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三十三話

「東門を担当する冒険者は集まってくれ」


 エバンスから隊長に任命されたリクはAランクよりのBランク冒険者だった。


 メイン武器は剣であり、ポートロイヤルであれば良く見かける戦闘スタイルである。槍は確かに間合いは広くなるが強靭な生命力を持つ魔物に対して分が悪い。


 サブ武器を短槍にしている所を見ると相手によって使い分けるタイプなのかも知れない。


「部隊長を任されたリクだ。普段はギルド専属として活動している。君達には俺と副隊長のマルコの指示に従ってもらう」


 マルコは中級盾士であり、他の冒険者と比べても攻撃力は劣るだろうが、上級職を持つ者は限られた一部の人間だけなので全体を指揮するリクの補佐としては申し分がない。


「マルコだ。基本的に登録したばかりのFランクは防御に徹して貰う。Dランク以上の冒険者は攻勢に出る時の要だ。魔法師・治癒師は今の内に申告しておいてくれ」


 いつ襲撃があるか分からない為に襲撃があるまでは待機を命じられている。ポートロイヤルの住民達は住居にいることを代官が通達していた。


 食料は名目上はクライン伯が領主権限において徴収し、代価として混乱前の市価が支払われている為に今は配給制となっている。


 街の中から反乱で戦う前に戦線が崩壊することを避けたい代官は領主代行として領主軍に見回りの強化を命令している。


 街の住民で組織される自警団も自分達に出来る事を探して問題の解決に当たっている。冒険者達の雰囲気は暗い。


 幾ら英雄エバンスでも全く被害を出さないで大暴走(スタンピード)を乗りきれるとは誰も考えていないからだ。


 危機管理能力の低い冒険者は生きていけない。迷宮に潜った事のない冒険者の多いポートロイヤル支部所属の冒険者ですら魔物の脅威を知っている。


 知識がないことは罪であり、アント系やビー系の魔物に襲われて帰らぬ人となる冒険者は多い。自分に出来ない事と出来る事を正確に把握し無理をしない冒険者でないと生き残れないのだ。


 本格的に討伐依頼を受ける様になるDランク以下の冒険者が多いポートロイヤルは少数の精鋭と雑多な雑用をこなして日々の糧を得る冒険者に二極化されるのだ。


 娯楽の少ないアンデスよりは住みやすいが収入は低く、アンデスで稼いで、ポートロイヤルで休暇を取るのがクライン辺境領における高位冒険者の生活スタイルである。


「隊を編制する。ランクと主要武器の申請を行ってくれ」


 リクはポートロイヤル専属冒険者としての経験は長い。しかし少数のパーティを指揮する事はあっても大規模戦闘の指揮をとった事はない。


 多くの冒険者は六人くらいで一つパーティを組み行動し、他のパーティは同じクランに所属していない限りは同業者であっても商売敵である為に最低限の助け合いしかしないからである。


 (ジョブ)で固めて隊を編制するかバランス良く配置するかはリク次第であるが、リクはエバンスにマルコとソラを同じ隊に組み込む様に指示されていた。


 東門の防衛に参加するのは百名余りであったがCランク以上の魔物が出た際に役に立つのは二割未満であるというのがリクの経験上の推測であった。


「ソラ。お前は既に俺の隊に入る事が決定している。気闘術が使えるんだ役に立って貰うぞ」


「構わないが。教会の関係者の姿が見えないな」


「奴等ははっきり言えば屑だ。この状況においてもオリエンタル教は協力を渋ったらしい。最終的には槍聖エバンスの要請に従ったが教会から出るつもりはないらしい」


 聖人認定を受けているエバンスからの要請を辺境にある教会の司祭が断れる筈もない。辺境に配置されていると言うだけで教会内の立場は良くはないだろう。


 しかも教皇によって認められた聖人の要請を断るということは教皇の権威に楯突くことと同意だ。


 オリエンタル教はランスカ王国の事を良くは思っていないが、ランスカ王国に教会を置かないのも良くない。オリエンタル教の立場から言えば人種である者は平等であり神の御子である。


 悪い子がいれば教育するのも大人の務めであり教国はランスカ王国に対して聖戦を幾度となく行ってきたが、国教にすることには成功していないが信者を増やす事には成功しているのだ。


