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二十六話

 ソラとハロルドは休憩を挟みつつも確実にポートロイヤルへと向かって移動していた。


 アイカを探しながらの移動だった為に普通に歩くよりかは多くの時間を有したが、ソラはアイカが既に保護されてポートロイヤルに辿り着いている事を知らない為に焦りを隠せないでいた。


 ソラはアイカと別れた事を失策だったかと考え始めている。言動に幼さの残る少女に対して言い方がきつ過ぎたかも知れない。


 足でまといになっていたのは紛れもない事実だった。魔法の発動のタイミングを伝えると言っておきながらそれを忘れ巻き込まれそうになったのだからソラが怒るのも当然と言える。


 これまでラビット系かゴブリン達ぐらいしか戦闘経験の無いソラにとってシャドウウルフでさえ厄介な相手で、リザードマンに至っては勝てるかすら分からない相手だ。


 魔物もAIで動いている以上は規則性がある。ベータ時代にも戦った事がある相手でも予期せぬ攻撃を仕掛けてくる為に油断は出来ない。


 ステータスが低くても、プレイヤースキルさえあれば苦戦しないし、基本的に始まりの街ポートロイヤル周辺の魔物は魔境にさえ近づいていかなければ全体からみれば弱い魔物しか出てこない。


 だが、中には突然変異とも言える強さを持つ魔物が現れる事から油断は出来ない。それに一つの世界である以上は弱い魔物しか出てこないのは不自然だという理由から周囲環境が変わってしまえばかなり強い魔物さえ普通に現れる仕様らしい。


 とにかくアイカを捜索する事を諦めて最短距離でポートロイヤルに向かう事にしたソラとハロルド。ポートロイヤルでは既にクルト村の情報が届き混乱に陥っているとは知らずに


 ----


 式神を最初に発見したのはロマの部下だった。ロマはソラを救う事になった自警団隊長であり、普段からポートロイヤルの門に詰める領主軍の兵士と自警団員との連絡役をしている。監


 視を行っていた自警団員は鳥型の物体を発見した。


「三時の方角より飛翔物あり。対応を願います」


 ロマは自警団に貸与されている望遠鏡で飛翔物の確認を行う。


「あれはエレメンタルブレイブのアルト殿の連絡用の式神だ。攻撃しない様に通達」


 門兵はポートロイヤルに訪れる商人や冒険者、住人に対しての警察権を持っている。


 領主軍の隊長より自警団の隊長の方が持っている権限は低いが、数年で転勤する事になる領主軍の兵士とは異なり自警団員はその土地に住む有志であり、自警団員以外にも職を持っている者は多い。


 流石に隊長クラスは職業軍人であるがその出自は冒険者だったり、領主軍の下級兵士だったりする。


 近衛騎士団を含まない四軍と領主軍の関係は微妙であるが、国として領主には自治権が与えられ、防衛の為の戦力が領主軍であることから両者の仲は微妙である。


「指揮権を預ける」


 部下の平隊員にそう告げて東門から離れるロマ。なんとなくだが嫌な予感がしたのだ。


 平民とはいえ冒険者の知り合いが多いロマ。冒険者からの話で最近はきなくさい事になっている事を自警団でも警戒しており、休養の形をとっているがエレメンタルブレイブのメンバーも何処か落ち着きがない様に感じられた。


 アルトがまだ小さい頃から知っている住人にとって高ランクの冒険者が街の防衛に尽力してくれる事は有難いことでロマも既に亡くなったアルトの両親と妹を知っている。


 ロマはアルトの妹の死因を知っているだけに、アルトが無理をしているのではないかと考える事が多い。だがその考えは頭の片隅へと追いやる事となる。


 ----


 式神を受け取ったアリシアは直ぐにエバンスへと報告する為にギルドマスター室へと急ぐ。


 本来であれば、エバンスに直接届く様にしたいところだったが、エバンスは魔力をほとんど持たない特異体質であったが故にギルド職員として信頼されていたアリシアに届く事になったのだ。


「ギルドマスター。アルトさんより式神が届きました」


「アリシア君。ノックくらいせんか」


 アリシアを叱責する事になったエバンスだが、それ以上は注意するつもりもないらしい。


 アリシアは受付嬢としてギルド業務を行うが、本来の立場は冒険者ギルド本部付きの職員であり、ポートロイヤルには実務を積む為に研修に来ているに過ぎない。


 手紙を読んだエバンスは顔をしかめる。内容はクルト村を襲う兆候をクルト自警団員が察知し、その警戒と魔境の不穏な気配を調査員として派遣したクロウが感じとっていた内容だったからだ。


