六十二話
【兵士互助会】、それはランスカ王国軍兵士、領主軍を退役した兵士からなる組織でその役割は戦傷者や退役者の軍を辞めた後の生活を助け合う為に創設された。
この世界の一般人の平均レベルが十未満または十台前半なのに対して兵士は一般兵でも二十台後半、騎士となった者達に至っては三十台後半である。
戦う術を持った老兵はランスカ王国の未来を憂いていた。
東部で起こった大暴走の噂は軍に伝手のある者には公然の秘密となっていた。
クライン伯に対する信頼は高かったが、東部開発の失敗を親の世代から聞いていた為に甚大な被害が出ると誰もが危惧していた。
魔物による被害は他人事ではない。近しき者を亡くした者は掃いて捨てる位にはいるし、戦友を亡くした者も多い。
王の公布によって帝国が侵略してきたのも問題であった。国境線の小競り合いは数十年に渡って行われており、精強な軍に護られていても絶対はない。
ランスカ王国民の精神的な支柱であるコロナド砦が落ちているとは知る由も無かったが誰もが戦乱の時代が訪れる事を予期していた。
一人の男は、焼け落ちた村から何とか逃げ延びていた。元兵士として生きた男は人を殺した経験を持つ。
魔物との戦いも幾度となく潜り抜け無事に退役し、家を持ち生活していたがそれも突然、終わりを告げた。
村は魔物に襲われ同じく元兵士と戦い男だけが生き残った。畑を耕し、農民と生きるのは厳しい。
税は高く、不作となれば身を売らなくてはならない。たが戦場とは違い安らぎがそこにはあった。
男は剣を捨て鍬をとってからも狩人として生活した。肉は貴重で獣以外にも魔物を食べるのは多くは平民である。
教国では禁忌としていたが、生きる為には綺麗事だけでは済まない。
抵抗値の低い老人や子供には魔物の肉を食べた拒絶反応で死ぬ者もいたが、解体スキルを持つ職人によって捌かれた肉は死亡率を下げる事に成功していた。
狩人として当然、男は解体スキルを持っている。食べられる物は何でも食べる。
食用にできる野草の知識は子供でも持っており、長年、住んだ土地の植生は把握していたが、魔物が多く悠長に採取している時間はなかった。
一体や二体なら問題なく狩ることは出来るだろう。ゴブリンやボブゴブリンしかいないのだからいくら衰えているとはいえ勝てない相手ではない。
しかし、数が多すぎた。粗末な武器しか所持していなくても戦えない者を庇いながらでは戦いの心得のある村人達は徐々に押されていったのだ。
ゴブリン達が火矢を使うとは思っていなかった。村の建物の殆んどは木の枠組みに植物で風を防ぐ簡易的なものだ。
煙によってまた一人と倒れていき、煙にはゴブリン達が使う毒が含まれていたのだと思う。
男は気配を絶ちながらゴブリン達が潜伏していた森から去っていくのをじっと待った。
そして生き残った多くの元兵士達がそうした様に村に戻らず、都市へと移動し始めた。
同じ境遇にある元兵士達が集まるのと考えたのと村に生き残りがいるとしたら壁で覆われている街の方が安全でそこには領主軍と街の有志からなる自警団という防衛力があるからだ。
男は歩みを止めない。魔物に対する復讐を心に秘めながら。
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再ログイン出来る様になるまで宙人は睡眠をとって起きたのが今だった。
軽くストレッチをしてからお湯を沸かしてコーヒーを飲む。仕事をしていた時の名残だがミルクは入れないで砂糖だけを少し入れる。
その方が寝覚めが良い気がしている。テレビをつけニュースを流し見ていた。
「こちらが今回の通り魔事件で三人が犠牲となった現場です。犯人は逮捕されましたが、依然とて黙秘を続けており、検察は犯行現場に残っている物証と被害者の証言で殺人罪で起訴する事になりそうです」
物騒な世の中になったものだ。人が人を殺すのには憎しみだけで良いらしいが、高度な科学技術を持ち、宇宙へと進出しようとしている今になっても人は人を殺すのを止める事は出来ないらしい。
親が子を殺す犯罪もまた後を絶たない。
気分が悪くなったのでチャンネルを変えてドラマを流し見ていたが、先週放送分を見ていないので話が全く分からなかった。
朝早く夜遅くに寝ると言う習慣がなくなってからは少しだらけ気味に思えた。ここ数ヵ月で五Kg以上肥った。
VRゲームの中で運動しても現実の体は寝ている為に痩せる事はない。
多少のカロリーは消費しているようだが、寝ているより少し多く消費しているに過ぎないというのが公式発表となっていた。
現実世界の達人がVRゲームの中でも達人でいられるのとは限らない様にVRゲームの達人が現実世界での素人になるとは言い切れないというのが最新の情報である。
人の反応速度を上回る事もゲームの中では珍しいことではない。あくまでも疑似的なものだが、リアルさを追求するゲームは多い。
