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本当の父が現れて育ての父を糾弾する、少女にとってこれほど苦しいことはない。真実は時として人を傷付けるのだと改めて思い知りました(´;ω;`)
ローレヌ侯爵は夜の闇の中で淡々と語り出した。
私のお母さんは元々お父さんと一緒にローレヌ侯爵の屋敷で使用人をしていたそうだ。二人は幼馴染で仲も良かったから周囲からは良く付き合ってるのでは無いかと揶揄われたらしい。
揶揄うと言っても仕事仲間の中のちょっとした挨拶程度のものだったからお母さんは特に気にする素振りを見せなかった。
だけどお父さんはそうじゃなかったらしい。
お父さんはお母さんの事が好きでいつか付き合いたいと考えていたそうだ。だから必死になって屋敷の仕事をこなして自分に自信をつけようとした。お金を貯めて、誰からも必要とされる人間になってからお母さんに結婚を申し込もうとしたらしい。
だけど肝心のお母さんにはお父さんとは別に好きな人がいた。
それがローレヌ侯爵だったのだ。
ローレヌ侯爵もお母さんの事は満更でもなかった様で、美しく聡明で真剣に仕事に取り組むお母さんを密かに慕っていたと言う。異性としてお母さんを見ていたと言う。
そして二人は惹かれ合うって当然の様に結ばれた、だけどその当時は屋敷の人たちには見つからない様に付き合っていたそうだ。
ローレヌ侯爵と言うよりもお母さんの方が二人の関係を隠したがったそうだ。ローレヌ侯爵は貴族でお母さんは使用人、それは側から見れば主人が使用人に手を出したと思われかねない。
お母さんはローレヌ侯爵に向けられる世間の目を気にしたのだそうだ。
だけど二人が愛情を深めるほど当然、結果は付いてくる。お母さんはローレヌ侯爵の子供を身籠ったのだ。
それがジャンヌ様と私。
当の二人からすれば当たり前の様に嬉しい事、それだけでは無くお母さんの心配をよそに屋敷の人たちもすんなりとその事実を受け入れて祝福してくれたらしい。
一人を除いては。
それがお父さんだった。
お父さんはずっと両思いだと信じてきたお母さんの妊娠が発覚してショックを受けてしまった。それも二人は気を遣って事実を伏せていたから尚のこと許せなかったのだそうだ。
二人の関係を知ってお父さんがお母さんのためにと必死になって積み上げてきた自信は脆くも崩れ去ってしまったのだ。それだけでは無く信じていた女性から裏切られたと思うようになってお父さんは赤ん坊だった私を攫って屋敷から飛び出していってしまう。
当然ローレヌ侯爵はお父さんと攫われた私を必死になって捜索する。
だけどお母さんは幼馴染に私を攫われた悲しみを必死に抑え込んでローレヌ侯爵に頼み込んだと言う。大粒に涙を流して「許してやって」と幼馴染であるお父さんを庇ったのだそうだ。
そしてお母さんもまたそれが心労となってその数年後に命を落とす事になる。
この話の全てを私は実の父だと言うローレヌ侯爵の口からお父さんに担がれながら聞くこととなった。その説明に時間も忘れていた私だけど、ジャンヌ様とレオポルト様の私の名前を呼ぶ二人の声に気付いた。
二人は屋敷から居なくなった私を探してくれていたらしく、血相を変えて近づいてきた。二人は私の姿を確認してホッとした様子で息を整える。
私は今、どんな表情を浮かべているのだろう?
全ての真相を知った私はジャンヌ様にどんな顔を見せられるだろうか?
「……お姉ちゃん?」
「マリー、無事で……本当に良かった……」
「って、父上!? どうして父上がここに居るんだよ!? そもそもこの状況は一体何だってんだ!?」
「仕事の目処がついたから屋敷に帰るところだったんだ。そしたら職場を出る前にちょっと良くない報告を部下から受けてね」
「父上、それは一体どう言う事ですか?」
「ジャンヌ、お前にはマリーがお前にとって双子の妹だと言う事は教えたね?」
「……はい。だから私はずっとマリーを探し続けたんです」
え? ジャンヌ様は最初から私の事を知ってたの?
「うん、お前には親としてずっと寂しい思いをさせてきた。だから私もそれに関してはずっと黙認してきた。そもそも私自身がずっと会いたいと願った実の娘のことだ、止める理由も無い」
「この一年間、私はマリーを探しました。だけど何処を探しても私が会いたいと願った妹は目撃情報どころか噂すら届いて来ないんです」
「私もまさかジョセフがスラムにいると思わなかったからね。それは仕方がないだろう」
「たまたまです、本当に偶然だった。マリーが私の目の前に現れたのは奇跡でした。その時は一年間血眼になって探した妹の方から私の胸に中に飛び込んできてくれた心地がしたんです……」
「ジャンヌ様あ……」
ジャンヌ様の言葉はきっと本音だ。
それくらい確認しなくたって分かる。だって今のが本音じゃないと最初からおかしかったんだから。いくらジャンヌ様が優しくても彼女は初対面の時から私を好きでいてくれた。
私は必要とされて有頂天になっていたけど、今になって思い返すとアレはそれくらいの理由がないと不自然な事だ。普通の貴族はスラムでたまたま出会っただけの私を屋敷に招く筈がない。
「ジャンヌ、お前は先日お城の社交界に参加したね?」
「はい、それが何か?」
「そこでマリーとぶつかったご令嬢がいた筈だ、そのご令嬢がジョセフに接触したと言う報告が入ってね。だから嫌な予感がして私は急いで戻ってきたんだよ」
ヒロインの事だ。
だけどヒロインは貴族令嬢なのに、どうしてスラムにいた筈のお父さんと会うの? あそこは貴族には縁がない場所、とにかく汚くて不衛生で治安だって良くない。
逆に貴族からすれば絶対に近づきたくない場所の筈。
それがどうしてヒロインはお父さんと会おうと思ったのだろう? それにどうやってヒロインはお父さんと知り合ったんだろう?