「ギルド規則に基づいてBランク以上の冒険者を緊急召集。以後、冒険者の指揮を儂が執る」


 非常事態に基づく強制召集令。ギルドマスター及び補佐にあたるサブマスターの判断により行われる命令は現在、受注している依頼に対しての優先権がある。


 当然、依頼破棄に対する罰則はなく、違約金はギルドが負担する事になる。


「現在、ポートロイヤルに滞在しているBランク以上の冒険者は専属冒険者以外ですとエレメンタルブレイブとマドカ氏のみです」


 基本的な冒険者の所属は登録を行った支部となるが広範囲に渡って移動する冒険者は活動拠点を移した際にはギルドに報告する義務がある。


 今回の様な緊急事態に対応できる冒険者は限られており、戦力は個々が高い技術を有している為の措置だ。


 時期を見て全ての冒険者に公布するとしてもクライン伯との協議なくして勝手に冒険者ギルドが発表できる内容でないために後手に回る事を承知でポートロイヤル支部ならびランスカ王国全体にある冒険者ギルドの力を結集して対応する。


 組織としては国から独立してはいるが冒険者ギルドで働く冒険者や職員がはその国で生まれ生活する者が殆んどだ。だからこそ必死になって戦えるのだ。妻を子供を隣人を守る為に。


「休暇をとっている職員の緊急召集と緘口令を敷くのを忘れるな」


「はい。私はそれに合わせてギルド庫の解放準備を行います」


 有事における冒険者ギルドの担う役割は大きい。国軍や領主軍が対応できない魔物が出現した際には、命を盾にしてでも侵攻をくい止め、反撃の体制が整うまで捨て駒となることさえある。


 だからこそエバンスは過去に起きた大暴走(スタンピード)におけるランスカ王国の領主の行動は裏切りであり、多くの犠牲者を出してしまった事を今でも悔やんでいるのだ。


 だからこそ今度は被害を最小限に留めて見せる。通信の魔導具を部下であるリースに使用させてランスカ王国全体の冒険者ギルドへ緊急コールを鳴らす事を躊躇わない。


 自分が責任をとることで一つでも多くの命が救われるならそれでよい。老境に差し掛かった命ならくれてやると考えるエバンス。今こそ果たせなかった約束を守るときなのだ。


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 城塞都市アンデス


 ソラがポートロイヤルを出発した頃へと時は遡る。普段から城門は閉ざされており跳ね橋を人が来る度に下げることで内外の移動をアンデスでは行っている。


 凶悪な魔物を街の中に入れない為の措置であり、百人隊長以上の許可が無い限りは出入りは一切、禁じられている。


 特に監視体制が整っているのは魔境に面する東側で跳ね橋が操作されるのは基本的に東門以外である。


 魔境に定期的に狩りに出掛けるが精鋭の中の精鋭と呼ばれるアンデスを防衛する領主軍でも負傷者や時としては死者が出るのが魔境である。


 しかしこれをしないと魔境に住む魔物達が食料を求めてアンデスを襲う事になるのだ。


 外縁部の魔物はともかく、内部に行く程に魔物の脅威度は上がっていく。内部ではオーガでさえ弱い魔物になり、魔物達の食料となっているのだから察して欲しい。


 そのまま魔境の中だけで生存競争をしていてくれればと思わずにはいられないが、人類と魔物は敵対する運命にあるようだ。


 いつもの様に魔境の監視任務に就いていた弓士隊の五十人隊長は【鷹の目】で魔境に異変が無いかを探っていた。そのときだった赤い光が見えたのは。


「伝令。東の魔境より赤の魔法弾を確認。三点鐘を鳴らす様に要請」


「はっ。繰り返します。東の魔境より赤の魔法弾を確認。三点鐘を鳴らす様に要請します」


「宜しい。直に行動しろ」


 伝令の姿を見送ってから部下の弓士に命令を出す。


「弓士隊は東門に集合。魔法中隊に支援要請を出す」


 普段から備えはしてあるが弓士は矢がなければ只の肉壁にしかなる事は出来ない。


 五十人隊長も中級弓士では上位の実力を持つが上級弓士には至っていない。スキル構成も戦闘向きではなく、遠距離からの攻撃は牽制の意味合いが強く罠を解除したり、いち早く接敵を察知するなど直接的な戦闘力は低いが軽視すれば隊としての行動は破綻するだろう。


