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六十一話

 宙人(ひろと)は食事と雑用をするためにログアウトしていた。


 脳にかかる負担を軽減するための制限なのだが、仮想世界にログインしている時の肉体は眠っているのに近い状態らしい。


 だが脳が出す命令を電子的にキャンセルし仮想世界の体を動かすのだが、キャンセルをし続けると脳は体を正常に動かす為に強い電気信号を送りそれが負担になるらしい。


 医療用に開発され一人の天才が生み出したとされるVR基礎理論とブラックボックス化された機体。


 仮想世界が現実(リアル)に与える影響は未知数だった。


 宙人はインターネットでの情報を集める事にした。中の状況は良く分かっておらず、情報収集は怠ると痛い目にあうのはブラック企業に就職したことで嫌でも理解させられていたからだ。


 掲示板にはポートロイヤルに周辺に出る魔物から商店、個人トレードやパーティ募集なと様々な分野に分かれて掲載されている。


 攻略情報もあるが、攻略組にとって情報は生命線なので全ての情報が載っているとは誰も思っていないだろう。


 アンデスでは大規模作戦が行われた様だったが詳細を知っているプレイヤーは皆無だった。


 そもそもそれまでの攻防戦で多くのプレイヤーが死亡判定を受けていたらしく、作戦は街を防衛する最高責任者【守将】によって実行に移されたが、参加できたプレイヤーはおらず、アンデスの防衛戦力に回されていたからだ。


 弓士のプレイヤーの中には【鷹の目】のレベルをあげていた者もいたが、低レベルでは見えない距離での戦闘で、轟音と共にクルト村の竜騎士がアンデスへと戻ってくる姿を確認したらしい。


 ベータテスターの一部が傷だらけになったトルウェイを目撃したらしいが、信じられないと驚愕していたらしい。


 龍人トルウェイはベータ期間中にクルト村で確認された主要NPCの一人だとされている。


 若い時には冒険者としてクランを率い、フォーレン子爵を継いでからは筆頭宮廷魔法師としてランスカ王国の重鎮として活躍していたからだ。


 もう一人の主要NPCとされている剣聖カイトは言うまでもない。目立たないランスカ王よりも二人の方がこの世界の秘密を握っているというのがベータテスターの共通認識だった。


 日本サーバーのプレイヤーが最初に送られる街がポートロイヤルであり、他のサーバープレイヤーは大陸にある別の人種国家に送られる。


 必ずではないがほとんどの日本サーバーのプレイヤーは魔族以外の種族を選択したはずた。


 国家間の戦争もあり、所属が最初に決まっているのは不公平であると抗議したプレイヤーもいたらしいが運営会社は黙殺した。


 ランスカ王国東部以外で冒険をしていたプレイヤーにはランスカ王の義勇軍募集の告知がされていたようだ。

 ランスカ王国北部は帝国と領土を接しており、帝国は大陸の覇を唱え小国を併合している。


 移動は簡単ではないがランスカ王国のポートロイヤルに転移させられた日本サーバーのプレイヤーも他国の所属となることは可能で帝国は確かアメリカサーバーのプレイヤーが最初に転移される場所であった筈だった。


 東部からの移動にも時間がかかり魔導船での移動には金がかかる。


 まだそこまで余裕のあるプレイヤーはそう多くないはずで、ポートロイヤル周辺でレベルを上げたプレイヤーがクルト村に拠点を移している。


 更に一部のプレイヤーがアンデスで死に戻りをしながらレベルと装備の更新を行っているはずで攻略組も迷宮都市を目指す者とアンデスで活動するものに分かれていた。


 俺もポートロイヤル周辺で軍資金を稼ぎ、クルト村に拠点をおいて商いをするつもりだった。


 クルト村に住む大地人(NPC)は高レベルな者が多いが腹も減れば嗜好品も必要になる。定期的に魔物を間引く必要がある為に魔物の素材も入手しやすく、また薬草や各種回復ポーションの需要も高い。