だけどこれだけの情報の整理なんて出来る筈もなく私は混乱してしまった。
だって一度に色んな事を知りすぎてしまったから。もう頭の中がパンクしそうになって私はお父さんに担がれながら頭を抱え込んでしまった。
そんな仕草を見せたからかな?
ローレヌ侯爵は私の様子から色々と察してくれた様で、何処から説明しようかと困った様に呟きながら丁寧に説明してくれた。私の本当のお父さんと名乗るローレヌ侯爵は出来るだけ穏やかに、それでいてゆっくりと丁寧に話していってくれた。
「マリー、ジョセフはね、お前がお父さんと呼ぶその男はお前を貴族に売ろうとしたんだよ。まあ正確には奉公に出そうとしたみたいだけど、私に言わせれば大切な娘を奪っておいてそれは無いだろうと思ったよ」
「……え?」
思わず声を漏らしてしまった。
それはやっぱりお父さんにとって私が要らない存在だと言う事だ。嘘だと信じたいけどローレヌ侯爵の声が震えている、ローレヌ侯爵は本当に怒っている。私に優しい視線を向けてくれたかと思えばお父さんには一目で分かるくらいに恐ろしい目付きを向けるのだ。
これだけでバカな私にもそれが真実だと思えてしまう。
「私の娘を攫った事でまともな職にも就けず、ずっと極貧生活だったから苦肉の策だったのだろうがまさか自分が愛した女性の子供をそんな風に扱うとは。ジョセフ、お前にマリーの父親を名乗る資格はない」
「お……父さん?」
「ち、違う……」
「何が違うものか、お前と接点を持ったご令嬢の実家は一年前隣国から亡命してきた他国の貴族。だから懐も寒いし、使用人を探すアテもないはずだ。お前はそう言う事情につけ込んでマリーを雀の涙程度の金に変え、一時の空腹を凌ごうとしたのだろう? 先方のご令嬢にはマリーの素性を明かしてフランツ殿下との接点になると吹聴までしたらしいな?」
ローレヌ侯爵はお父さんをもの凄い迫力で捲し立てるからお父さんも言い返す事も出来ない。だけどお父さんは必死になって何かを主張する。
と必死になって首を振って何度も「違う」と繰り返した。
「違う違う!! 俺は……俺はマリーに幸せになって欲しかったんだ!!」
「……聞いたぞ? 収入が入ってもお前は酒を買うだけでマリーには何も与えなかったそうじゃないか。マリーには万引きで飢えを凌げと教えたらしいな?」
「違う!! 俺もこんなボロボロのナリだから店で何かを買おうと入店しても煙たがられて追い出されるんだ!! 相手にしてくれるのはスラムの闇市くらいで、その闇市に出回る食べ物なんて工業用のアルコールだけだった。だから体が小さくて店員に見つかりづらいマリーに万引きをさせた方がいいと俺は……」
「何方にせよお前はクズだ、これ以上お前にマリーを任せてはおけん。私の大切な娘はやはり私が育てる、それともお前にこれからもマリーを育てられる保証が何処かにあるのかな? 工業用アルコールの飲み過ぎで失明しかかってるのだろう?」
「そうさ、俺はクズだ。それくらい言われなくたって分かってる。アンタの言う通り最近は目もまともに見えなくなって可愛いマリーの顔が……俺の大切なマリーの顔が殆ど見えないんだよ!! だったら何処か貴族に奉公させた方がマシだと思ったんだ!!」
もうダメ。
必死になって堪えていた涙が止まらない。お父さんが私を「大切な娘」だと言ってくれた。お父さんの考えは私から見ても歪んだものだと思う。決して誰からも肯定されない考えだ。
だけどお父さんは私の顔を見たいと言ってくれた。
見えない事が辛いと叫んでいる。
私は最初からお父さんに愛されていたんだ。例え他人がどう思おうがお父さんはやっぱり私のお父さんなんだ。この人は私を娘だと思ってくれている。
お父さんは苦しむ様に頭を抱え込んで膝を突いて泣き出した。私を担いでいたお父さんの手が離れていって私は無造作に地面に落とされた。
ジャンヌ様とレオポルト様が私に駆け寄ってくれる。
だけど私は顔を上げられなかった、だって二人に涙でグチャグチャになった顔なんてとても見せられないから。
やっと分かった。
私は最初から一人ぼっちじゃなかったんだ。私はお父さんの隣にいて良かったんだ。
だけどローレヌ侯爵の怒りはやっぱり本物だったみたいで、お父さんを蔑んだ目で見下して言葉を吐き捨てていた。それが何を意味するのか、私にも簡単に想像が付く。
「ならば私の屋敷に置いておけばいい。それこそがお前の考えたマリーの幸せの筈だ」
「やっぱり嫌なんだ!! マリーがいないと俺が寂しいんだよ!!」
「お、お父さん……」
「クズが、結局は己の独占欲を優先させる事しか頭にないのか。やはりお前はダメだ、お前はこの場で拘束して然るべき裁きを受けて貰う。無論、テレジアを苦しめた件も含めてな」
私はローレヌ侯爵の怒りがどれくらい深いかなんて分からない。簡単に分かりますとも言えないけど、それでも一つだけローレヌ侯爵に伝えたい事が出来た。
それは生半可な気持ちじゃない。
お父さんを助けたい、それが私の今の本音。
私はそれを伝えるために地面に頭を擦り付けてローレヌ侯爵に土下座をした。




