表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/81

五十ニ話

MWOを運営するJHE社には意見書と言う名の苦情が届けられ担当部署は休みを返上して対応していた。一番多い苦情はプレイヤー数についてだ。通常のVRMMOであればプレイヤーが一万を割るという事はまずあり得ない。運営会社が営利企業である以上はプレイヤーの数が少なければ開発費どころか運営費も捻出が出来ないのだから当たり前である。


そして有料ガチャやアイテムには他のプレイヤーと差が出来るほどのアイテムはない為にプレイヤーの課金率は低い。それにも関わらずプレイヤー希望者が集まるのは有名ゲームのトッププレイヤーだったベータテスターの存在と作り込まれた世界観である。とあるトッププレイヤーはプロとして十分に稼げていたのにも関わらず突然としてそのゲームを引退した。閉塞感のあったゲームをやめて新しいこの世界へとやってきたのだ。


そこまでして作ったのだからと開発の一人は復活を廃止しようと提案したが、反対多数によって却下されたのは有名な話だ。開発費のかからない無料ゲームというコンセプトで開発されたゲームであったのならそれもありだろうと開発班の誰もが一度は考えてしまうほどに良く出来ていた。ファンタジーにありきたりな魔法薬は出てきても死者蘇生は禁術として指定されている。心肺蘇生法は現実的な方法として不可能ではないがゲームの世界では広まっていない。


そして稀人(プレイヤー)を蘇生させる神官が使う魔法も厳密には仮死状態からの復活で異常状態の回復魔法に過ぎない。そして仮死状態とは言え死にかけた人間を復活させる魔法が簡単に扱える訳がなく、適性のある高位神官のみに口伝される技術なのは世界観を破壊することなく復活をするために考えた開発班の苦肉の策でもあった。


様々な要望に対して対応していたが月に増やせる枠は既に決まっており、その枠の殆んどはゲーム雑誌による懸賞だ。そして後の枠は当社のユーザーと開発スタッフに当てられた招待枠である。開発スタッフ一人につき一枠。転売不可の契約を結んだうえで会社の決裁も必要になる。大抵のスタッフは有名プレイヤーを招待するために使用するが知人に勧めても問題はない。でなければ友人である宙人(ひろと)はプレイする事はできなかっただろう。


無論、形式上は優遇措置がとれない為に懸賞に参加させる様に誘導し、多くのユーザーの中から無作為に選んだ様に偽装されている。開発スタッフの一人としてより良いゲームを開発することにも努めているが宙人(ひろと)が開発スタッフの中でも注目されているプレイヤーであるのは偶然だ。


ゲームの中でも主要キャラと成り得るキャラには通常よりも高度なAIが搭載されている。各国の首脳陣やギルド幹部、聖級の使い手などが該当し、始まりの街ポートロイヤルに槍聖エバンスが配置されているのも偶然ではない。プレイヤーは最初の段階で二種類に分けられる。ゲームの説明書を読むか読まないかである。第二の現実と宣伝しているVRゲームにはチュートリアルと言う名の説明があるが、それを無視しても害はない。


開発チーフが予想した通り、冒険者の殆んどは冒険者ギルドに併設された訓練所を使用する事なく、死に戻りをしながら経験値を積む事でレベルを上げていった。エバンスの弟子になれる条件は実戦を経験した上で実力不足を感じ訓練所に籠った者で死に戻りを一度も経験していない最初のプレイヤーに限定されていた。それに該当したのが宙人(ソラ)であっただけだ。


エバンスの情報はベータ期間も秘匿されていなかったが朝に訓練しているベータテスターが少なかったこととプログラムによってクエストが発生しないように調整されていた為にクルト村に居た剣聖カイトを知っているベータテスターは居てもエバンスの顔を知っている者は皆無だったのが理由だ。手順を踏めばカイトの弟子となる事も可能だが、高弟にでもならない限りは剣聖の技を習得する事は不可能となっている。


