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五十三話

 俺の名前はタジフ。同じ火竜人であるアリスターと共に竜国から飛び出しランスカ王国へとやってきた。


 竜国では近年、帝国により竜が連れ去られ隷属させられる事を看過できない一派によって実力を付ける為に竜人に友好的なランスカ王国の迷宮でレベルを上げる者は後を絶たない。


 竜国にある迷宮は全てが難易度が高く、領土に出る魔物も他国に比べると強い。


 成人した竜人であれば親から子へと竜気を扱う術を受け継がれ対抗する事は不可能ではないが、相応の被害を覚悟しなければならず人種の治める国家から修行先となるのはランスカ王国しかない。


 竜人は竜と共に生き共に死ぬ。それは竜人の始祖である原始龍人の頃から変わらない習慣である。


 相棒を亡くした竜人の中には次の竜を選ばずに孤独に生きる者も多い。


 人種はオリエンタル教を信仰し、主神オリエンタルの意思に基づいて生活をしようとするが、歴史を重ねる毎に崇高な理念は形骸化し、時の権力者の都合の良い様に塗り替えられてきた。


 原始龍人・原始龍を竜人・竜を司る神【龍神】として崇める文化は竜人の中にもある。


 竜国の王家は原始龍人の血を引く者達であるとされ実際に歴代竜王は原始龍人にひけをとらない力を備えているとされていた。


 今代竜王カグラ様も森龍人として当代最強の名を欲しいがままにしている。


 数代前にランスカ王家に嫁がれた竜姫の血を継ぐトルウェイもまた森龍人として他の竜人を凌ぐ力を持っている為にランスカ王国の貴族でありながら竜国の王位継承権を持っているのだ。


 ランスカ王国では竜人の窓口となっているのは王国貴族であり竜国王家との血の結びつきが強いゴドラム公爵家だ。


 ランスカ王国は建国の経緯から人種以外の種族にとって住みやすい国であると同時にオリエンタル教の総本山である教国から神敵と認識されている国でもあった。


 今のオリエンタル教では人種は亜人よりも高位な存在で神に愛されていると説いている。人種は神が創りあげた完成された姿で亜人は人種の出来損ないという考え方だ。


 竜人も魔物(モンスター)である亜竜人(リザードマン)に対して強い嫌悪を抱いている者は多い。


 鬼人がゴブリンに抱く感情と似ているだろうが、誰でも多少なりとは自分の種族に誇りを持っているのだから当たり前の事だろう。


 龍人と竜人が本質は同じだが圧倒的な差がある様に竜人と亜竜人は別物である。それは属性竜と竜の紛い物でしかない亜竜(ワイバーン)を同一の物として扱うのと同じ位の暴挙である。


 話が逸れてしまったが、我々、クルト村の竜騎士団は困難な状況にある。


 同胞トルウェイが協力を仰いだ作戦は効果が実際にあるのかは実行してみなければ分からない。


 クルト村にも稀に魔の森の魔物が出現するし、戦闘能力のない竜人は存在しない。


 竜人自体が戦闘民族と言ってよいほど他の種族とは隔絶する力を持つのは竜気による身体強化と各氏族の属性に特化した魔法。


 そして相棒である竜の存在を欠かす事は出来ない。竜人は全てが先天的な魔法戦士であり全員が竜騎士なのだ。


 先導として動いた竜騎士達は多くのワイバーンと死してなお現世に留まる腐死亜竜(アンデットワイバーン)の脅威に晒されていた。


 数が多いワイバーンはそこまで問題ではなかった。竜騎一体となった竜人と竜にとってワイバーンは圧倒的な差がない限りは怪我人は出ても死者が出る事は稀だからだ。


 問題は腐死亜竜の方だ。不死族(アンデット)に共通して言える事だが、斬撃は不死族にとって脅威となりえない。


 打撃や魔法攻撃によって原型を留めない程の攻撃をして初めて動きを止める事ができ、最も効果的なのは()属性による攻撃である。


 しかし、属性に縛られる竜人達の中に今作戦に聖属性を扱える者はいない。複数ある属性のなかでも聖属性に適性のあるものは少なく、最も多くの同胞が生活する竜国においてもお世辞でも数が多いとは言えない。