第二の現実を謳っているセカンドライフ系はその代表格である。
まだMWOだけでは生活は出来ない。GGOのそう多くはない資産を削りながら何とか生活しているのが現状だった。宙人は将来に不安を感じながらもログインすることにした。
「リンクスタート」
起きたのは防衛に参加している冒険者に貸し出されたギルド宿舎だ。
普段はポートロイヤルに家を持たないギルド職員の為に福利厚生の一つとして相場価格より低価で貸し出されている。
ギルド職員と言えば領政に関わる文官に次ぐ人気職の一つだ。確かに日々、魔物と戦う冒険者を管理するギルド職員は危険が多い。
しかし、それは壁に覆われた街に住んでいてもそう大差はない。寧ろ確かな実力を持った専属冒険者に護られるギルドにいた方が安全だろう。
住民の護衛が本来の任務だが専属冒険者もギルド支部に待機しており、エバンスに代わって戦闘指揮を執っていた。
専属になるチャンスだとCランク冒険者達の数人も街の中で戦っている。
王級を除けば今のところギルド脅威Cランク以上の魔物が出てきていないこともポートロイヤルにとっては幸運だったが、それも必死に抵抗しているアンデスとクルト村の存在があってこそだ。
「ここにいたのか。武器の補修は既に完了している。済まないがミスリルの短剣は俺の手に負えなかった。師匠が責任を持ってメンテナンスしてくれたから心配するな」
最大耐久度を減少させつつも短剣はまた鋭い輝きを取り戻していた。
何れは鉄の短剣の様に折れてしまうだろう。鉱石だけで鍛えられた武器は魔物の素材を混ぜ鍛えられた武器よりは強度は弱い。
ミスリルやアダマンダイトと言った武器は硬度を高める為に熟練の技を必要とするが、鉄から始まる鍛冶師の修行は長く険しい。
武器だけで勝てるものではないが、人と武器は対等なものだ。
剣聖カイトが持てば鈍らの剣でも多くの屍を築き上げる事が出来るだろう。逆に幾ら名匠が鍛えし名剣でも武の心得のない素人が扱えば、屍を晒すだけである。
ソラが持つ短剣はタイラーが鍛えたものとはいえ無銘でしかない。
魔の血を多く浴びた剣は力を宿す。低ランクとは言えアントを多く斬った短剣は変化の兆しを見せていたが、ソラは知る由もない。
土の属性に染まる兆しを見せているミスリルの短剣もまた汎用性を失う代償としてオーラブレイドの修練度を上げていた。
レベルを上げ、魔物との戦いに慣れていたソラには油断はない。何故ならエバンスにつけられた修行は常に死と隣合わせだったからだ。
ゴブリンと戦いボブゴブリンと戦った。ポートロイヤル周辺の魔物ではもの足りなくなっていたところでソラは亜竜人の巣へと蹴り込まれたのだ。
リザードマンは魔物扱いされる亜竜人と亜人扱いされる蜥蜴人に分かれている。
その関係はオーガと鬼人と同じものだ。リザードマンは人種より力が強くまたボブゴブリンよりも武器の扱いに長けている。
人型の魔物と戦うのに慣れ始めていたソラにとってCランク冒険者に劣らない実力を持つリザードマンは油断の出来る敵ではなかった。
鱗は敵刃を防ぐ鎧であり、武器となる。個に優れるリザードマン達が武器を用いて集団で戦う。
リザードマンはある意味ではオーガよりも厄介な存在で、変温動物として気温に左右されるという弱点はあるが、強い事には間違いない。
そんな亜竜人達が住まう場所へ単身で突入させられた。気闘術で戦えるソラであってもやっと技を習得したに過ぎない。
人に対して優位に戦えるだけであって魔物相手では心許ない。ギルド資料庫でアルトに救われてからリザードマンに対して調べたが、結果は難しいとしか言えない。
まず、黒鉄の短剣単体では鱗を斬り裂く事は不可能でオーラを纏って始めて戦いになる。
しかし、ソラは純魔力を纏ったオーラブレイドと土の魔力を纏ったオーラブレイドしか扱う事が出来ず、土の属性はリザードマンに対して有効な一撃を与えるのは難しい。
気闘術で身体強化をしながらオーラを短剣に纏う経験の浅かったソラは短時間であれば可能としていたが、消耗が大き過ぎるという欠点を抱えながらも戦った。
質でも数でも劣るソラがとった手段は罠による分断であり各個撃破に一縷の希望をかけた。
先ずは生き残る為に防御主体の戦闘術をエバンスから学んでソラはここから攻撃に苛烈さを持つ様になった。
エバンスやカイトは攻撃力に注目が行き勝ちだが防御が下手な訳ではない。
寧ろ常人よりも得意と言える。敵に勝つ為には敵の防御力を上回る攻撃力が必要で死なない為には敵の攻撃力を上回る防御力が必要になるだけだ。
攻撃は最大の防御だと言うがこの世界では正しくない。人種だけで構成された世界であったのなら正しいだろう。しかし、魔物がいて魔人がいる。
竜人も居ればエルフも居てドワーフもいる世界において防御力は確かに必要とされ、弱い人種が縋った力が気であり魔法であった。