宙人との付き合いは長い事もあってだいたいの性格は把握している。RPGでは最初の村の付近でひたすら雑魚狩りをする事でレベルを上げ希少な薬はラスボスを倒しても使わないタイプだ。消耗品だと分かっていてもレアアイテムを使う事が出来ずに地道にレベルを上げてボスを倒す。そんなプレイヤーを好んでいるチーフの気性もあって配置されたのがエバンスだったのだ。


殆んどのプレイヤーが早々にスモールラビット狩りを止め次の獲物を探す中で、宙人(ソラ)は黙々とスモールラビットを狩っていた。五百体を越えるスモールラビットを狩ったプレイヤーに与えられる称号【ラビットキラー】を始めて取得したのも宙人だった。キラー称号は種族に対する特効で種族に対しての攻撃力の増加と引き換えに憎悪(ヘイト)を集めやすくする効果がある。しかも数に比例して攻撃力の増加効果もあるが得ているプレイヤーは少ない。


雑魚の代表格でありメジャーな魔物であるゴブリンは運動が得意でないプレイヤーでも簡単に倒せる様に配置された魔物であるが故に適正レベルは低く、それ以上に弱いスモールラビットを狩り尽くす勢いで討伐するプレイヤーがいるとは開発スタッフも考えていなかったのだ。そして累計される討伐数は死に戻りしない事が前提となっており途中で死に戻りした場合は数がリセットされる仕組みとなっている。


表面上のデスペナルティは当初開発チーフが提案していた当初の予定からの全損(ロスト)に比べれば軽いものとなったが、気軽に死に戻りをして貰っては、世界観を壊すため、隠しステータスとして様々な要素が設定されていた。功罪システムやAI個別による好感度システムもこれに該当するだろう。数少ない監視対象となったプレイヤーには、実際に刀匠であり、オートではなくマニュアルで武器を制作できるプレイヤータイラーや早くもシステム外ではあるがギルドに該当するクランメンバーを集めだした攻略トッププレイヤーであるアレックス、ソロモンや正式サービス後MWO史上初の犯罪プレイヤーであるアキラなど個性豊かなメンバーが揃っていると言えるだろう。


「松本。また苦情だ。対応して貰って良いか」


先輩スタッフにそう言われてしまえば断る事は出来ない。ゲームバランスの調整やイベントの真っ最中である為にもう三日も家に帰っていなかったが、今日も帰れそうにない。転職してから最初に驚いたのは宿泊施設が充実している事と建物のすぐ傍にコンビニもあり、日中は何時でも利用できる食堂のメニューの多さだった。連泊を想定していればなるべくスタッフにストレスを与えない為の会社による配慮と言えたが逆に言えば泊まる事を前提にしているとも言えた。


きちんと残業代も支払われ、休日も週一は確保されていたが、勤務時間は長くなっている様な気がする。注目タイトルであるMWOの開発スタッフになれた事は会社から期待をかけられているという事なのだろうが稼いだ金を使う暇がない事を微妙に思う松本の姿がそこにはあった。


----


クライン伯ジョセフは領内の惨状に強い怒りを感じていた。ジョセフの鍛えた領主軍に弱兵はいないが予算の関係上、全ての街や村に軍を駐留させる事は現実的ではなかった。小型魔導船で領都クラインに到着していたが、その間にも領地の東部では被害が出ていて連絡の取れなくなった村は多い。


「兄上、いえクライン伯ジョセフ様。報告がございます」


ジョセフに何かあった時に代わりが務められる様にシャルルは依然としてクライン伯爵家の継承権を有していたが自領で発生した大災害、大暴走(スタンピード)に加え紛争はあっても長く本格的に攻めてくる事が無かった帝国の宣戦布告なしでの侵略戦争。完全に補佐としてのシャルルの権限を越えており、辺境伯である兄ジョセフが帰ってきた事で実務の調整がシャルルの仕事となる。