 対魔に関して比類なき強さを誇る光竜人は竜国においても重責を担い、修行としてランスカ王国に赴く事が出来る程の余裕はない。


 火竜の吐く火弾が腐死亜竜に被弾していくがそれを無かったものの様にし、進撃を食い止める事が出来ない。


 接近戦により魔核(魔石)に損傷を与えれば動きを止める事も不可能ではないはずだが、優先すべきは仲間の護衛であって敵の殲滅ではない。


 それに王国騎士による陽動がなければ無秩序に行動するとされている魔物をここまで効率的に抑える事は困難なことだった。


 空中の竜騎士は動きが制限される。竜騎一体と言っても竜人自身の飛行能力は鳥人族の様に自由自在とは決して言い難いものだからだ。


 跨がる事で高機動中の竜から落ちる事はないが集中力を必要とする上級魔法以上を発現させる事は困難で人に至っては高機動中に落下しない様にするだけでも一苦労なのである。


 そのため竜による息吹(ブレス)攻撃や竜の爪や牙による攻撃がメインとなり、魔法は牽制以上の事が出来ないのが竜騎士達の常識であった。


 だがワイバーンであればそれで充分で、対魔導船でも複数の竜騎士であたれば撃墜が可能な位には攻撃力があるのが、竜騎士というものだ。


 竜母艦を制式採用しているゴドラム公爵家はクライン伯爵家のアーノルド号の様な巨大戦闘艦を複数用意することで効率的に竜騎士達を運用していた。


 竜が生物である以上は一日に可能な航続距離は限られており、また休息も必要となる。


 戦闘力が高い代わりに扱いが難しいのが欠点であり、克服する為には竜母艦は必要不可欠な存在だった。


 ちなみに竜国では国民の数が竜騎士の数と言っても過言でない状況と手先が器用で魔工師として実力のある国民がほとんどいない為に魔導船の核である魔導コアを独自に開発する技術力がない。


 ランスカ王国から提供された小型魔導船を運用するので精一杯な為に竜母艦は存在していない。


 流石にゴドラム公爵家もランスカ王国と同盟国である祖国竜国の為にとは言え国家間に真の友好が存在しない事を承知している。


 ランスカ王家の栽可があればまた別の話となるが、亜人種に対して友好的な国家であると亜人国家から認識されているランスカ王国であっても長年に及ぶ抗争の歴史から亜人種に完全に受け入れられているとは言い難い。


「火竜隊。腐死亜竜を足留めする。亜竜は他の隊に任せて集中して狙うぞ」


 タジフは今回、選抜された火竜隊の隊長だ。竜人は概ね同一属性のみで集落を作り生活する為に竜人という大きなくくりの中では同じだが、属性によって性格の傾向は異なる。


 攻撃に特化したのが火竜人なら防御に特化したのは土竜人と言った形である。


 火竜人に腐死亜竜が止められないのであれば他属性の竜人に任せるのは危険であり、トルウェイの立てた作戦案でも魔雷を運ぶ竜騎士が攻撃されそうになった場合、土竜人が護衛にあたり、火竜人は迎撃にあたる様になっていた。


 合体魔法と同じ原理で融合した火の弾は腐死亜竜へと飛翔していく。火の色も変化し熱量が増える事で破壊力が上がっていることが窺える。


 着弾した事で腐死亜竜の皮膚の表面を焼く事に成功したが元が亜竜であるとは思えない程の火耐性だった。これがアンデット化した亜竜でなければ既に決着はついていただろう。


 そして戦力を出し惜しみせず全隊による一斉攻撃であったのならば腐死亜竜は原型を留める事は不可能だったはずだった。


 腐死亜竜が吐いた禍々しい色をした息吹(ブレス)が直撃した火竜は乗り手である竜騎士と一緒に墜落した。変化に対応したのはニールだった。


 主であるトルウェイは今は群れのボスと思われる個体との戦闘中だった。そして余波で傷付くほど弱くはないが、竜騎士、全体を指揮する者がいないのは事実だった。


 隊としての作戦行動の練度は高いが竜の攻撃力・防御力・機動性に種族ごとの特性がある為に隊同士の連携には小さな穴がある。


 龍人としてこの場の竜人を統率するのがトルウェイなら龍としてこの場の竜を統率する役目を担うのはニールだ。


 命を宿してから主人となる竜人に注がれる魔力によって竜は属性を決定する。


 身体の成長に足る魔力を得られなかった竜族が亜竜となり、親や竜人から得た魔力が基準値を越えれば竜となる。


 土竜は羽が退化し飛べない個体が多い為に地竜と呼ばれるが、なぜ魔力の性質によって飛竜と地竜に分かれるのかは判明していない。


 俗称で土竜(もぐら)とよばれるアースデミドラゴンと呼ばれる魔物もいるがこれに至っては竜であると主張する魔物学者や亜竜と主張する魔物学者はたまたピタゴンと同様に全く別系統の魔物と主張する魔物学者などどれが真実なのかは未だ謎のままだった。


