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ニ十七話

 ソラがポートロイヤルに着いた時には厳戒体制が敷かれ門は固く閉ざされていた。


 ソラは夜でもないのに閉門されていた事を一ヶ月近くポートロイヤルで生活してきたが見たことがない。


「ハロルド、どうする。これでは中には入れそうにないぞ」


「そうだな。どういう状況かは分からんが良くない事は確実だな」


 待っていても開きそうにない。中に入れない住民は天幕を広げ、野営の準備に入っている。ソラもせっかく買ったテントが無駄にならなくて良かったと思ったが、門は開門された。


 そこで見たのは、何処かで見た事のある顔ロマだった。


「ソラ殿。良くご無事で。アイカさんは既に竜騎士の方と一緒に到着されています。詰所にて事情の説明を行って頂きたい」


「それはいいんですけど。連れがいるんですが彼はどうすればいいんですか」


「一緒に来ていただいて構わない」


 結局、門の中に入れたのは、ロマ、ソラ、ハロルドの三名である。中に入れない人には悪いが、寝れるなら安全な街の中の方が良いに決まっている。


 詰所に着いた二人は質実剛健であり、いかにも仕事場ですよと主張している部屋へと案内されていた。


 ロマは上官と思われる人物の横に立ち直立不動の姿勢を維持する。室内は光も最低限と言った感じで良くも悪くも持ち主の気質を示しているのだろう。


「私はポートロイヤルの自警団を預かっているトトだ。大体の事情は冒険者ギルドのエバンス殿から聞いているが、話を聞かせて貰えないかな」


 ソラは話せると言ったら行商の為にクルト村に行く最中にアルトに助けられアイカと手紙をポートロイヤルの冒険者ギルドに届ける様に頼まれただけだ。


 ハロルドに至っては経験値と高収入が得られる城塞都市アンデスに移動して魔物を狩ろうとしたら苦戦している人がいたので助太刀して、異変を感じたのでそのままポートロイヤルに帰還する事にしただけであり、何も知らないと言っても過言ではない。


「そうか。ソラ殿が話していることには嘘はないだろう。ロマから報告は上がって来ている。ハロルド殿だったかな。失礼でなければランクを教えて貰っても良いかな」


「はい。Dランクになり、昇格試験の資格を受ける為にもアンデスに移動する必要がありました」


 普通なら一ヶ月でCランクに上がれる昇格試験を受ける為のギルドポイントは貯まらない。


 ギルドランクはギルドに対しての貢献度であり、討伐依頼を受けていなくても数年かければ必然的に上がっていくものなのだ。


 冒険者には確かに戦闘能力は必要だが全てではない。戦闘能力の低い冒険者は他の冒険者に侮られがちだが、ギルドにとっては少額でも定期的な収入を得られる冒険者は重宝される。


 魔物を倒すだけが冒険者ではない。流通を守る為に魔物を排除し商人を護衛できる冒険者が多いほど安心して暮らせるのは間違いないが、薬草を採取し、毒と薬効のある薬草を見分ける事が出来る冒険者もまた同じくらい貴重な存在だからだ。


 Fランク冒険者が行う依頼だって報酬は低いが、住民の生活を向上させる効果がある。


「ハロルド殿も稀人なのかな。答えなくて良い。今のは独り言だ。途中で狩ったという魔物の魔石を見せて貰うことは可能かな」


「はい。鑑定士がいるのであれば、冒険者ギルドで確認してもらう手間が省けて助かります」


「では預からせて貰おう。自警団が責任を持ってギルドに届けることとしよう」


 ソラは念のためにステータスオープンで確認してみたが種族を見る事はできなかった。


 ステータスオープンの基本は鑑定と同じで知らない事もわかる様になる万能な存在ではないのだ。分からない事は表示されないし、対象が生物の場合、死亡しているか抵抗する術を奪われた状態でないかぎりは基本的に抵抗(レジスト)され情報を知る事はできない。


 一応ソラは拘束されていた期間にギルド図書館にある魔物図鑑で調べていたが名前と特徴、イラストで該当する物がなかった為にステータスオープンでも知ることはできなかったのだ。


 魔物学者、曰く魔物は生物の本来の形を歪められた存在で生物であるのならば魔化することは十分に有り得る。一説には魔人も人が魔化した存在であり、人と敵対するようになった理由は分かっていないらしい。


「それと門を封鎖している理由だが表向きは流行り病であると発表されている。大暴走が予想されているが当然、感染者はいない為に最終的にはポートロイヤルで受け入れることになる」