「シャルル。留守を任せて済まなかったな。将兵の召集は済んでいるのか」


「はい。勝手ながらゴトフリーは既に三百の兵を任せ、ポートロイヤルに向け出発しております。他の将兵は既に召集済みで出撃準備中です」


領都の位置はクライン伯領の中央辺りとなるがクライン伯爵家がまだ子爵家だった頃にはここか最前線だった。ジョセフも伯爵として軍衣系貴族と交流の為に王都での社交に参加する事はあるが殆んどの場合は領内にある砦で生活している。魔境に面し王家の厚い信頼によってこの地を任されているジョセフにとって王都で政治をしているくらいなら一匹でも多くの魔物を狩った方が有意義である。


慌ただしい中でジョセフが取れる選択は二つ。一つは王家の要求通りに旗艦アーノルドを指揮して帝国との全面戦争に参加すること。そして領内の大事あるこの状況で陣頭指揮を執り、大暴走(スタンピード)の被害を少しでも抑えるかのどちらかだった。しかし、現実的には選択肢は一つしかない。貴族に貴族らしい振る舞いを求めるジョセフに王家の要請を断るという事は出来ない。そして代理にはクライン伯爵家の血を引く者が必要で普段から名代として動いているシャルルにその資格はあっても領内の秩序を乱す為に軍事的交渉を任せる事は出来ない。


ジョセフの武威を知らない王国貴族や騎士は少ない。窮地に陥り後に剣聖となるカイトに救われる事になったのも他の敵から味方を守る為に殿軍を務めたからだ。侯爵相当とされる辺境伯となるクライン伯の地位は微妙なものだ。東部での影響力は確かに有しているが中央の法衣貴族には影で田舎者扱いされているのも事実である。


そしてジョセフは貴族としての義務でもある子を成す事は出来たが、王国軍人としていつ死ぬか分からない生活をしていた為に、二十歳になるまでには結婚し子育てをするこの世界では遅い、二十五歳で結婚した為に嫡子は未だ成人していなかった。


「そのままゴトフリーにポートロイヤルの全指揮権を与え、冒険者ギルドのエバンス殿と共同で防衛に努めよ。クライン伯領全体の指揮はシャルルお前が執れ。補佐にはドギルをつける」


シャルルは文官肌ではあるが代々のクライン伯家、当主の方針によって継承権を持つ男児は王国軍騎士となり、数年間は王国内で治安維持活動に従事するのが習わしであった。ただでさえ他の貴族との交流が少ないクライン伯家にとっていざという時の仲間を作っておく事は悪い事ではない。自助救済が出来る程の軍事力を持ち、少なくない寄り子を抱えているクライン伯爵家でも不可能な事は多い。


例えば移動や空中母艦として欠かす事の出来ない魔導船だが、要となる魔導コアの製造法は秘匿され、小型船でも王国府の許可が必要となる。貴族と縁のある大商会でも個人所有しているのは少数で爵位に応じて許可される魔導船を貴族から運営を任せられる事で利用できているに過ぎない。


巨大戦艦であるアーノルド号を動かす為には相応の準備が必要となり、例えジョセフが無理をしても結果は変わらなかっただろうが、ジョセフの中に焦りが無かったと言えば嘘になるだろう。王立騎士学校には息子も通っている。王都の別邸には愛する妻がいる。それ以上に守るべき民をシャルルに任せ帝国と戦わなくてはならない。指揮官が動揺すれば兵にも伝わる。顔に出すほど甘くは無かったがジョセフの心中は穏やかではなかった。


----


大盾で身を守りながら前進していくのは背に魔法師隊を庇っている盾士隊だ。竜騎士によって投下される予定の魔雷は既に目標地点への投下の段階へと移行していたが、地上の魔物をひきつけ、数を減らすのはブロード率いる地上部隊の役目だった。魔の森を焼くそれは前代未聞の作戦行動であり成功率はお世辞でも高いとは言えないだろう。しかし、不可能を可能にしなければ失われる命がどれ程のものになるかは正確な数字は分からなくてもそれは決して少ない数ではないだろう。


