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六十八話

 ライアスには才能があった。それは人心掌握術に長け、時が戦乱の時代であったのなら指導者として歴史にその名を残すだろうと周囲に囁かれる位には。


 優秀である事に越した事はない。裕福な生活が出来るのも見合うだけの収入が必要であり、才能がなければ人に使われるだけの人生となるだろう。


 ライアスは帝国民としてその富を甘受してはいたが、不満があった。


 皇族や貴族家に生まれるだけで才能とは関係無しに人より良い暮らしが出来るのには納得していなかったのだ。


 ライアスは身分制度に対して強い不満を持っていたのだ。ライアスの成績であれば、士官学校出のエリートとして中央作戦本部でその辣腕を振るう事も出来た筈だった。


 だが、配属された部隊は成績に見合うものとは言い難かった。その事に不満はあるが軍内で出世するためには、結果を出すしかないのだと自分を慰めた。


 大した戦功があるわけでもないのに順調に出世していく、同期を傍目にライアスは自身の指揮する部隊で結果を常に出し続けた。


 同期の中で准将に出世したのはライアスだけであり、同期は大佐止まりであった。身分制度を変える為には自分の国を作るか、帝国内で権力を握るしか無かった。


 共和国に亡命するには共和国兵を殺し過ぎていたし、ライアスのとれる選択肢はそう多くは無かった。


 これ以上の出世は自分の命を危険に晒すとライアスは理解していた。


 将軍と呼ばれる准将の地位で退役すれば後の生活に困る事は無かっただろうが、ライアスが求めているものとは違う。


 帝国内には敬虔なオリエンタル教信者が多かったが、世界を創造したオリエンタル神は確かに偉大な神なのかも知れないが、神などと言う目に見えないものを盲信する気にはなれなかったのだ。


 現実主義者でもあるライアスは別の道を模索しようとしたが、それを皇帝は許さなかったのだ。


 叛意があると判断されれば処刑を免れる事は出来ない。ライアスとてそれは同じだ。


 戦上手であった為に皇帝のお気に入りとなる事が出来たが、それも勝ち戦であるうちであると理解していた。


 上級大将となればライアスの夢は一歩近づくだけであって強大な帝国そのものを変える為には、共和国で立身出世するしかないのだから、ライアスは閉塞感を隠せ無かった。


 帝都を出てから何度、政治亡命を行おうかと迷ったのだ。だがライアスがした決断は変わらない。自身が生き残る為にランスカ王国を攻める。


 今回の作戦で多くの者が死ぬだろう。作戦は既に取り返しのつかないところまで来たのだ。部下に命令を下し、闇へと紛れていた。


 王城へと侵入する経路は既に確保済みだ。腹心である大尉も宿屋で遅延作戦をしている筈で、後は突入するだけだ。突入した時に王都に光が降り注いだ。


 ランスカ王国の宮廷魔法師が総動員されて行われた王国最強の守護魔法【ペンタグラム・ガード】が発動したのだ。


 ----


 ランフォードは難しい決断を迫られていた。王族を王都を確実に護るためには戦力が幾らあっても足りない。


 死兵が一人でも居るだけで難易度は格段と上がる。王城には許可の無い者は侵入できないが逆に言ってしまえば内部の手引きがあれば侵入する難易度は格段に落ちるのだ。


 もし登城する許可を得た者が暗殺者だった場合を想定しての訓練を欠かした事はないが、絶対は何事に対してもないと考えている。


 ランスカ王族のみに継承される血統魔法【ブラット・ヘキサグラム・ガード】は護りに秀でた魔法だが、それには多くの魔力を必要とし、ランスカ王国の政務は滞る事になるだろう。