「発表はされないのですか」


「今のところはとしか言えん。発表されれば混乱は必ず生じる。食料・魔法薬の価格は上がるだろう。混乱を起こさない為の一時的な処置だ」


 確かに昔の日本でもオイルショックと呼ばれた現象が起きた際には買いだめに走る人が多く混乱したと聞く。


 ポートロイヤルの自給率は低くもないが高くもない。商人が売り渋れば、価格は高騰し、最悪の場合には暴動に発展する可能性は高い。しかもポートロイヤルは本来の城塞都市としての機能を失って久しい。


 今では最前線であるアンデスの後方支援都市という意味合いが強く、兵士の質も劣る。


 武器の質は同質の物だが扱う人間が異なれば戦果も変わる。アンデスが失陥した場合、ポートロイヤルが最前線となる為に兵力も置かれているが基本的な方針としてアンデスを最終防衛ラインと設定しているためポートロイヤル単独で大暴走(スタンピード)を乗りきる事は難しい。


 その為に冒険者ギルドはエバンスをポートロイヤルのギルドマスターに据えていると言っても過言ではない。人は希望を失った際に予想外な行動をとる者もいる。


 自殺するだけならまだ周囲に迷惑をかけないので可愛いものだが、周囲の建物に放火したり、魔法によって周囲を巻き込んだうえで自爆する者もいるのだ。


 エバンスは過去に大暴走(スタンピード)から街を護った経験があるし単独で竜を討伐した一流の元冒険者でもある。


 人である以上は加齢によって能力は落ちるが、経験そのものが無くなる訳でないためにエバンスのカリスマ性も考慮に入れると籠城する事は十分に可能だ。


 またもう一人の聖人である剣聖カイトがいることもこの土地が魔物の脅威に晒されながらも発展してきた理由の一つである。


 平民から貴族へのサクセスストーリーはランスカ王国に住む者であれば知らない者はいない。識字率は低い為に絵本や舞台で語られるその勇姿は人々の希望となるのだ。


 妻のフーカが所属していた【深緑の森】も無関係ではいられない。冒険者は時にクラン同士で敵対し血を血で洗う抗争へと発展する事もあるが、森龍人トルウェイがあくまでも魔物からの被害を少なくさせるために設立したクランであり、子爵家の後ろ盾のある集団だ。


 加入条件はただ一つ。魔物から人類を守る意思があること。貴賎は問わず種族も関係がない。


 差別的なクランでは人種のみが所属でき、後は加入拒否をしていたり、戦士や魔法師などと言った(ジョブ)を限定している場合がある。


 クランは冒険者ギルド内での派閥の一つであり、構成員が多い程にギルド内での発言力は強くなり、幅を効かせる事になる。だが構成員は多いが実力の乏しいクランが多い中で、トルウェイを筆頭としていた【深緑の森】、ゴードンを筆頭とした【エレメンタルブレイブ】など民衆に人気のあるクランの国内での立場は下手な騎士団を凌ぐとも言われている。


 領主の性格が反映されやすい領主軍や他国との戦争の為に準備された国軍の騎士団は高圧的な者が多く、同じ平民を見下している者も少なくないために嫌われる。


 好意的に見られやすい自警団員でさえ攻撃の標的にされる事もあるのだ。ならず者と勘違いされやすく実際に粗暴な者が多い冒険者の事情は察して欲しい。


「とりあえず報告の為に冒険者ギルドに向かいます」


「分かった。状況が良くない今だからこそ細心の注意を払って欲しい。何かあれば我々は助力を惜しまない」


 握手をしてこの場を辞退するソラとハロルド。


「大分、きなくさい事になっているみたいだな。運営からは何か発表はあったか」


「無いな。突発的な大規模イベントにしては時期が悪い。明日は新規プレイヤーが追加される日だ。慣れていないプレイヤーにとって不利な条件は公平性を欠く」


 もしアンデスが失陥し、ポートロイヤルが大暴走(スタンピード)に巻き込まれても稀人であるプレイヤーは死ぬ事はないが大地人(NPC)は違う。また壊れた街からは住民は別の街に避難し、寂れた都市は徐々にその機能を失うだろう。


 トッププレイヤーの平均レベルは公表されていないが三十を越えることはないだろう。正式サービスが始まってから訓練に時間をかけてきたソラはまだレベルは低いが、経験値は相対的なもので適正レベルでないといくら数を狩ってもレベルは上がらない。