「宗教とは厄介だな。恩恵がある分だけ質が悪い」


 そう人類がスキルを使えるのもスキルを司る神がいるからであり、脆弱な人種が魔族に対抗できるのも職神がいるからである。


 存在進化させる事によって魔物は強くなるが人はジョブを鍛え、スキルを習得することでしか対抗できないのだ。逆に言えば神の恩恵を失った者達はオリエンタル教からしてみれば神敵であり、滅ぼす必要がある存在なのだ。


「魔物の生態系も良くは分かっていないからな。神論者達は神に仇為す者としか定義していないし。冒険者からしてみれば金が得られるから狩る。それだけだ」


 話の途中だったが物見台に設置されていた鐘の音が響く。ポートロイヤルに対して魔物の群が接近している事を報せる音であり、否応なく冒険者達は戦闘に巻き込まれる事になる。


「報告。東よりスモールラビットの群を確認。数は不明ですが変異体は確認されておりません」


「分かった。冒険者、諸君。魔物がこちらに向けて接近している。スモールラビットだが決して油断するな」


 初心者達を前面に出して対抗することにリクはした様だ。雑魚に高位冒険者を当てる必要はない。


 彼等が楽をしている様に見えるが、彼等を戦闘に投入する時には初心者達では役に立たない。


「ソラ。俺達も出るぞ。ピンチになったら助ける位で良い。数は脅威だ。油断するなよ」


「分かってますよ。知り合いがいるのでそっちに行ってもいいか」


「ああ。あまり離れ過ぎなければ良いぞ」


 知り合いは葵と謙人の事だ。二人とはギルド公認店で別れた。登録したばかりだというのに防衛に参加することにしたらしい。


 葵は杖にローブを装備している。買い物に付き合ったが効果は同じなのに色で悩むのは良く分からなかった。


 謙人は二人とも後衛向きの装備ではバランスが悪いと思ったのだろう。長剣に木の盾を購入していた。


「二人ともこっちに来い」


「隊を離れることは出来ませんよ」


 隊の指揮官らしき男に目線で合図を送る。副隊長の補佐であれば彼よりもソラの方が立場は上である。


 戦闘経験はまだ冒険者としては浅いが、エバンスの訓練を脱落しないでついていけるというだけで規格外に近い。


 リースも温厚な人物としてギルド内外に知られてはいるが、魔法に関して妥協しないことでも知られているのだ。二人を師に持ち修行できるのは幸運と言って間違い無いだろう。


「問題ない。俺がまず戦うから後ろで見ていろ」


 短剣を一本だけ鞘から抜いて構える。武技を使わなくても倒せる相手だが最初は捉えることすら難しい。


 ステータスが上がれば問題なく振り回せる長剣でも、初心者のステータスでは斬撃を当てるのは難しいものなのだ。


 今でも収入のある程度まではスモールラビットで得ているソラだ。皮を傷つけることなく仕留めることなど朝飯前だ。


「今は仕留めることだけを考えればいい。謙人は長剣には慣れないだろうが、剣術スキルを得るまで振り回すだけでも良いからやってみろ。葵は今はなるべく魔法は使わないで杖だけで相手してみろ」


 葵に魔法を使う事を制限させたのは理由がある。数が多い為に魔法を放てば当たるだろうが、制御の出来ていない魔法は味方を巻き込む。


 それに魔法に頼りきる魔法師は弱い。詠唱に時間がかかる為に隙は多く、魔力の尽きた魔法師は矢のない弓士と同じで役に立たない。


 攻撃を受けながらも謙人はスモールラビットを仕留めて行く。振り回されてはいるが、腰を入れて振っているため当たれば両断するくらいの威力は出ていた。


 葵は杖で殴っている。ナイフ位は購入しとけとアドバイスしたソラだったが、杖で殴るという判断は悪くはない。


【棒術】を取得できれば接近されても捌く事は不可能ではない。魔闘術の前段階として魔力操作を覚える必要はあるが、魔法師にとって魔法操作は基本であると同時に奥義でもある。


