二十四話
助太刀してくれたプレイヤーはハロルドと名乗った。普段からソロで活動しており、冒険者として活動してはいるがパーティを組んだ事は臨時でしかないらしい。
俺も人の事は言えない。唯一交流があるプレイヤーは鍛冶師のタイラーだけだ。MMOはソロで活動するのには難易度が高く必然的に効率は悪くなる。
顔の見えない昔のオンラインゲームと違って仮の姿ではあるがチャットではなく現実と変わらない様に会話が出来るVRMMOはネット弁慶には辛い環境である。
リアルで孤立している者がゲームの中でも孤立するのである。仕事だからと我慢していたが生来は社交的でない自分と同じ雰囲気をハロルドから感じ取った。
ハロルドも同じだった様で俺達は無言で握手をしていた。冒険者同士で臨時パーティを組む事は可笑しな事ではない。
命を賭けて冒険者という因果な商売をしているのだ。当然、死亡率は傭兵とあまり変わらない。窮地に陥っている冒険者がいれば余裕があれば助ける。情けは人の為にならないからだ。
見殺しにしても当事者が生還する確率は低いために問題にはならないだろうが、見殺しにした者が自分が窮地に陥った時に他人の助力を当てにするのは愚かな事である。
自分の命を危険に晒してまでも他の冒険者を助けるからこそ依頼者やギルドから評価される様になりいざという時に助けて貰えるのだ。
「ハロルドさんはこの後はどうするんですか」
「そうだな。城塞都市に行こうかと考えていたが考えが甘かったらしい」
話をしていると何となくだがハロルドはベータテスターであるらしいという事が分かった。ベータテスター自体の数は少なく交流もあった為に顔見知りの可能性もあったが相手が指摘して来ない限りは追及する必要はない。
「さっきの魔物はボブゴブリンライダーとなっていましたし、何かしらの異変があることは間違いないですね」
実はアーチャーやマジシャンなどの亜種は確認されていたがライダーやテイマーは未だに確認がされていない。希少種である。
ギルド図書館に蔵書されている魔物図鑑を読んだことがあるソラだったがライダーに対しての情報はなかった。
昔の魔物研究者が書き記した書物なので情報が古い可能性や敢えて記載していない可能性もあったが何かが起きているのは確実だ。
「俺もポートロイヤルに帰還するとしよう」
「分配についてはどうしますか」
助太刀して終わりになれば良いが、基本的に討伐報酬や魔物の素材を売る事で日々の糧を得ているのが冒険者であり後で揉めることも少なくない。
善意で助けたつもりが余計な事をするなと罵倒される事もあれば、助太刀を頼んでないのにも関わらず戦闘に介入してきて分け前を要求する悪質な冒険者も存在する。
「見返りが欲しかった訳でもないし、シャドウウルフの素材と魔石で十分だ。それに良い関係を築けるかもしれない相手に強欲になって機会を失うのは馬鹿ばかしいことだ」
冒険者ギルドに報告すれば直に調査隊が編成されるレベルの話であり、当然発見した冒険者には別途報酬が出るはずだ。
普通のボブゴブリンとシャドウウルフであればシャドウウルフの方が価値があるが調査の為に素材と魔石を強制的に買い取るはずだ。
そうすれば高値がつくのはボブゴブリンライダーの方になりハロルドが損をすることになる。助けた方も助けられた方も冒険者の鉄則に従って討伐した冒険者に一切の権限があるとした方が楽なのは確かだがそれではソラの気持ちが収まらない。
「それでは対等な関係は築けない」
「そんなに気にするならポートロイヤルに戻ったら何か奢ってくれ。それでこの話はチャラだ」
その方が良いのかも知れないとソラは感じた。足りないと思うなら鍛冶師のタイラーを紹介すれば良い。プレイヤースキルも必要だが武器が戦闘に占める割合は低くはない。
