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四十二話

「貴様。それでも誇りある王国騎士なのか」


 怒りを露にしているのは紅騎士団長ナターシャである。


 階級は相手の方が上だが同格として扱われる荒鷲騎士団長の発言を看過する事が出来ないからだった。


「ナターシャ二千五百人長。口を慎みたまえ。幾ら同格として扱われるとしても私は五千人長だ」


 荒鷲騎士団長マージはコロナド砦から半日の位置にある砦の守将であり、紅騎士団の一騎士を救出する為に麾下の騎士を派兵することに反対の立場をとった。


 後方支援部の高官であるマージと前線で戦うナターシャの仲はお世辞でも良いとは言えない。


 戦功をあげる者が軍内において強い発言力を持つのは古今東西、変わる事のない事実である。


「オムネ将軍は我が紅騎士団に対して砦で帝国軍を迎撃する事を命令された。貴官はその後方支援を命じられた筈だ」


「それは砦が無事だった場合に限定される筈だ。安否が不明な現状で最悪の場合を考えて行動するべきだと言っている」


 前線の指揮官として確かにナターシャに劣るマージであったが、実務能力は高く、決して無能と言う訳ではない。


 前線の指揮官と後方支援の指揮官では求められる能力が違うのだから当然だ。ナターシャもマージの人格はともかく能力だけは認めていた。


 仕事と言うのは実に嫌なもので自分の好きな事を仕事にしている者でも色々なストレスが溜まるものなのだ。


 仕事が嫌になる原因の多くは人間関係にある。働かなくても生活できるなら問題無いが多くの人間にとって生活の為に半ば強制的に働く事になるのだ。


 無論、働く事が大好きでプライベートを犠牲にしてまでも会社に尽くす社畜(ワーカーホリック)もいるが、金さえあれば嫌な思いをしてまで働きたくないというのが大半だろう。


 そして同僚・上司・部下と会社の中の人間関係は実に面倒だ。在籍年数が長いから大した能力が無くても役職がある上司や出世する為には蹴り落とさなくてはならない同僚・部下。


 会社内に学閥や派閥があれば更に面倒だ。無論、性格は良くても仕事は出来ない人もいるだろう。


 仕事だけの関係と割りきってしまう事が会社内で上手く立ち回る方法だとソラ(宙人)は考えている


「オムネ将軍からの連絡は未だないままだ。前線指揮官には一定の権限は与えられるものだが、戦略は万人長や将軍が考えるべきであって一指揮官でしかない貴官の行動は越権行為に過ぎない。自重したまえ」


 戦術的な勝利が常に戦略的な勝利となるとは限らない。


 一つの戦場(戦術)で圧倒しても兵数や国力に違いが有る限り同じ損害でも十万の内の千と一万の内の千では損耗率は異なり戦争(戦略)で勝てるかどうかは別問題であるからだ。


 国力の差からランスカ王国は帝国に対してとれる有効的な手段は限られる。


 他種族を多く内包しているランスカ王国は種族的な問題を抱える国家ではあるが多様性に富んでいる。


 ドワーフの名匠による武器は切れ味と丈夫さは人種が作る物とは比べ物にならない。エルフの操る魔法もそれに該当する。


 系統化された魔法は使用者を選ぶが精霊魔法に比べて使える人口が圧倒的に多い。それに比べて精霊魔法は威力・魔力消費共に系統魔法には勝っているがそれ以上に生まれ持った才能に左右される。


 精霊に好かれる性質、精霊を見る事の出来る目【精霊眼】がそれにあたる。


 帝国に限らず人種国家に共通することだが汎用性は高くても専門性が低いのが人種の特徴である。


 エルフより魔法の才に優れた人やドワーフより鍛冶で勝る人がいないとは言わないが絶対値は低いものになるだろう。帝国の強みは強い軍隊と豊富な資源にある。


 強い軍隊を持っていても資源が無い国、逆に資源はあっても軍隊が弱い国はあるだろう。


 富国強兵は専制国家にとって重要な事だ。周辺国家に対して睨みが効く事によって王・皇帝と言った支配者階級は安心して自国を管理することが出来るのである。


 思想や発言が正しくても力を持たない者は害悪でしかない。


 軍事力や経済力を背景とした交渉は汚いと思う人がいるかも知れないが、大国は何時だって力によって主義・主張を押し通してきたのだ。


 自国にとって都合の良いことは間接的に国民にとっても利益があることである場合が多い。


 先進国が発展途上国や経済規模の劣る国の労働者を安い賃金で働かせ財産を築くのも搾取ではあるが、必要なことでもあった。


 日本は経済大国・技術大国と言われていたのは過去の事になりつつある。


 戦後、復興の為にがむしゃらになって働いて家族を養うことしかできなかった世代と豊かな生活である事に慣れきってしまった戦争を知らない世代では根本的に考え方に違いがあったりするものだ。