「武器は消耗品だが、自分の命と同価だと思え、武器を粗雑に扱うものは長生き出来んぞ」
刀匠の資格を持つタイラーは己の鍛えた刀が、武器として本来の力を発揮することに強い喜びを感じていた。
一年に打てる数が制限され、普段は包丁を鍛えることで腕を鈍らせないようにしている。
資格を取るのには刀匠の下で五年以上の修行が必要となるが、刀匠は稼げる仕事ではない。
刀一本に百万以上の値段がつけられるのは極一部の名匠のみで刀一本を鍛えるのにも多くの時間を要する。
生活が楽ではない刀匠は多くの弟子をとる余裕もなく、また刀匠を目指す者も少ない。
学んだ技術が生かせない事に落胆する刀匠は多く、武術家と同様に生まれた時代を間違えたと嘆く者も多い。
タイラーは虚構の世界とはいえ、刀ではなかったが自分が鍛えた武器が実際に魔物を殺し、使用者の命を護るという本来の使われ方をしていることが嬉しかったのだ。
玉鋼を手に入れる事は大和国に行かない限りは難しいだろう。遠い島国から輸入する為に、現実世界とは比べ物にならないくらいにコストがかかる。
師ナガマサに着いていけばそれも問題ではなく、時間はかかるだろうが今は鍛冶師としての実力を高める時だ。
「道具は道具だぞ。タイラー。武器の目的は敵を殺すことだ」
「そうだな。だが武器もまた人を選ぶ。剣聖とまではいかないが、実力がなければ刀もただの鉄の塊に過ぎない。とにかく今は数を打つしかないし、現実にない鉱石や魔物を使うのも悪くないしな」
ナガマサはタイラーに虫鉄のインゴットの製造を教えるほど甘くはない。
技術とは盗むものであって教わるものでないとの考えがあるからだ。だが、師から弟子が技を盗もうとするのを看過することもない。
金属にはその金属を鍛えるのに適した温度というものがある。
鍛冶師は火を見て温度を理解できなくては一人前とは言えず、鉄でしか武器を鍛える事が出来ない者は半人前以下だ。
炉の温度を盗み見ようとした弟子の目を潰す師がいるくらいでどの仕事も楽な事はないと言うことなのだろう。
「とにかく、武器は渡したぞ。金はギルド口座に頼む」
ギルド公認店でしか使えない機能だが、ギルドカードはデビットカードの機能を持ち、ステータス表示も出来る。
明らかにオーパーツと呼べる代物だが、古代魔法文明があったことと神が実際にいる世界でこの質問をする事は無粋だろう。
「分かった。手続きしておくよ」
ソラはそう言い残してタイラーと別れる。防具も更新できれば良かったが、この騒動の中で防具店は閉まっている。
空いていても防御力の高いオーガの革で出来た革鎧は値段が高く手に入れる事はできなかっただろう。
それも大暴走発生する前まででもし職人が生き残る事が出来たのであれば素材に困る事はなく、武器や防具の値段は一時急落するだろう。
だがそれは職人が無事でその上でポートロイヤルに住み続けるという条件があってのことである。
大地人には稀人の様に復活はない。だからこそ一部の高ランクの冒険が重用されるのであって好んで危険に飛び込む様な命知らずは少ないのである。
考えてみて欲しい。もし現代人が武器を持っていたとしてもアマゾンやエベレストで生き残る事は簡単だろうか。
食料になる茸や野草の知識を持っている人間はどのくらいいるだろうか。機械文明に慣れきっている人間には至難の技だろう。
熊に勝てる人間もそう多くいないのに魔物に勝てるだろうか。自信のある者は異世界に転移・転生するチャンスを待っていて欲しい。
もしかしたら神様が夢を叶えてくれるかもしれない。だが、きっとこう思うだろう。日本に帰りたいと。
人が生活していてこその都市であり、人が居なくてはどんなに大きな都市でもただの器でしかない。
逆に言ってしまえば少なくても人がいれば発展の余地はある。現にクルト村はカイトとフーカの二人から始まり徐々に人を増やして現在の形になったのだから。
ソラがこの世界に来てから一番に感じた事は弱い事は罪であるということだった。
ソラはもう以前の様に働いて収入を得るという気概を無くしていた。現実世界は理不尽に満ちていた。
平等は表面上でしかなく努力によって覆せる事もあるが、それ以上に努力ではどうにもならない事が多すぎる。
お金は寂しがり屋とはよく言ったものだ。一部の人間が富を独占して、底辺にいる人間は搾取され続ける。ゲームの中でもそれは変わらないと言うのは皮肉な事だ。
ならばソラはどんな事をしても支配する側に回るだけだ。この世界ではそれが許されている。
力はエバンスとリースの二人の師匠に学ぼう。金は魔物を狩っていればいくらでも手に入る。冒険者はただ目的の為の繋ぎだ。
冒険者が命を賭けて得た利益を掠めとろう。ビジネスパートナーには配慮するが有像無像の人間に構う事はないだろう。
そして、アキラ
その為に自分に出来る事は仲間
ソラ