 しかも領主はカイトで高圧的な態度もとらない。行商が店持ちになるのには高いハードルがあるが、クルト村で集めた素材を王都で売却するだけで物凄い利益が出るのだ。


 ランスカ王国の主要産業の根幹は魔物からとれる素材であり、全体的に冒険者が優遇されているのにはそういう理由があった。


 北部プレイヤーには広域特殊イベントの告知があったみたいだ。


 義勇兵として帝国との戦争に参加するかはプレイヤー次第だったが、イベント報酬である士爵に叙勲されるという公知は多くのプレイヤーを戦争へと駆り立てた。


 アンデスにいたプレイヤーはそれを知って歯痒い思いをしているらしいが、初めて一ヶ月も経っていないプレイヤーがどこまで活躍できるのかは疑問に思うところだ。


 死亡判定を受けても教会で復活できるのは稀人(プレイヤー)にしかない強味だ。しかし、デスペナルティが公式で発表されているだけのものとはソラは考えられない。


 言語スキルが低すぎて内容の多くは理解不能だが、子供の読み聞かせに使う絵本もギルド書庫に用意されており、邪神の事もこの世界の成り立ちも一部だけだろうがプレイヤーにも公開されている。


 どのゲームにも検証班と呼ばれる物好きはいるが、本自体が稀少品であり、王都や学術都市のみで公開されている情報もあるだろう。


 人種と亜人種の対立もあり、人種同士でさえ戦っている。神がいて信仰があって宗教戦争がある。運営が何を考えてこのゲームを作ったのかは知らないが、何かしらの目的はあるのだろう。


 そうでなければプレイヤー人数の少なさは説明できない。とにかく、ログイン制限が解除されるまでは飯でも食って仮眠をとる事にした。


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「計画はどうなっている」


「順調そのものです」


 高価な衣装を身に付けた男に質問された男はそう答えた。


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「少しは喋ったらどうなんだ」


 拷問されていた男は意識が朦朧としていたが、抵抗の意思は挫けていない。


「強情なやつだな」


 高温に熱しられた鉄の棒を捕虜に押し付け、悲鳴を聞いた尋問官は嗜虐性を隠そうともせずに囁いた。


「お前の信じている援軍は来ない。お前が口を閉ざしているせいで何人の兵が死んだ?そろそろ楽になっても誰もお前を責めないだろう」


 捕虜となってからどのくらいの時間が経っていたかは伝令兵である男には判断できなかった。


 少なくとも半日以上が経過しており目の前の男に三人が殺された。紅騎士団の所属とはいえ男は大した情報を持っている訳ではない。


 ランスカ王国の上層部は混乱しており、体制を調える為に派遣されたのが紅騎士団であり、砦に騎士団を送るのは防衛の観点から理に適っていただけだ。


 ランスカ王国の対応は遅れた。ライアス率いる帝国軍にコロナド砦を落とされているとも思わずに悠長に会議をしていた事からも分かるだろう。


 ランスカ王国の防衛計画は領土に侵攻される水際で阻止することに主眼をおいており、コロナド砦が落とされた後の事は具体的には想定していない。


「お前も王国騎士なら分かるだろう。この砦が落とされた時点でランスカ王国は烏合の衆に過ぎない。指揮系統を明確に出来ない軍など帝国軍の相手にならない」


 帝国軍は皇帝をトップとした指揮系統を確立しており、貴族軍は存在しない。


 貴族が領地を護る為に私兵を持ってはいるが、あくまでも皇帝の臣という扱いで属領に至っては原則的に戦力の保有を認めていない。


 対してランスカ王国の軍はランスカ王を頂点とする王国軍と貴族である領主の私兵である領主軍に分かれている。


 王の臣たる領主軍の兵士の主君はあくまでも貴族であり、直臣である貴族と陪臣である貴族の臣下の扱いは異なるのだ。


 直臣として貴族は王命に逆らう事は難しいが、陪臣が王命を遵守する義務があるかと言えばそうではないと言うことだ。


 王家直轄領と貴族を対象にした裁判権を王家は持つが各領地で起きた事件に対しての裁判は貴族が持つ様に、王家に権利を集中させることは建国の経緯からも難しく、帝国ほど王家に力が無いのが原因となっている。


 それは初代国王アレキサンダーの理念もあったのだろう。王家に力が集中し過ぎてしまえば、暴君が生まれた時に止められる臣はいない。


 当時、オリエンタル教の教えに真っ向から反対した国家は教国の聖戦によって滅亡へと追い込まれる中で人種と亜人種の融合国家を作った初代国王アレキサンダーは希代の才能を持った男ではあった。