 腐死亜竜の直撃を受けた竜の咆吼(ほうこう)が響き渡る。


 竜の皮膚は硬い鱗に守られており、物理攻撃だけではなく、魔法攻撃への耐性が高いにも関わらず鱗は変形し、皮膚から浸透して竜に激痛を与えた。


 竜騎士は竜語によって竜に指示を出して隊行動から脱落する。


 浮遊の魔法が使える風竜人であれば軟着陸させる事に成功したかも知れないが、竜騎士が出来たのは自身の魔力を分け与えて少しでも防御力を上げる事だった。


 暴れる愛竜を腰に携えた長槍で切り裂く。どう考えても皮膚に付着した息吹(ブレス)が原因であった。今いるのは戦場であり麻酔効果のある薬草やポーションなど持っていない。


 竜の鱗を貫通し皮膚を縫える程の糸が無いために縫合すらままならない。


 原始的ではあるが皮膚深くに食い込んだ鱗を取り除いて火で強引に止血する事を竜騎士は選択せざるおえなかったのだ。


 実際の戦場では傷の種類によっては接着剤で接合する場合もあるらしいのだ。


 あくまでも緊急時を除いては工業用ではなく人体に与える影響を抑えた医療用接着剤の使用が推奨されている。


 傷口を焼く行為自体は医療用電気メスが同じ様な原理を使用しているが、あくまでも出血死を防ぐ応急措置であって戦場でなければ竜専門の治癒師に治療をして貰った方が後遺症のリスクを抑える事が出来るのは言うまでもない。


 竜の体内を侵す毒は火竜の体力を奪っていく。愛竜に魔力を注いでいた事で竜化ができなかった竜騎士も少なくないダメージを負っていた。


「タミル。墜落した兵の回収に向かえ。他の竜はニールと同期しろ」


 ()の格は神龍(原始龍)>>古龍>成龍>子龍>=属性竜(古竜)属性竜(成竜)属性竜(子竜)>=亜竜(成飛竜)亜竜(成地竜)だ。


 ニールは未だ龍としては子龍に分類されるがここにいるどの竜より強いのは間違いのない事実だ。


 主であるトルウェイとニールが戦闘になる事は先ず有り得ないが本気で戦えばどちらも無傷では済まないだろう。


 主である竜人と騎竜は竜気を通じてお互いを強化することが出来る。竜同士でも例外ではなく、野性でも属性竜同士であれば可能だ。その行為を竜人達は【同期】と呼んでいた。


 森龍の本質は他の生物や植物の成長を促す事にある。豊かな自然は小さな生き物を守る為の力となり外敵からの攻撃を退ける。


 森属性は水・風・土の二種以上の混合属性であり、水と風の混合属性である氷属性や風と土の混合属性である雷属性より希少である事が多い。


 中には風と土に適性がない雷属性の使い手もいるが汎用に欠ける分だけ威力は高くなる傾向にある。


 騎竜達は己の体内の魔力を練って空気中へと放出させていく。


 体内にある竜袋と呼ばれている特殊な気管からで形を変えたものが竜の息吹(ブレス)となっている。


 指向性を持った魔力を受け取ったニールは己の魔力を混ぜて各騎竜へと返す。


 森龍の加護を一時的に得た騎竜達は身体能力を強化され、息吹(ブレス)の威力も増加する。火竜隊でてこずっていた腐死亜竜(アンデットワイバーン)をニールは複数相手にして翻弄している。


 縄張り意識の強い属性竜の成竜を倒した事のあるニールにとって腐死亜竜は強敵とは言い難かった。無論、龍は竜を傷つける事を良しとはしない。


 しかし主であるトルウェイが説得しても属性竜は退かなかった。


 トルウェイとニールだけだったら状況は変わっていたかも知れないが、その当時は既に深緑の森として活動しており他種族の仲間が居たために、討伐するしかなかったのだ。


 竜袋に溜められた魔力は複数の属性を帯びて腐死亜竜へと襲いかかる。


 亜竜も数が居たためにニールに対して果敢に攻撃して来たが、広範囲に渡る息吹(ブレス)によって墜落していった。


 魔の森、上空に今いるのはクルト村所属の竜騎士達と腐死亜竜のみとなっていた。


 ほとんど意味を為さないと理解しつつも竜騎士の息吹(ブレス)攻撃の指示によって地上への攻撃は継続して行われていた。


 何れは攻撃の痕跡すら残さずに再生していまうが今は墜落した亜竜が戦場に復帰するのを阻止するのが優先であり、魔雷さえ投下してしまえば亜竜と言えど生き残る事は困難であると推測されていた。