 ソラもボブゴブリンを狩るのに限界を感じてクルト村を拠点に地盤固めをするつもりで移動しようとしていたのだ。


 毒を使う厄介な虫系や蛇系の魔物は耐性スキルのレベリングも兼ねている。危険も増えるが見返りも大きい。何事も危険を犯さなければ得られないものはあるのだ。


 MWOの舞台はランスカ王国に限定されていない為に国を離れるプレイヤーもいるが、総プレイヤーの数は多くない。


 世界を構成している大地人(NPC)達に余計な影響を与えない為の配慮であるとされているが理由は分からない。


 嫌な話だが運営が開発費を回収する為にはプレイヤーの数は多い程に短期間で回収できる筈だ。VRゲームのノウハウがある会社から発表されたタイトルであるとはいえ営利企業である以上は仕方ないことである。


 他の企業と提携して宣伝費として資金回収をする場合もあるが今のところはそれらしきアイテムは見た事がない。


 世界観を壊す事はゲームの寿命を縮める行為であり課金に傾いたゲームはゲームバランスを失ってプレイヤー離れが加速してひっそりとサービス終了する事も珍しくない。


 月に数~十数万円をも課金する廃課金者によって生じる問題は少なくなく未成年による課金問題も昔は世間を騒がしたらしい。


 未成年に対する課金を制限したりなどの対策はとられたが、得たアイテムは正式サービス終了と同時に無用の長物となるために一時的な優越感を得られても長続きはしない。


 何かと騒がれる事の多かった握手権つきのCDを販売していた某アイドルグループの商法に近いものがあるのかも知れない。


 考え事をしながらではあったが二人は無事に冒険者ギルドに辿り着いた。ギルドは既に厳戒体制が敷かれており、普段なら依頼の為にいる一般人も今日は見当たらない。


 ギルド職員に知り合いの多いソラだったが、喧騒としたギルド内では声をかけられるまでは気付かなかった。


「ソラさん。無事だったんですね。ギルドマスターが呼んでいますのでついて来てください」


「ハロルド。悪いな少し待っていてくれ」


 いつも通りに執務室に連れて来られて、グリーンリーフティーを飲む。今日は少し濃い目で抹茶に近い味だったが、少しだけ疲労していた体が軽くなった気がしたソラ。


「ソラ。早速で悪いが話を聞かせてくれ」


 エバンス以外にも治癒師のリース、各部門の責任者達が勢揃いしている。


 必要ないと普段なら護衛を傍に置かないエバンスでさえ、専属冒険者であるマルコを筆頭に出入口を守る様に冒険者達が警備をしていた。


「分かっている事は少ないですが・・・」


 話を聞き終わったエバンスは早速、自警団から渡された魔石の解析を買取りカウンターの責任者である中級鑑定士に鑑定させる。


「確かにボブゴブリンではありますが、これは変異体ですね。他の魔物に乗り戦場を駆けるボブゴブリンライダーである事は間違いないでしょう」


「脅威度はC-、機動力さえ殺してしまえば普通のゴブリンとなんら変わりのない魔物だが厄介だな」


 そう評価したのは解体カウンターの責任者だ。ゴブリンの魔石を取るだけなら誰でも出来るが、傷をつけないで回収するのには経験が必要になる。


 大物である程に解体に要する技術は高レベルなものが要求される為に彼の部署で依頼される事が多い。


 その責任者である彼を持ってしてでもボブゴブリンライダーの魔石は殆ど見たことがなく、買取りカウンターの責任者も同様である。


「魔物全体から見れば弱い部類の魔物だが、クラスだとレア級に該当するじゃろうな。冒険者ギルドは大暴走(スタンピード)が起こった事を認定して事態の収拾に努める」


 竜槍を片手に街の広場まで移動するエバンスとギルド職員。ソラはハロルドと合流して広場の隅っこでこれから行われる発表を聞く為に陣取っている。


「冒険者ギルドポートロイヤル支部ギルドマスターのエバンスだ」


 スキルを使って拡声された声は広範囲に渡って届く。戦場で指揮官に求められる資質の一つに部隊全体に指示を出せるだけの声量が求められる。


 幾ら優秀な指揮官でも命令が部下に伝達されない状況では烏合の衆でしかなく各個撃破の的になるだけである。


「残念な知らせがある。まだ確定情報ではないが大暴走(スタンピード)の発生の予兆が観測された。住民の方々には落ち着いて行動して貰いたい。」