 だが、貴族の腐敗までは想定はしていても完全に防ぐ事はできなかったのだ。


 苛立った尋問官の男は捕虜に対して容赦のない暴行を行う。治療師もおり、死にさえしなければ、回復薬があることも暴行をエスカレートさせる理由の一つだった。


 オリエンタル教の敬虔な信徒である帝国民からして見れば優れた種族である人種を劣った種族である亜人共と同列に扱う異端者を容認する訳にはいかない。


 帝国の皇帝を任命するのは神の代弁者たる教国教皇であり、大国と言えど完全に教国の意向を無視する事は出来ないのだ。


「お前に一つ良い事を教えてやろう。帝国軍本隊は既に国境付近の貴族の領地で略奪を行っている。お前が護るべき国民は既に蹂躙されているのだ。そして直ぐに王都も火の海となるだろう。連れて行け」


 この時の尋問官の顔を男は忘れる事は出来ないだろう。男の実家も国境沿いにあり、領民の多くが命と財産を奪われたのだから。


 ----


「いつまで私達は待機していれば良いのだ」


 紅騎士団長のナターシャは何も出来ない事に対しての苛立ちを隠すことができなかった。


 伝令として派遣した団員の安否は今も不明であり、北方将軍オムネはおろか、王国からの命令はまだ届いていない。


「私に言われてもどうしようもない。命令がなければ動けないのが軍でありそれは独立部隊である貴官の隊も変わらない」


 コロナド砦での後方にあるとはいえ、ライン砦は十分な防衛能力を有していた。


 王国騎士団を複数収容できる大きさを持ち、帝国との本格的な戦争が始まった時には補給基地としての役割の担っているのだから医療施設も充実している。


 ナターシャが万人長であったのならば有効な手立てがとれたのかもしれないが、それは言っても仕方がない事だ。


 ライアスも王国軍の穴を狙って侵攻しており、対策がとれない様に計画して実行しているのだから、当たり前だ。


 裏切り者であるクラウド侯爵の誤算と言えばコロナド砦が落ちた時点で既に用済みであると言うことだ。その様に人選してきたし、一将軍に貴族の任命権など無い。


「攻撃の用意は出来ている。敵に落ちた砦など不要だ。戦略的に重要地点である砦が落ちた時点で何らかの対策をしなくてはならないというのに無能な者が上に居ると国が滅びるぞ」


「オムネ将軍は対応されているだろう。北にはゴドラム公爵軍もいる。先遣隊の仕事は戦力の確認であって殲滅ではない。攻撃に優れる紅騎士団とは言え物量には勝てないのだぞ」


「分かっている。だから大人しく待機している。部下の様子を見てくる。何かあったら報告を頼む」


 ----


 その頃、北の中核都市として栄えていたグラムが火の海となっていた。王国の抵抗の意思を削ぐ為にライアスが立案し、実行された。


「将軍。部隊配置が完了致しました」


「分かった。全軍進撃だ」


 戦において制空権を押さえる事は重要な事だ。陸軍がいくらいても空からの攻撃に対して無防備であるからだ。


 戦闘機の代わりに竜騎士が、空母の代わりに大型魔導戦艦が導入された蹂躙である。


 グラムの防衛部隊も突如として現れた帝国艦隊に対して魔法と魔砲によって応戦したが、王国軍に多くの魔導船を徴発されており、領主軍も普段より少数しか配備されていなかった。


 帝国軍の艦隊は敵の航空戦力を奪う事がライアスの命令によって優先されていた。


 都市には魔物の侵入と敵の攻撃を防ぐ為に結界が張られているが、ライアス率いる艦隊の力があれば落とす事は十分に可能だ。


 ライアスの目的はランスカ王国に侵攻が知られたのであれば艦隊を囮にして王都を急襲することにあった。コロナド侯爵領で既に冒険者登録を済ませた帝国兵が王都での作戦を実行している。