 ランスカ王国では最終的な栽可はランスカ王のみが成せるのだ。王族複数人による特殊魔法であり、範囲は王都周辺に限られるが効果は上級魔法を遥かに凌ぐ。


 ランフォードの職務はあくまで王族を護る事だが騎士となったのは民を護るのが貴族としての務めであるからだ。


 しかし、騎士になるのは家督を継げない次男以降のみ。ランフォードが特殊だとも言える。


 ゴドラム公爵家の分家筋であり、血筋としては王国の騎士を統べるのには問題が無かった。


 竜人として強靭な体を持ち幼い頃から騎士になるべく厳しい特訓をしてきたのだ。王都守備隊へと志願し、国民の平和を護ってきたのだ。


 門兵から始まり、守備隊長へと出世した。守備隊長には騎士への道が開かれる。


 騎士の資格を得るのには、例外を除いて試験を突破しなくてはならない。試験を免除されるのは素行調査を通ったBランク冒険者のみ。


 実力は確かであり、有事の戦力としてこれほど頼りになる存在はない。


 体力試験に加えて行われるのは、模擬剣を使用した模擬戦。歴戦の兵士から訓練を積んでいる従士・新米騎士。


 果ては隊長として実戦を積んだ騎士。最低でも中級から王級剣士・槍士・盾士と幅広い。


 幾ら幼い頃から訓練することの多い貴族の子弟でも突破するのは困難になるのは職務上、仕方がないことだ。王国の剣であり盾でなくてはならないのだ。


 ランスカ王国は人種国家と関係は御世辞にも良好とは言えないのだ。


 亜人を差別するのが当たり前とされる世界で主義主張を押し通すには力が必要となるのだ。


 教国を筆頭とする亜人排除派。それに帝国を相手にするのには種族を越えた力が必要となる。


 だから王国は強いとも言えるし敵を作っている。力だけでは解決できない事も多いが、力無くては誇りも財産も命も守れないのは純然たる事実だった。


 だからこそ、ランフォードは不敬を承知で王に進言したのだ。民の血は無用に流すべきものではないのだ。王はランフォードを咎めなかった。


 何故ならば王が一番考えなくてはいけないのは民の事であり、王は帝国に対して強い憤りを感じていたのだ。


 建国以来、多くの血が流れていた。差別に対抗するためにランスカ王国に保護された民を巡って幾度なく国境紛争が起きていた。


 人種であれば帝国はランスカ王国の兵であっても捕虜交換に応じる。それが亜人だった場合、例外無く奴隷となり再び祖国の地を踏む事は困難になる。


 王国が帝国の手に落ちれば、国民の多くは過酷な現場で使い潰される事になる。許せないのは偉大な主君である王が負ければ処刑されることだ。


 そうすれば、人種と亜人は再び血を血で洗う抗争へと進むことになるだろう。


 血は大地へと染み忌み嫌われた土地から加護は失われ、作物が育たなくなるだろう。そうなれば欲深い人種は限られた土地を巡ってまた再現の無い争いを止めることは出来ないだろう。


 負の連鎖は誰かが止めなくてはならない。それならばランスカ王国がやるしかない。ランスカ王に野心があれば大陸を支配する事を選んだだろう。


 だが、建国王アレキサンダーの意思を継ぎ融和の道を探る事を止めない事を心から尊敬しているのだ。ランフォードは王城の護りを固める誇り高き騎士と王都の守備を固める守備隊へと命令を飛ばす。


「敵の侵入を許すな。我々は誇り高き王国騎士。王の盾となり民を護り、王の剣となり、敵を倒せ。我々が倒れる時は王国が無くなる時。決して屈する事は許さない。死を恐れるな。誇りを汚される事を惜しめ」