 ざわつく広場。冒険者ギルドの動きで目敏い商人や住人達は何か良くないことが起きた事を予感していたがそれが大暴走(スタンピード)だとは思っていなかったのだろう。


 飢饉などの天災によって命を落とす者が多い中で大暴走(スタンピード)は最悪の天災となる。


 親を失った子供は生き残る為にスラムで生活を余儀なくされ、飢えから盗みを働く者も多い。


 弱者とは常に奪われる者であり、他の者から奪って何が悪いと言うのは弱者の論理であり日々の生活は苦しいながらもまともに生活してきた者にとっても悪夢でしかない。


 治安の悪化が予想されるために兵士が見回りを強化するだろうか、人の見れない範囲もある。


 そんなところでは犯罪が横行し確実に治安は悪化する。裏の世界で生きる者にとっては勢力を拡大する絶好の機会であり、将来に絶望した者が構成員となることで非合法な行為を繰り返すのだ。


 影響はスラムだけでは留まらない。物価は高騰し農家など自給自足の術を持たない住民は家族の食料を確保する事に躍起になる。


 非常事態宣言が行われれば農家の育てた農作物は公定価格によって徴発される事になるが買取り価格は低い。


 そのかわりに税の減免がある為に損する事はないが長期的な食料不足に悩まされる事は間違いないのだ。冒険者は言うまでもなく魔物との戦いの矢面にたたされる事になる。


 この時に死亡した冒険者には幾ばくかの見舞い金が支払われるが親を失った子供が成長するまでの資金には足らないが暗黙の了解として住民全員で育てる。


 優先的に孤児院へと入れられるか仲間の冒険者が責任を持って大人になるまで育てるがどうしてもあぶれてしまう者はいる。


「鎮まれ。槍聖エバンスの名に置いて宣言する。冒険者ギルドは全力を持って大暴走(スタンピード)に対応する。既に専属冒険者エレメンタルブレイブには要請を受諾して貰っている。住民の方には冒険者の後方支援に当たってもらいたい。」


 広場は静まり返り誰もが口を閉ざしている。領主軍は精強でクライン伯も治安維持に熱心な事で知られている。


 弟が行う政策も善政で平民に一方的な負担を強いてはいない。だが住民達は不安なのだ。元々、領外の生活が苦しくて移住してきた者達かその子孫だ。


 親から聞かされている生活に戻りたいとは思わないが、命を落としたくもない。


 自分達に協力できることならしたいが損だけはしたくない。住民は生活があるために簡単に協力を約束は出来ない。自分の首を絞める事になるのなら尚更だ。


「俺達は協力を惜しまない」


 そう宣言したのは鍛冶師ギルドに所属する者とこのポートロイヤルで魔法薬を取り扱う店の店主達である。彼等は他の住民よりも冒険者に接する機会が多い。


 命を落としそれまで贔屓にしてくれた冒険者が来なくなった事も少なくはない。彼等にとって冒険者は客であると同時に友でもある。


「鍛冶師ギルドと薬師ギルドは連名で冒険者ギルドに協力する様に上に掛け合う」


「行動できない事は罪だ。力のある者の義務として冒険者は戦う。儂が大暴走(スタンピード)に遭遇した時にも死にたくないと泣きながら友を家族を守る為に冒険者は死んでいった者も多くいた」


 槍聖として生きてきたエバンスには大暴走(スタンピード)で亡くなった名も無き冒険者の勇気を無駄にする事は出来ない。


 英雄と呼ばれるエバンスは多くの死を見送っており、毎年終結した日にはギルドマスターとしての職務をサブマスターに任せ弔問に訪れているのだ。


「冒険者だけでも領主軍だけでも大暴走(スタンピード)は乗りきれない。住民達は出来る事で街の防衛に協力して貰いたい」


 SM(システムメッセージ)

『広域特殊イベント【大暴走(スタンピード)】が発生しました。プレイヤーの皆様は各都市の防衛に尽力してください。不参加によるペナルティは発生しませんが状況によってはプレイヤーの皆様に不利益となる場合がございますので留意してください』


 宣言が終わると護衛を引き連れてエバンスは冒険者ギルドへと戻る。ソラはクルト村で売買する為に食料が魔法袋に入っている。


 一人で食べるには多いが、数十人で食べればそう長くは持たない量ではあるがないよりかはましだ。冒険者に提供する事を決めてフレンド通信を行う。


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