 資本主義・共産主義・社会主義、王政・帝政・民主主義と制度や思想に違いがあっても全く問題のない国等は存在しない。


 ランスカ王家は種族的な各種問題もそうだが王家に権利が集中する絶対王政に限りなく近い体制を築きたい王家と権利を奪われたくない貴族とで対立は少なからずある。


 対して帝国は皇帝・皇室をトップとした国家である為にトップが決断すれば後は早い。


 ナターシャは親王派であり、マージも貴族派という訳ではない。


 政治的な思惑と軍事は切り離し辛い存在だが王国軍のトップである軍務相は代々、ゴドラム公爵家に縁のある者が世襲してきた為に軍人の中での割合としては貴族派よりも親王派が多い。


「積極的な攻勢には反対だが、ナターシャ団長の意見を頭ごなしに拒否するつもりもない。国家の危機に対して内輪揉めをしている場合ではない」



 感情的になる事の多いナターシャにとって常に理性的であろうとするのがマージを苦手とする最大の理由である。


 確かにオムネ将軍の命令があるまでは具体的な軍事行動に移る事は出来ないが反抗作戦の立案や防衛計画の構築など団長であるナターシャにはやらなくてはならない事は山の様にある。それはマージも同じである。


「済まない。少し感情的になっていた様だ。補給計画については貴官に一任する。具体的な軍事行動についてはオムネ将軍と連絡がつき次第、軍議を行うこととしよう」


 北方将軍オムネに偵察結果の報告がいき、王国としての基本指針が示されるまで六時間。その時間が王国の明暗を分けようとしていた。


 ----


 自警団隊長のトーマスはゴウキがまだ余力を残している状態で可能な限り、戦力が充実している冒険者ギルド支部に逃げ込む事を決断した。


 防衛計画に従わず、家に閉じ籠っていた住民の事を考えると命懸けで救わなくてはならない事に多少の不満はあるが、自警団とはそういうものだと考え直して最善であると信じて行動する事にした。


「ソラ殿。ゴウキ殿。ここに居ても何れは耐えきれなくなり、戦線は崩壊するでしょう。それならば可能な限り戦力がいると思われるギルド支部か門を目指して移動した方が賢明でしょう」


 確かに住人が居なくても危険な状態であるのはソラも承知していた。ゴウキの参戦によって多少は押し戻す事は出来たが、現状を維持するだけで精一杯である。


 敵を倒し続けてもきりが無いというのは精神的な負担になる。少しのミスが命に直結する魔物との戦闘が長引いて良いことなど一つもない。


「トーマス隊長。アズローさんを説得してきてくれませんか」


 自警団と冒険者が共同で防衛に努めているが今回の場合、冒険者の指揮を執っているのはアズローでトーマス隊長の独断で移動を開始しても不必要な犠牲を出すだけだ。


 最悪の場合、この場に居る者達は全滅する事になるだろう。


「分かりました。直ぐに話し合いをしてきます。その間、この場をお願いします」


 敬礼をしてトーマスはアズローの元へと移動した。余談だがこの世界の敬礼は警察や自衛隊などの敬礼とは異なり右手で握り拳を作り、左胸に水平に構えるのが正式なものになっている。


 右手を短剣に例え、急所である心臓に持ってくることで気に入らなければ押して殺してくれという意味であり、主君や上官に対して忠誠や敬意を払うという意味を持っていた。


 戦闘は継続中だというのにトーマスとアズローは揉めているようだった。話し合いに時間が持てる平時とは違い今は魔物と人類の戦争と言っても良い状態だ。


 ここに来てからもそうだが、アズローは冒険者としては先輩だがそれほど才能があるとは思えない。


 Dランクの冒険者よりかは魔物との戦闘経験はあるのだろうが、Cランク全体では下位の実力しかないのだろう。


 ゴウキは本来であればエバンスに面会した時点で指揮下に入りポートロイヤル防衛に参加しようと考えていたが予定を変更する事にする。


 ゴウキの冒険者ランクはA、つまりこの場にいる冒険者の中で一番ギルドに貢献していると判断され、実力もランク相応なものだ。


 長旅で疲労した体を休息する事で癒し、体調も良くなってきた。ゴウキがアントに宿が襲撃されている中、目を覚まさなかったのも、警戒に値する実力がアントに無かったからである。


