侯爵に怒鳴り散らしていた。貴族を相手にそんな風に怒鳴って大丈夫なのかな? と思いながらも自分もよく考えたらジャンヌ様に凄く失礼な態度を取っていたんじゃないかと考えて何が正しいか分からなくなってしまった。


 するとローレヌ侯爵は小さくため息を吐いてから視線を落とす。


 お父さんに担がれて身動きが取れない私に優しく微笑みかけてくれた。私は初対面なのにどうしてそんなに優しく顔を向けてくれるのかが分からなかった。



「君がマリーだね? ジャンヌから手紙で報告は受けていたが仕事が立て込んでいて屋敷になかなか帰れなくてね」

「ジャンヌ様の……お父さん?」

「そうだ、そして君の本当の父だよ」

「違う……違う。マリーの父親は俺だ……」

「ジョセフ、お前は黙れ。……ふう、ジャンヌとマリーは双子でね、君は生まれて間もない頃にそこの男によって誘拐されたんだ」

「……え?」

「その男は自分の幼馴染が私に嫁ぐ事が気に入らず、その腹いせに私から大切な娘の一人を奪ったんだ。その娘がマリー、君だ」

「ジャンヌ様のお父さんが……私の本当のお父さん?」

「ずっと愛していたよ、ずっと抱きしめたかった。君の母、テレジアも死ぬ直前までマリーの事を気にかけていた、君は僕たちの宝だ」



 ローレヌ侯爵はとにかく優しい口調で私に話しかけてくれた。


 まるで私を怯えさせない様に、とにかく穏やかに。だけその内容は今の私にはとても信じられる様なものではなく、そのあまりにも衝撃的な内容に私は鈍器で打たれた様な感覚に陥っていった。

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