平民の騎士の多い東方騎士団では、貴族の横行が少ない代わりに自分の身は自分達で守らなくてはならない。貴族としての特権意識に囚われていないだけ東方騎士団所属の騎士は柔軟性を持っており、対人・対魔経験の浅い張り子の虎である中央騎士団よりも精鋭だという自負があった。強きを挫き弱きを助ける全ての騎士がそうであるとは言えないが質実剛健を良しとする傾向の強い団においてブロードの作戦に志願した騎士の士気は高い。


「盾士隊。そのまま前進せよ。斥侯は監視を密に行え」


光を点滅させるだけの簡単な魔道具を持って傍で待機する副官を横目にブロードは騎馬に跨がりながら部隊に指示を出していく。魔道具のやりとりで後方の砦で待機する部隊との連携を可能としており、暗号は敵国に解読されない様に作戦毎に使い捨てにされる。敵対国のない王国東部においても慎重になっているのは魔人には人と同じ様に知性があり、警戒すべき対象であったからだ。


トルウェイが足止めしているバルドは訛りがきつく理解しにくい単語は混じるが大陸語で話せる事から警戒するのは当然の事だった。対魔経験の浅い者なら獣と侮って油断した所を研き上げられた牙や爪によって喉元を切り裂かれ屍を晒していただろう。鍛え上げられたブロード麾下の騎士ですら体力に劣る者から脱落していく。


肉体的に多種族より劣る人種が建国し亜人種を従属できる様になったのも魔法と言う奇跡の技と集団という個に劣る人種が数の力によって質を跳ね退けるまでになった高い文明を持っていたからであった。今回の襲撃はバルドが部下を徒に減らしたとは言え強靭な肉体を持つオーガが主戦力となっていた為に余裕を持って戦うなら冒険者Aランクの実力が必要だった。


トルウェイとバルドの戦いの余波が届く範囲も広くブロードの命令によって転進していても被害を逃れる事は難しい。Sランク同士の戦いはそういうもので街中での戦闘行為が制限される冒険者の中でも高ランクの冒険者ほど厳罰に処される。そうでなければ戦えない者に多くの犠牲を出してしまうのだから仕方がない事でもあった。それほどレベルが肉体的な強度に影響を与える力は大きく、善悪を問わないのだから階級社会であると同時にレベル至上主義となるのは極自然なことだった。


「魔法師隊。火の合体魔法の詠唱を始めよ。他の隊には魔法師隊の死守を命じる」


ブロードが火の属性を選択したのは火は破壊を司るのと同時に人種が今よりも力が無かった時代から獣を払い除ける力があると信仰されていたからである。火は基本属性なので単純に数を集め易いという理由もあったが生物であれば本能的に火に畏れを抱くというのが一番の理由であった。


魔法師隊が魔法を完成させるまでにかかる時間はおよそ三分。城門に守られながら放つのとは違い。術者である魔法者を守るのは同じ肉体的に脆弱な人種である。本能で脅威を感じとった魔物はブロード率いる部隊に殺到する。例えブロード達が全滅したとしてもこちらは陽動である為に部下を無駄死にさせる事は出来ないブロードではあるがこちらに注意が集まる程に竜騎士隊の作戦成功率は上がるのだから手を抜こうと考える者はいなかった。


しかし、クルト村、竜騎士達もまた困難な状況にあるとは将であるブロードと一騎打ちの最中であるトルウェイは気付く事ができなかった。

累計百ポイント突破٩(´・ω・`)و


【お断り】

反感を買うかも知れませんが、素人が趣味で書いているものなのでネガティブな感想については削除します。嫌なら読まなきゃ良いと言うスタンスを取らせて頂きます。

そういう方には商業作品で成功しているものを読むのをお勧めさせて頂きます。┏○ペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