 大型弩砲(バリスタ)でも貫くのは難しい亜竜の鱗と皮膚であったが竜として格上である属性竜の攻撃をそう何度も防げる程の防御力は有しておらず複数の魔雷の攻撃を耐えられるはずもなかった。


 脅威の大半を排除したクルト村竜騎士隊は魔雷の投下態勢と移行していく。


 竜が無防備になる降下を無事に終わらせる為に、火竜隊も着火させる魔力と飛行の為の魔力を残して周囲に威圧の為のブレスを撒く。


「風竜隊。突撃」


 風竜隊の隊長の命令によって重量を増した風竜隊は危険を返り見ずに突撃して行く。


 風竜隊同士で予めトルウェイによって指定された作戦区域に等間隔で魔雷を投下する事に成功した。


 後は火竜隊による点火を待つのみであり、風竜隊は投下した魔雷が亜竜の息吹(ブレス)によって誘爆しないように監視する態勢へと移行した。


 一方、他者を寄せ付けないトルウェイとバルドの戦闘も佳境へと入っていた。


 トルウェイは身体能力の強化の為の龍化で余力を残していない。それはバルドも同じだった。


 人類の最高峰の戦力である元Sランク冒険者であった為にここまで持ち堪えているが凡百な才能しか持たない者であったのなら挨拶代わりの一撃で戦闘不能になっていただろう。


 しかし、この戦いもそう長くは続かないだろう。


 龍人の奥義である龍化と大鬼(オーガ)の奥義である鬼化は一時的に戦闘能力を向上させるが代償は大きい。


 人種の気闘術や魔闘術と同様に体にかかる負担は大きく人種と違いそのまま龍化(竜化)や鬼化が解けなくなるリスクを内包しているのだ。


 闘気を纏った一撃がお互いの体を掠めていく。龍人(竜人)大鬼(オーガ)も人種と基本的には人体の構造は変わらない。


 しかし龍人(竜人)には喉元にある一枚の鱗【逆鱗】が弱点となり得る。トルウェイは身に纏った防具で身体中を保護していたが逆鱗は剥き出しのままである。


 逆鱗は龍人(竜人)の神経が集中している箇所であり、小さな痛みが激痛になる。


 しかし、相対する敵も注意は必要である。弱点であると分かっていれば対処も出来る。


 しかも攻撃を受けて一撃で意識を断ち切る事が出来なければ待っているのは手痛い反撃だ。


 攻撃力に自信があるのであれば賭けても良いのかもしれないが大抵の場合は激怒させ返り討ちにあうのが関の山である。


 そして鬼人や大鬼(オーガ)の弱点は額にある角である。


 頭蓋骨の一部である角は強度は高いが万が一にも折られてしまえば鬼化する事は出来なくなり、同族のコミュニティでも孤立する。


 角は誇りであり、折られてしまった者は同族として扱われる事は決してない。そのため排他的な人種の冒険者は鬼人を発見すると殺害しようとしそれが不可能であるのであれば角を折るのだ。


 鬼人は角の多さで地位が決まりその地位は強者である事の証でもある。バルドは一角鬼ではあるがその強さは三角鬼をも凌ぐ。


 蒸気と錯覚してしまいそうな龍気と鬼気が二人を包み込んでいた。


 両軍の最高戦力の勝敗はこの戦闘の勝敗を決する戦いである事には間違いなく、最上級魔人と思しき災害級を仕留める事が出来るかによってはランスカ王国東部の生存圏が危ぶまれるのはトルウェイが一番理解していた。


 Sランク冒険者はただ強者であれば良いというだけではない。実力がなければ名乗れないが、剣であると同時に盾であるのも否定できない事実だ。


「龍刃双軍」


「鬼刃踏覇」


 トルウェイとバルドは己の持つ最高の技を持って後先を考えない一撃を以て敵を討ち果たそうとしていたがトルウェイとバルドは大きな差があった。


 その差が勝敗を決したのは言うまでもなく、戦闘が終わって立っていたのは一名だけだった。 

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