 宮廷魔法師の中には素手で騎士を制圧できる猛者もいると聞く。戦場で油断する方が悪いが、そこまで出来る魔法師は全体からしてみれば少数である事は間違いない。


 順調に狩られていくスモールラビットだったが、各地で異変が起き始めていた。狩っても狩っても湧いてくるスモールラビットが突如として共喰いをし始めたのだ。


 呆気にとられていた冒険者達だったが、数を減らす為に好都合だった為に距離をとったのが間違いだった。


 最初は百体くらいしかいなかったスモールラビットも戦闘が始まってから合流したのか数は減るどころか増えている有り様だった。


 目の前でスモールラビットからミディアムラビットへと存在進化したのである。


 リクは不味いと思って新人達を下げたが、ミディアムラビットの個体は増え続けスモールラビットの数は全体では減っているものの状況としては芳しくない。


 このままミディアムラビットが増え続ければラージラビットや変異体である亜種が誕生してしまう。


 ラージラビットは魔物としてはそれほど強い魔物ではないが、野生の熊なら倒せる位には厄介な存在である。


 毛皮は防寒具として人気があり、一枚から作られるコートは冒険者が愛用するくらいには丈夫である。刃物を相手にするには心許ないが多少の防刃性を持っている。


「ソラ。遊んでないでミディアムラビットの相手を頼む」


 盾で魔法師を守りながらマルコが近付いてきた。


「火の魔法で焼き払った方が効率が良いんじゃないか。毛皮を回収している時間はないだろ」


「魔法師は亜種やラージラビットが出た時に対応する。魔力を温存するのも仕事のうちだ」


 東門上部からは弓士や銃士の援護射撃が続いているが、弓士はともかく銃士の攻撃スピードは遅い。単発式であることも問題だが、弓士より遠くを攻撃できるが命中精度は良くはない。


 銃の開発をするくらいなら才能に左右されてはしまうが魔法師を育てた方が運用がしやすいからである。


 銃は魔工師の領分であり発火させる為に火霊石を使い火薬も使う為に弓より高価になるのが難点ではあるが、剣や槍より修練にあてる時間は少なくて済むと言う利点はある。


 稀人(プレイヤー)によって連発式の銃が開発されれば戦場に新たな風を吹き込ませる事になるが、マニュアルで製作された銃は精度に劣るという欠点があるために研究が必要となるだろう。


 ソラの周囲には二体のミディアムラビットがおり威嚇している。成り立ての魔物は急激な変化によって本来の能力を発揮できないという難点があるためにまだ何とかなっているが時間が経つに連れて防衛側は不利になっていくだろう。


「ソラ。不利だと思ったら引け。防衛線を下げる」


 もう一本の短剣を引き抜いて右から襲いかかってくるミディアムラビットの攻撃を受ける。耐久値は減ってしまっただろうが、攻撃を受けきる事には成功する。


 左手で構えていた短剣で襲いかかって来たミディアムラビットの胴体を斬り払うが入り方が浅かったのか毛を刈り取るだけで大したダメージは与えられていない。


 素のステータスでは二体を同時に相手にするのは辛かった為に気闘術によって底上げをする事にしたソラ。援護だけをする後衛職のプレイヤーもいたが、前衛で戦えているプレイヤーの数は少なかった。


 まして気闘術を使用しているのは少数であり、マルコの様にまだ使用しなくても余裕のある者ばかりなら良いがそもそも習得をしていないと思われる冒険者も多かった。


「後方に王級(ロード)を発見。魔法師、優先的に狙え」


 ラビット系の群が終わればまた次の魔物の群へと変わるだろうが少し休憩はとれるだろう。


 ポートロイヤルの弱点は魔境からそれほど離れていないのにも関わらず、冒険者達の練度が低い事にある。


 領民にとっては危険な魔物を積極的に狩るクライン伯の人気は高いだろうが、今回みたいに大量の魔物が襲撃してきた場合に防衛にあたる兵力が領主軍だけとなってしまうのは致命的な欠点である。


 なんとかソラは一体目のミディアムラビットを倒し、二体目のミディアムラビットに攻撃し始めるが、ミディアムラビットを守る様に展開しているスモールラビット達が鬱陶しい。


 ミディアムラビットの指揮を受ける事によりスモールラビットの能力も多少だが向上している。


 初級回復薬の一本目を飲みきり、体力の回復はしたが、気闘術を使用している事によってスタミナは減っている。


 スタミナと空腹度は密接な関係がある為に何かを口にしたいところだが、ムーギ麦を焼いて固めた簡易食は味気がなく、オリザ米は気候は適しているのだが主食が麦である為に生産量が少ない。


 片手で食べられるおにぎりは優秀な食べ物だと思う。


 防衛に徹していた冒険者が多い中で防衛線に近付けない様に魔砲による砲撃が始まった。門の上部には数門の魔砲が設置され訓練を受けた領主軍の魔砲士による砲撃は魔物の数に対して威力は足りないが十分なダメージを与える事に成功している。