 近衛騎士は隊に別れて行動する。中央に所属する騎士団の招集を既に済ましている。


 王国の対応は後手に回っていたが、戦力を中央に集める事を忘れてはいなかった。


 南・西騎士団の戦力を引き抜き防御を固めるのは当然のことだった。戦闘の為に民を避難する時間は無かった。


 そうでなければ、王都へ結果的に敵を誘い込み不利な状況で戦闘を行う必要も無かっただろう。


 王城は王都の中央に位置しており、国の代表であると同時に国の誇りだ。


 中央から戦力を順次投入する愚を犯さない為にも敵の規模を把握しなくてはならない。


 宿屋に派遣した部隊が、敵部隊を制圧できないと危険は王都全体に及ぶ事になる。


 ゴドラム公爵家の竜騎隊は殆んどがダリル平原へと移動しており、フォーレン子爵家の一部が駐留しているだけだ。


 本来であれば如何なる戦力も王の許可なしに戦力を持ち込む事は出来ないが、王の勅命となれば寧ろ王都を守護することは誉れである。


 ランフォードは王都の護りを固め、攻勢に移る機会を得たのだ。


 王都で攻防戦が行われるのは不本意であったが、ここが分水嶺である事は明白であった。騎士はその為に厳しい訓練を行ってきたのだ。


 その真価が問われようとしていた。


 ----


 宿屋を取り囲んだ騎士達は手を拱いていた。敵は帝国の将軍なのだ。


 数はこちらが優位であるとは言え、何があるかは分からない。帝国の制式採用されている銃は脅威である事には違いはない。


 魔法は誰にも使えるものではないが、強力であり、魔法師は剣士や槍士より火力がある。


 兵は質も大切であるが数も必要なのだ。才能に左右されない銃士を育成に力を入れてきて数を揃えた事が、帝国が大陸の覇者である所以だ。


 侮ることで痛い目を見てきたのが、この大陸の状況を示していたのだ。


 王国騎士の権限を以て封鎖しているために横槍が入る事はないが、時間をかけて良いものでもないのだ。


 出口を固める騎士にも不安や緊張感が漂っているが覚悟を決めた騎士達の動きは悪く無かった。


「従士達には王都の警戒を促せ。不審人物は問答無用で捕縛だ。王の許可はある。遺漏なく遂行させよ」


 緊迫した中でも、普段通りの動きをする従士達に満足している。帝国兵に動きはないが、突入することで事態を収拾することの難しさがある。


 ここに敵兵を閉じ込めたことにも意味はあるが、解決には至らない。


 外部からの侵入は【ペンタグラム・ガード】が発動した事で難しくなったが、それを上回る力があれば、破る事は不可能ではないのだ。だからこそ、王都では厳戒体制が敷かれているのだ。