 軍事の要所として建設されたアンデスにも商人や軍人の家族といった非戦闘員は多く住んでいるし、文官は最低限の軍事訓練を受けただけの戦いの素人である。


 その為に三点鐘が鳴らされた後のアンデスは冷静に行動する者とパニックになりその場に崩れ落ちる者など様々な反応が見られた。


「何が起きた」


「監視任務に就いていた弓士隊が魔境からの魔法弾を確認。現在は厳戒体制に移行中であります」


 アンデスの総指揮権を持つ守将の肩書きを持つ歴戦の戦士であるブロードは現状を寝起きの頭で確認し、命令を出す。


「領都クラインに早馬の伝令を出せ。またポートロイヤルに対しては警告を与えよ」


 通信の魔導具は距離によってかかる魔力が増大する。悠長に通信している余裕など無いために予め符号を決めそれに従って通信を行うのが一般的だ。


 中継所を挟めば言葉による通信も可能だが、言葉は人を挟む程に変質していく伝言ゲームみたいなものだ。


 異変を伝えても大した事はないととられて防衛策がとられずに全滅する事態も発生したことから簡略化した符号を二度打ちする事で、誤認を防ぐのが一般的な使用法である。


 夜行性の魔物は多くブロードが就寝してからそれほど時間は経っていない。


 夜明け後、直ぐに魔境に調査隊を派遣する事はないし、そんな命令をブロードは出していない。となると信号弾を打ち上げたのはクロウしかいない。


 冒険者ギルドから派遣されてきたAランク冒険者クロウは浅瀬での単独調査を開始してからオーガやリザードマン、不死族(アンデット)の骸骨剣士、骸骨騎士、骸骨魔法師の魔石を連日連夜に渡って取得していた。


 不死族(アンデット)は魔素の濃い土地で亡くなった元人間だとされている。


 土地に色濃く残る怨念が死者の魂と肉体を変質させ魔物として縛った姿だとされている。だからこの世界では火葬がメインで土葬を行う場合には純度の高い聖水で清めた後に納官されるのだ。


 アンデットは生前の能力に依存するとされているが故に高レベルの死者は確実に火葬される。


 宮廷魔導師の遺体を火葬しなかった為に骸骨魔法師→骸骨魔導師→骸骨大魔導師→不死魔導王(リッチ)となった個体によって甚大な被害を受けた国も存在する。


 魔物は命と引き換えに富を冒険者にもたらす。だが、都市を防衛する者としては魔境の活性化など悪夢でしかない。


 大暴走(スタンピード)の発生原因は人知れず自然発生した迷宮(ダンジョン)の魔物を間引きする事が出来ずに大量発生した魔物の内、生存競争に負けた個体がダンジョンの外に溢れ、群れを作る事で発生するパターン。


 変異体が周辺の魔物を統合して出来た群れが本能に従って人を襲うなど学説があるが真偽は判明していない。


 だが、大暴走(スタンピード)に巻き込まれる側から見てみれば発生原因は調査すべき問題ではあるもののいかに発生させないかよりかは発生した後にどう対応するかに重点を置いているため関係がないことなのかも知れない。


「急報。魔境よりオーガの群れとリザードマンの群れを確認。共に共闘してこちらに進軍中」


「確度は」


「複数の監視部隊により確認。誤報の可能性は低いかと」


 大暴走(スタンピード)では魔境から出てきた魔物が共闘する事例は数回しか確認されていない。


 それも古い文献にあるのみでクライン伯がこの地を治める様になってからは確認されていない。


「全兵士に緊急召集を通達。非戦闘員には家から出ない様に通達しろ」


 鐘が鳴ったことにより何かが起きている事はアンデスに住む者なら理解しているだろう。


 三点鐘も住人に警戒を促すもので当直にあたってある兵士を召集する為の合図である。


 普段なら百人隊長でも跳ね橋を使用する許可は出せるが、この時点で五百人隊長の許可がなくてはならず実質的に見殺しにする判断をした事になる。


 それ程にアンデスの状況は悪くなっていた。


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 クロウは折れてしまった脇差しを何とか回収してアンデスへ向けて移動を開始していた。残りの武器は刀のみでこれを折られる訳にはいかない。