良い鍛冶師を贔屓にしてこそのトッププレイヤーであり、生産職に見捨てられたプレイヤーは武器の補修もままならない。
この辺りをソロで活動できるだけの実力があり、城塞都市まで移動しようとしていた事を考えると自分よりレベルはかなり高いだろう。
実際問題、ギルドに拘束されていた期間はスキルレベルを上げる事は出来てもレベル上げはできなかった。初期のレベルが大きな差となるのは珍しくない。
攻略情報はある程度までは公開されるが必要以上の情報は秘匿されるのが普通だからだ。一つの素材アイテムですら情報が隠される事はよくある。
ゲーム内とはいえ巨額が動く事もあるし、公式にRMTが認められているのだから当然だ。未だに回復薬はあっても蘇生薬はない。
どの様な形でもたらされるかは分からないが、蘇生薬を製薬できる薬師はそれだけで一財産を築くことも可能だからだ。
「分かった。なら腕の良い鍛冶師を紹介するよ」
「そっちの方が俺としては有難い。ドロップ品には限界があるし、NPCメイドは質は平均的なものしかないからな」
雑談をしながらポートロイヤルに向けて移動しているが、今のところはボブゴブリンやシャドウウルフは出てきてもユニークモンスターらしきライダー系やオーガといった魔物は出てきていない。ハロルドは純粋な戦士系であるみたいで魔法は習得していないらしい。
魔法剣士がいない訳ではないが、剣士としての物理攻撃と魔法師としての魔法攻撃にソースを割り振らなくてはならないために器用貧乏に陥り易いらしい。
物理攻撃に対して耐性を持つ魔物や逆に魔法攻撃に対して耐性を持つ魔物もいるために魔法剣士の需要はなくなることはないだろうが、ソラの様に近接では短剣を使い、中距離では魔法を使う斥候職は限られたプレイヤーしかいない。
その為に前衛・後衛と言った役割があるのだ。全ての魔法師が近接戦をこなせる必要はないが、接近されたら簡単に負ける魔法師の戦場での生存率は低い。
愚かにも人同士での戦争を止めることができないのだから国軍は対人戦に特化し、対魔戦は冒険者や自警団に任せるという国は多い。
途中、襲い掛かってきた魔物を二人で囲い、殲滅して素材と魔石を回収する。解体スキルは伸ばしておいて損をするスキルではないし、時間が経過する毎に解体で得る素材の質は悪くなるらしい。
時間を止める方法は一部の特殊魔法師だけしか扱えないので仕留めたらすぐに解体するのは冒険者の常識である。
駆け出しの冒険者や特殊素材に関してはギルドの専門職に任せる事が推奨されているが、ボブゴブリンは使える素材がない上に簡単に繁殖する。
シャドウウルフの皮はそれなりに防寒具や防具としての需要があるが、特殊加工は特になく、綺麗に剥いだ方が買取り価格は高くなるが装備としての価値はそれほど高く無いために神経質になる必要はない。
臨時パーティを組んだ二人は得られた魔石などの素材と討伐報酬を二等分することで互いに協力する事になった。貢献度に応じて報酬を変える事もできたが不和の原因になりかねない。
それならば必要経費を除いて報酬を等分した方が余計な揉め事にならなくて済むのだ。
ソラはエバンスに訓練された事もあって武技を発動することは滅多にない。通常の動きで十分でありスタミナを消費する武技の使用を控える方針なのだが、ソラとは対照的にハロルドは武技を使う事に抵抗はないらしい。
武技ごとに習熟度が設定され、威力も段違いとなるらしいのだが、威力と同時に微量ではあるがスタミナの消費も増える。
スタミナの最大値は空腹値やSTRに影響されるらしいのだが最大スタミナ値までは少し休憩を挟む事で回復する。このゲームでは空腹値は無視できない数値で零になればHPが減り最終的には餓死する。