「突入は如何なさいますか」


 犠牲を覚悟すれば、数で勝る王国騎士が負けるとは思えない。アナキムは決断しかねていた。


 近衛副団長として決断しなくてはならないが、部下達も貴族であるのだ。


 敵を倒すには犠牲が必要でそれが貴族の子弟であった場合には、それほど実家の爵位が高くないアナキムは配慮しなくてはならない。


 士爵家や男爵家出身の近衛騎士が危険な突入の先頭に立つ事になるのにはそういう理由があった。


 貴族からしてみれば王国の為に死ぬのであればそれは名誉な事であったが、無駄に死ぬ事は許せないのだ。


 死ぬのであれば戦場で、それが貴族の体面を守る為に必要なのだ。子爵家の三男が近衛騎士の副団長になるのは、並大抵の事ではない。


 このまま退役すれば一代限りの準男爵になれるのだ。地位が出来た事で保身の為に行動せざるおえないのは本末転倒ではあるがそれが現実である。


「突入はまだだ。銃を持った狙撃兵をどうにかしなければ、王都に平穏は訪れない」


 結果的に問題の先送りでしかないのだが、決断できないのもまた(しがらみ)がある以上は単純には済まない。


 冒険者であったのなら実力で排除していただろう。守るべきものがある者と後がない冒険者の違いとも言えたが、王の守りがそれでは安心できないのは王都民だ。


 帝国の侵略が発表され義勇兵が募られてから王都を脱出して比較的に安全な南に逃げる民を歯痒い気持ちで見るしかなかったのは王やランフォードだけではない。


 騎士を目指す従士達にとっても激震とも言えることだったのだ。


 巡回する兵達は気が立っていた。王都が蹂躙されるのは自分達が舐められているからだと感じているのだ。


 王都民に危害を加えるつもりは兵達にも無かったが、疑う心が、道行く人を帝国兵に見せた。王都民もそんな兵達を遠目に見ていたことが裏目に出た。


 帝国兵とスパイと勘違いされた者達が衆人環視の中で捕縛され、抵抗した冒険者が騎士に切り捨てられた。


 それには王都民も驚いた。騎士は貴族が多く、守備隊にも貴族の子弟が多いとは言え王は民を大切にする賢君として有名なのだ。


 貴族の横暴を決して許さず、安心して暮らせる世を築こうと努力してきたのは王国民であれば誰でも知っていた事だ。


 騎士も職務の一つとして切り捨ては許可されているが、王都ではここ数年は裁判による処刑はあっても騎士の判断によって一方的に裁かれる事はなかった筈だったのだ。


 王都民の心と王を始めとした貴族との心に溝が出来た瞬間でもあった。王都民が通報する事で事件を未然に防ぐ事が出来るのだ。


 この事は犯罪を助長する事にならなければと思う王だが、先ずは帝国軍を国内から排除しなければ話にならないのだ。


 確かに抵抗する帝国兵を排除できたのなら良かった。だが無実の民を切り捨てたことが本当に王国の為になったかと言うと疑問である。


 国とは民がいなくては成り立たないのだ。器だけあってもそこに住む人がいなければ只の土地でしかない。


 国と言う組織に所属し、結束する事の利点もあるが欠点もあることを理解しなくてはならない。


 ランスカ王国で言えば、国と言う形で纏まる事で種族を超えた結束をみせ、外敵に毅然たる姿勢を示してきた。


 だが、結束の前には王を頂点とする王政をとらざるおえなくなり、種族での差別は廃したが、貴族か平民かと言う身分差を残した歪な制度を採用しなくてはならなかった。


 更に先進的な考えを共和国を持っていたが、身分制度が資本主義に変わっただけである。


 それでもかなり進んだ考えであるが、稀人(プレイヤー)が出現した事によって変化を問われる事になる。


 王都防衛戦には関係のないことかも知れないが人知れず力を得た稀人が胎動する事は変化を望む者からしたら歓迎される事である。


 たが、王都民による反乱が無かっただけ理性的であると言えた。


 帯剣が許されているとは言え、抜剣すれば守備隊に捕まる事は王国法に明記されていることであり、国民には周知されている。


 明文法としているのは共和国のみであったが、魔物が出現する為に国民には武装する権利をどの国家も与えるのが常識であり、帝国ですら軍隊の組織は認めていないが、属国民にも自衛のための最小限の武装を認めていた。


 後に王自ら失策を認め綱紀粛正に努めたが信頼の回復には時間がかかり王国民も帝国の扇動によって集団行動を行おうとした経緯もあり、気まずかったと言われている。


 ----


 帝国兵でありながら敵前逃亡をした二人は、慎重にランスカ王国の王都を目指していた。


 王国民と帝国民の服装は似ているが、二人は作戦行動中であった為に帝国軍の軍服を着用していた。


 敵対国となった今では問答無用で殺害されても文句は言えないだろう。


 戦争をしており、二人は今回の帝国軍の陣容を知っていたが、それも士官ではない二人には全てを知る事は叶わないことだった。


 ライアスが王都入りをしたことで指揮官が判明したが、戦において総司令官は戦争の結果を左右するほどの情報であり、高度な情報戦は未だに行われていなかった。


 情報の重要性を理解しない指揮官では部隊に待っているのは破滅でしかない。


 一応、制式銃を完全には手放してはいなかったが、諸刃の剣である事を二人は理解していたからこそ放棄できなかった。


 政治亡命者と認められる為には亡命者に価値が無くてはならない。


 マルタが軍で狙撃兵として従軍していた経験は無駄ではないのだ。銃の性能が分かれば戦術で対抗する事も可能となるだろう。


 狙撃手(スナイパー)を排除するのには、狙撃手の事を理解している狙撃兵に任せるのが効果的である。


 皮肉な事ではあるが祖国があった時には二人共に騎士であった。


 森の中を駆け巡り敵兵を排除するのは兵の仕事であったが祖国が占領された後では彼等こそが一般兵として雑用から何まで強制されてきたのだ。


 水があれば人間は驚く程に生存できる。当然、逃亡者である彼等は帝国軍から逃げ、王国兵に見つからない様に王都まで辿り着かなくてはならない。


 王都に入るには必ず門兵に尋問されるために二人に必要なのは、王都まで生きて逃げる事であり、運に将来を託す事になるのは不本意であったが、亡命をするためには必要な事だった。


 森の中で獲物を得て、食べられる植物を探す。サバイバル訓練も帝国の新兵には必ず課せられ突破しなくては、兵になる事も出来ないのだ。


 二人は幼い頃から武芸を学び魔法を習得してきた。実力的には初級魔法師の上位と言ったところだが、二人が狙撃の為に魔法を使用するのは生き残る為に必要な事であったからだ。


 ライアスは有効な手段であれば帝国で忌避されている魔法を使う事も厭わない。優秀な二人がライアスの指揮下の軍に入るのは必然の事だったかも知れないが、優秀であるが故に帝国民の兵から嫌われて嫌がらせを受けていたのだ。


 祖国を復興させる事は砂漠で一粒の砂粒を探すよりも困難な事ではあったが、誰かが成さなければならないことでもあった。


 帝国の支配から独立を果たした属国は未だに存在していなかったが、不可能に近いが、絶対に出来ないと考えていなかったのだ。


 どこかの国一つでも独立すれば虐げられている属国は挙って反旗を翻すだろう。


 敵の敵は味方の理論で共和国の援助を得られる可能性は零ではない。


 それよりも明るい未来が約束されそうなのが帝国の侵攻を幾度となく跳ね返してきたランスカ王国であり、属国に対する直接の支援はできなくとも現状で難民となった国民を受け入れを行っているだけで救いとなっているのだ。


 帝国民が密入国できるほど監視は甘く無いために地理に詳しくはない二人だったが、道を見れば王都への道は分かる。


 人里離れた場所から人目を避けて王都に辿り着く事は困難であったが、二人に既に帰る場所はないのだ。


 微かな希望に縋って二人は王都への道なき道を歩いていた。

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