 流石に敵意を持ってゴウキが寝泊まりをする部屋に侵入した時点で屍となっていただろう。自警団に反応しなかったのは彼等に敵意が無かったからに過ぎない。


「冒険者は俺の指揮下に入れ。有無は言わせない」


 管理官(バスター)であり、ギルド本部所属である事をギルドカードを示して周知させる。


 ギルド本部所属というだけでBランク以上の実力を持つ。冒険者ギルド本部はある種の自治国家と同じ扱いを受けている。


 入国自体は誰でも申請すれば通るが、冒険者ギルドの本分は力無き者の為に脅威と戦う事であり、冒険者以外の者からしてみれば、一地方領でしかない。


 アズローはゴウキに何か言いたそうな表情をしていたが、他の冒険者は大人しくゴウキの判断に従う事にしたらしい。


 緊急時にパーティやクランに関わらず、下位の冒険者が上位の冒険者の指揮下に入る事は良くあることだ。しかも相手はバスターであり、Aランク冒険者。


 Dランク以下の冒険者しかこの場におらず、仕方なくCランクであるアズローが指揮を執る事になったのだから他の冒険者が抵抗する意味は無かった。


 Aランクの冒険者がいるならそれだけ自身の生存率が上がるのだから当たり前である。


「自警団には住民の護衛を任せたい。盾持ちとそこの短剣使いとで殿を務めて貰う。他の冒険者は普段こなしている護衛依頼と同じだ」


 ソラは指名された事によってこの場を去るのは一番最後になってしまった。トーマスはソラをこの場に残す事に同意せざるおえない。


 普段から中位の魔物を狩り、集団で戦う事に慣れている領主軍兵士であれば問題はなかったが、トーマスに出来るのは可能な限りの住民を冒険者支部まで護送する事である。


 戦力になるとわかっている人間を戦わせないという選択肢がとれる程の余裕は無かったのだ。


「行け」


【ウォークライ】を発動して周囲の注意を引くゴウキ。圧力が弱まったところで、冒険者ギルドに最も近い窓を破壊して住民達を連れたトーマス隊は足早にこの場を去って行く。


 アントの一部はトーマス一行を狙う様に動こうとしたが、ゴウキの斧によって体を両断させられる。


「聞きたい事があるんだが良いか」


 ソラは遠慮なしにゴウキへと質問する。


「Aランクの実力があれば単独でギルドまで移動する事も不可能ではない筈。それをしなかったのは何故だ」


「エバンスさんがここのギルドマスターだからだ。俺は小さい頃に今のクランに拾われたが、その時にエバンスさんに世話になった。ただそれだけだ」


【暁】は種族不問でクランメンバーを募集していたが当然、メンバーには相応の実力が求められる。


 期待の新人を加入させることでクランを大きくさせることはどこもやっていることだが、暁は親が冒険者で孤児となった子供を引き受ける孤児院を運営していた。


 現役のクランメンバーの成果の一部を運営費に回していたが、戦争で不作でそして魔物によって親を失う子供は後を絶たない。


 孤児に救いの手を差し伸べる事は街の住民には歓迎されなかった。


 時が経つにつれて理解はされたが冒険者に対する印象が悪かった事もあって孤児院を建てる場所を確保するだけでも一苦労だった。


 冒険者によって救われた孤児達が自然と冒険者になりたいと思う様になるのに時間はかからなかった。


 当然、全ての孤児が戦える訳ではないし、冒険者として成功するのは一部の者だけだ。


 資金力と軍事力を警戒され、貴族に目をつけられる事も一度や二度の事ではなかった。クランを設立し、Sランク冒険者が所属する様になるまでは、気が抜けない毎日を暁のクランメンバーは送っていたのだ。