「弾薬は気にするな。叩けるうちに航空戦力を削りとれ。傭兵には街で略奪させろ」


 ライアスからしてみれば傭兵も捨て駒である。風見鶏の様に両陣営を行き来し、敗者の死肉を漁る傭兵は受け入れられるものではない。


 敵の戦力を削ぎ、自陣の戦力を増やす為にランスカ王国に居た傭兵達に噂を流し、雇用したが費用は最低限で済んだ。


 本来であれば占領した都市の物資は雇用主のものとなるが、ライアスは地方都市を長期間、占領するつもりはない。


 最低限の契約金で済ませ後は略奪を許可したのだ。勝馬に乗る事を信条にした傭兵団の団長達は帝国と王国ならば帝国につくだろう。


 実際に集まった傭兵は攻撃した貴族の村々で略奪をし、男は殺し女は犯しているだろう。


 帝国軍では軍令ではない略奪は軍規違反となるが、士気を保ちたい将軍によっては黙認される。


 今回、略奪に参加している帝国軍兵士はおらず、地上部隊に帝国兵士はいない。略奪の後には怒った王国軍による苛烈な反撃が待っているだろう。


 傭兵達が都市を占領しやすい様に都市を覆う壁には主砲でいくつもの穴を開け、傭兵団達は他の傭兵団に獲物を奪われないように功を競いあっていたがライアスからしてみれば道化でしかなかった。


「全艦、撤退するぞ。竜騎士には撤退信号を出せ」


「了解」


 お菓子に群がる蟻の様に傭兵団達は無法を繰り返した。


 防衛側の戦力の多くは領主の命によって移動しており、上空からの砲撃で多くの砲門が破壊されていた為に傭兵団に出た被害は軽微だった。


「団長。今なら女は選び放題ですぜ。帝国さまさまだ」


「お前ら集められるだけの金品を回収してとっととずらかるぞ。遅れる奴は容赦なく置いて行く」


 傭兵団長のオノゴロは稼げれば帝国の下につく事も気にはしていなかったが、彼の住む場所は戦場であり、傭兵団に拾われてから多くの死を見てきた。


 略奪に怒った兵に殺された傭兵も多く、正規軍の捨て駒にされ全滅した傭兵団も少なくない。


 長年、傭兵として生きて来た男の勘が、今回の司令官であるライアス将軍は優秀な軍人ではあるが、部下を目的の為に切り捨てる事を躊躇わない冷酷な男であると告げていた。


 略奪をほどほどにしておけばいざという時の為に購入した魔導船で団員だけなら逃げる事は可能だと判断してオノゴロは傭兵契約を帝国と結んだのだ。


 契約金を更に安くする事で戦場で逃げる事を可能としたオノゴロにライアスすらも一目置いていた。


 傭兵団はオノゴロの機転によって帝国と王国の戦争でそこそこの利益をあげる事となったが、他の傭兵団はというと皆殺しの浮き目にあっていた。


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「一部をライン砦に向かわせて後は転進する」


 公爵家の嫡子であるミナードはグラムが襲われているとの情報を得て公爵軍を率いて賊の討伐へと向かう事にした。


 ミナードは竜人の血を引いてはいるが半竜人(ハーフドラゴニュート)であり、父に比べて力も劣る。


 しかし、原始龍人の血が為せるわざなのか膂力は竜人と遜色はなく、魔法も本来であれば一系統であるところだったが、火と風を得意とするダブル魔法師だった。


「若様、当主の許可は得ているのですか」


「無論だ。高速船一隻と竜騎士一個中隊の同行を認めてくれた」


 王国中に情報源を持つゴドラム公爵家だからこそ為せる。


 帝国の今回の侵攻の目的は把握できていなかったが、既にグラムには部隊を駐留させていないだろうと言うのがゴドラム公爵家当主の判断であり、それは間違っていなかった。


 魔導船は補給なしで戦える様な代物ではない。動けば壊れると言われる現代兵器とは違うが、メンテナンスも必要となれば、魔石・精霊石の消費も馬鹿にはできない。


 商業都市であったグラムには魔導船でも使用できる品質の魔石が十分にあり、敵地で物資を補給するならばうってつけの場所であった。


 しかし、グラムは国境に近いとは言え、複数の貴族領を経由しなくてはならない土地だ。


 しかもクラウド侯爵家の領都であり、戦力が引き抜かれていたとはいえ簡単に落とせる都市で無いのもまた事実だった。


 大金が動けば必然的に人が集まり、情報も集まる。帝国がランスカ王国の士気を落とす為に狙うのは理に適っており、内通者の口封じも含まれていた。

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