 そうすれば剣士であるクロウは素手で魔物と戦闘をしなくてはいけなくなるからだ。刀匠ナガマサには刀を鍛え直して貰えないかもしれない。


 何とかアンデスに向かう魔物の数を減らそうと孤軍奮闘してみたが引き際を誤ったのは事実だ。


 一人でできることなどたかが知れている。だがアンデスが抜かれればその脅威は大陸へと広がるだろう。修行を終えて祖国に帰る身としては関係のないことかもしれないが、それで当主となっても後悔するだけだろう。


 なら後悔しないように自分に出来る事をするべきだ。気闘術によって身体強化はしているが俺より足の早い魔物は多いだろう。


 浅瀬で狩った魔物の量もいつもより多く深部へと足を踏む入れるべきではなかったが今は何を言っても仕方がない。挽回する機会は必ず巡ってくる筈だ。


 クルト村に連絡がいけば必ず竜騎士をアンデスへと派遣してくれる筈だ。カイト殿もトルウェイ殿も過酷な環境に身を置いてきた人達だ。武人としても人としても信頼できる。


「道を開けろ」


 道を塞ぐ様に現れたリザードマンを斬り捨てる。刀の耐久値は更に減ってしまっただろうが、命には代えられない。生還すれば詳しい状況を守将ブロードへと伝える事が出来るのだ。ただそれだけを考えてクロウは走り続けた。


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「魔法第一小隊。放て」


 魔法師で構成された部隊を率いる五十人隊長は部下に命じてアンデスの東門周辺に発生した魔物に向かって魔法を放つ事を命令した。


 弓士隊の放った火矢を目印にして放った魔法は魔物を数体を巻き込む事に成功したが、勢いは止まらない。


「続いて弓士第二小隊。放て」


 魔法部隊と弓士部隊の交互に放たれる攻撃は魔物に当たるが数が多すぎてこのままでは城門にとりつかれるのは時間の問題だった。


「上級魔法を放つ。それまでに土魔法師は可能な限りの盾を東門前方に展開せよ」


 攻撃に優れる火魔法師の攻撃は確実にダメージを与えてはいたが、現状を打開できなければ籠城しても確実に内乱によってアンデスは陥落する。


 数少ない上級魔法師によって数を減らし、その間に態勢を立て直すのが東門を指揮する千人隊長の判断であった。


 火の上級魔法師数人による火球は並みの人間では出せない程の威力を持っている。


 合体魔法と呼ばれ、教会の扱う合唱魔法を参考ランスカ王国の宮廷魔法師が研究し作り上げた知識の結晶である。


「火を司る炎神よ」


「我は願う」


「血肉を。魔力を糧として我が敵を焼き払わん事を」


「「「「【メテオボール】」」」」


 四人の上級魔法師によって形成された特大のファイヤーボールは一直線上の全ての魔物を灰塵とした。


 放った四人の上級魔法師は魔力欠乏症によって意識を絶ち、傍に控えていた治癒師によって介抱されている。アンデスから魔境に伸びる一本の線は文字通り彼等が命を削って作った道である。


 吐血し、内臓にダメージを負った上級魔法師達は直ぐに復帰することはないだろう。彼等は部下を持つ隊長であり、攻撃の要であるが今はアンデスに魔物を近付けない事が優先された。


 その間に街の外に出ていた者の収容作業が行われており、剣士や盾士で構成された部隊を展開する為に必要なのは時間だったのだ。


「報告。魔法弾を上げたクロウ殿を収容。治癒師による治療中であります」


「絶対に死なせるな。上級治癒師を一人専属でつけてもかまわん」


 クライン伯が留守の間を守るブロードとしては重要人物であり、今回の原因を知っているかも知れないクロウから情報を得る必要があった。


 最悪の場合、大和国とランスカ王国が戦争状態になる可能性もある。大和国とは海を挟んで数ヵ月という距離があるが、武士を見殺しにしたとなっては外交問題では済まない事情がある。


 苛烈な攻撃で知られる武士は近接戦の要であり呪術師と呼ばれる大和国の魔法師はこの大陸と体系を異なる魔法を使う為に防御方法も限られるからだ。


 人類にとっての最悪の災害。大暴走(スタンピード)はまだ始まったばかりであった。

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