 魔物を討伐した話や迷宮に潜って高価な魔導具を手にする大人達にゴウキは憧れを抱いた。


 同じ孤児であるのにも関わらず、人種である孤児は鬼人のゴウキを差別したが、ゴウキは気にしなかった。暇な大人達を見つけては戦闘訓練をつけてもらう。


 種族特性からか魔法に対する才能は殆んど無かったゴウキだが、大人の鬼人から鬼人のみが持つ力。鬼力の制御方法を学び習得していった。


 クラン幹部であるエバンスは戦闘訓練によく付き合ってくれた一人であり、多くの孤児が生活できる様に尽力してくれた恩人の一人だった。


 他国で迷宮に潜っていたが、エバンスから連絡があり、比較的にランスカ王国の近くで活動していたゴウキ達に声がかかったのは偶然の事だった。


 クランとしての行動はするが多人数を内包する暁は基本的にパーティ単位で行動する。


 パーティ毎にリーダーが居て主力戦力の一つとなっているゴウキのパーティは迷宮の攻略中だった。ランスカ王国に移動するのにも時間がかかり、その間の収入は無くなる。


 高位の冒険者にとって金はそれほど目くじらを立てる事では無かったが、攻略を中断してまで援軍に駆けつけるのにはエバンスが暁の元幹部であっても理由としては弱かった。


 だからパーティリーダーが自身が酒好きという事もあってエバンスに無茶な要求をしたらしいが、一部しか用意できなかった為にゴウキ単独で魔導船でランスカ王国王都まで移動して、後は馬車でポートロイヤルまで移動してきたのだ。


「師匠の知り合いか。ならその強さも納得できるな」


 戦闘中であるのにも関わらず話が出来る程に余裕があったのは狭い空間でゴウキは斧を振り回し過ぎると仲間にも損害を与えてしまう事になりかねなかった為に力を抑えていた為である。


 仲間同士の間隔は開くことになったが、背後に回ったアントは盾持ちの冒険者が優先的に始末してくれる為に背後に神経質にならなくて良くなった事も大きい。


 ソラは二本目の短剣を駄目にしてしまった為に既に投擲用の短剣で戦っている。


 魔法袋にはクライン伯から貰ったミスリルの短剣があるが、これはなるべくであれば使いたくない。


 最後の一本が駄目になったら流石に使わざるおえないがそれまでは耐久値の低い短剣を誤魔化しながら使うしかなかった。


「武器が無いならこれを使え」


 ゴウキが魔物を解体する用に仕様している短剣であり、鞘に入っている状態で投げ渡されたが、他人の武器を使うのには躊躇うソラ。


「解体用の短剣で壊れても構わない。黒魔鉄で鍛えられているから多少の無茶も利く」


 魔鉄は黒鉄と白鉄が長い間、魔力に晒される事で形質が変化したものだとされている。


 銀が魔力に晒されて変化した魔銀(ミスリル)よりかは魔力との親和性は劣るがその分、硬い材質である鉄が素材となっているために冒険者が持つ武器としては最上な物だとされている。


 ミスリルはどちらかというと魔を払う神聖な武器というイメージが強く、単体では斬撃耐性の高い不死族(アンデット)には効果は薄い。


 魔法を纏えばグールや骸骨兵士(スカルソルジャー)骸骨魔法師(スカルマジシャン)などを相手にする際に聖水や光魔法の使い手が居ない場合には有効な代替え手段となる。


 ソラは短剣を受け取ってから鞘から抜く。黒魔鉄と呼ばれる様にその刃は黒い。


 剣聖であるカイトが愛用している長剣より使われている黒魔鉄の量は少ないが、ソラがメイン武器としている黒鉄とは武器としての格が違い過ぎる。


 黒魔鉄は黒鉄の十倍以上の価格がする。市場に出る量が少ないという事もあるが、並の鍛冶師では鍛える事が出来ない為に最終的な価格は二十倍以上の資産価値があるのだ。


 高名な魔法師が三日三晩かけて魔力を流し続ければ、人工的に魔鉄を造る事も不可能ではないらしいが労力とコストが見合わない為にそこまでして手にしたいという高位冒険者や貴族は数が限られる。


 そんな武器を簡単に他人に預けられるところがゴウキらしいところなのだが会ったばかりのソラに理解しろという方が無茶な注文だ。


 ソラに出来ることは有効に武器を使ってこの撤退戦を成功させることであり可能な限り、住民に死傷者を出さない事である。


 左右同時に襲ってきたアントを一断して更に押し寄せるアントを倒す。スモールアントはソラが倒してアントソルジャーやアントナイトはゴウキが倒す。


 繰り返し行われることで慣れが生じて、怪我を負いそうになるが、この戦闘中に既にレベルが二つ上がっており、スキルレベルも上がっている。


 エバンスとリースが気闘術と魔闘術をソラに嫌となるほど叩き込んでいた為に交互に使用することでスタミナと魔力の消費が抑える事が出来て戦線は崩壊しないで済んでいた。


 それ以上にオーラブレイドを使用する際に無駄になる魔力が少なくなったことで効率的な運用ができた事にソラは気付いていた。宿に留まること二十分。


 冒険者ギルドとの距離を考えれば十分な足止めが出来たと言える時間が経過した事によって殿を務めたソラ・ゴウキと盾士の冒険者数人は遂に宿から撤退する事になったのであった。

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