 ソラが対応していたミディアムラビットも弓士によって怯んだ際に首を落とした。


 素材の回収をしている暇が無いために、ギルドカードに少量の魔力を流して個人紋を魔物に焼き付ける。そうする事によって魔物に対する権利を冒険者が主張する事が出来るのだ。


 共食いによって残らない可能性が高いが冒険者である以上はしておくに越したことはない。スモールラビットの魔石は放置されているが、ミディアムラビットの魔石は回収した。


 戦闘は未だ継続中ではあるが、魔物は魔石を体内にとりこむ事によって存在進化するのだと冒険者は経験の中で実感していたためである。


 スモールラビットやゴブリンが存在進化するくらいならまだ対処のしようはあるが、現状ではオーガ一体に指揮が乱れ戦線が崩壊する可能性が高いのがポートロイヤルの現状だった。


 大量のスモールラビットとミディアムラビットを倒した事によりレベルが上がるソラだが、武器の消耗も激しく後退を余儀なくされた。


 門の内側には武器の修理を行う職人達が待機しておりソラはタイラーの姿を見つけ武器を研ぎ直してもらう。


「戦闘はどうだ」


「全くとは言わないがかなり不利な状況だ」


 先発組の多くのプレイヤーはアンデスでの防衛戦に参加しており、ポートロイヤルに残っているのは一部の戦闘職と多くの生産職である。


「俺達、生産職のレベルは総じて低い」


「そうだな。冒険者の質が悪いのが防衛を困難にしている」


 生産職も戦えない訳ではない。素材を入手する為に戦闘を行う者や生産活動を行う事によって微量だが経験値は取得できる。


 だが、魔物を倒す事によって得られる経験値とは比べ物にならず、実際に体を動かして戦う事を要求されるため戦闘職に比べて安全マージンを多目にとらなくてはいけないのは事実だ。


 ミディアムラビットを倒した事によって後発組も再度、戦闘に参加する事が可能となったが、当初の勢いはない。


 弱いスモールラビットでも数を倒せばレベルは上がる。戦闘に慣れておらず早目に下げられた者も多くいたが残った者もステータスアップに伴う急激な変化に対応できていない様だ。


 中にはステータスが上がる事によって万能感を覚え自滅する冒険者もいる。


 通常であれば先輩の冒険者によって宿に拘束される事もあるが、その注意すべき冒険者達も今は戦闘中で、他の冒険者に気を配れる程に余裕がある者は少ない。


 領主軍に所属する兵にとって安全にレベルを上げる機会となっている為に新人魔砲士を中心に構成された魔砲士隊は、撃つだけで経験値を得られている状態である。


 魔銃士は今はミディアムラビットを優先的に狙撃する事によって冒険者を援護しているが、魔銃士隊は誤射を避ける為に新人は内部に魔物が侵入した際の戦力として後方に配置されている。


 指揮官として配置された魔砲士隊の隊長はステータス酔いを起こした隊員を下げて新たに隊員を補充する事によって戦線を維持している。


 代官によって領主軍がポートロイヤル防衛戦に参加することになった事に対して兵士に不満はない。家族が住んでいる者も多く、住民とは親しい者も多いからだ。


 しかし中には不満を持つ指揮官も存在していた。領主軍の統帥権はクライン伯であるジョセフが持つ。表立っての対立は無いが、次男であるシャルルが領政に関して強い権限を持つ事に不満を持つ家臣もいる。


 特に軍部に多いのは金喰い虫である軍と文官は自然と対立するものであるからだ。


 都市防衛の為に増員された兵士は優秀ではあったが、アンデスに配属された経験を持たない者達で構成されている。


 代官もクライン伯から一部権利を譲渡された家臣であるとはいえ無難に収めたいという心情もあって砲撃や射撃に手を抜く事は無いが、最前線に兵を送る事は固くなに拒否した。


 エバンスも心情は理解でき代官と無用に対立することは本来なら助けられた命を救えない事を意味する。大暴走(スタンピード)が終わった後には復興が待っている。


 その時に代官や領主軍に活躍して貰えば良い。代官も流石に街が落ちる前に対応する位の能力はあるだろう。


 東門から絶え間なく聞こえてくる砲撃音によって協力してきる事は間違いない。


 ログイン制限によってプレイヤー達が離脱する中でポートロイヤル防衛戦は継続していた。

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