パンなどでも回復はするが味覚のある世界でゲームの中だけとはいえ不味い物を永遠に食べる事に耐えられるプレイヤーは多くない。
少しの工夫で大分変わり、【調理】のスキルを持たなくても料理は出来るが完成した料理にステータス向上効果はなく、調理に関しても現実の料理の腕が反映されるというプレイヤー泣かせで有名だ。
低スキルでもある程度の料理スキルがあれば毒物や暗黒物質の料理が出来る事はまずないと言って良い。
中には例外もいるので正式サービス開始時に起きた【毒皿事件】の様な悲劇も起こるが、現実世界でもお米を洗剤で研ごうとする人や何を混ぜたらこんな料理が出来るのかと首を捻りたくなく料理はあるのでこれも一つの真実だ。
因みに毒皿事件は性別の偽ることの出来ないこの世界で女性プレイヤーの手料理を食べた男性プレイヤーが異常状態【毒】になり解毒の出来る教会に運ばれた事件である。
魔石を抜かずに魔物の肉を調理した事で起きた事件で料理を作った女性プレイヤーの名誉のために言うのならこの女性は普段から自炊しており料理は下手ではない。
ただ不運な事に自分達の世界の常識をこの世界の常識と勘違いした事により起きただけで料理人が不遇職となった訳ではない。
注意喚起する意味で広まった話だが、今ではその女性プレイヤーが作る屋台には行列が並んでいるとだけ記しておこう。
さくさくと現れた魔物を倒してポートロイヤルまで帰還する二人。
食事休憩を挟む事にしたがハロルドは移動時間を短縮するために荷物となる食料は干し肉くらいしか所持しておらず、ソラも同じ様な状況だった為に空腹を何とか誤魔化している状況だ。
徒歩での移動に加えて戦闘も行わなければならない。しかも防具は重い物が多くソラが身に付けているスモールラビットの革で出来た鎧は通気性が悪く動きを阻害しない様に作られている分だけまだハロルドが装備している全身鎧よりはましな状況だが、スタミナは容赦なく削られている。
「金属鎧は動きにくくないのか」
明らかに可動範囲を狭めており、回避盾に近い動きをするソラのプレイスタイルでは全身をガチガチに固める防具はデメリットはあってもメリットは少ないだろう。
「プレイスタイルは十人十色だからな。俺の場合は機動力を殺してでも魔物の一撃に耐える防御力が必要なだけであってソラの様な戦闘スタイルなら金属よりは革装備の方がいいんじゃないかな」
攻撃と防御を一人でこなさないといけないのはソラもハロルドも同じだが、パーティプレイを想定しているのならハロルドの方が前衛としては優秀だろう。
ハロルドが言った様にある程度の定石のプレイスタイルはあっても絶対というプレイスタイルは存在しない。
物理特化の攻撃に対して物理防御を上げる事は確かに有効な手段だが魔物も魔法攻撃をしてくるし、敵は魔物だけとは限らない。
それに紙装甲と呼ばれるプレイヤーの中には当たらなければ問題はないを地で行く強者も少数ではあるが存在する。
音に対して敏感な魔物も居れば熱感知型の蛇の様な魔物もいる。スタミナの回復手段すら確保していれば防御力の高さから即死する確率が低くなる全身鎧に人気が集まるのは自然な事でもあった。
それに大剣に全身鎧は男のロマンでもある。
醤油顔の日本人には西洋風の装備は違和感が大きいという弊害もあるがコスプレ会場ではないので似合ってなくても戦闘さえできれば良いと割り切るプレイヤーは多い。
アバター作成時に顔をカスタマイズすることも出来るが作り込み過ぎると慣れた人にしか分からない程度ではあるが天然ものに対して人造は違和感がでる。
人造イケメン乙や人造美女乙と揶揄されるが暗黙の了解として指摘しない事がVRゲーム上のマナーとなっている。
気闘術の強化や重量軽減の付加によって負荷を軽減することで愛用する者もいるが始めたばかりのプレイヤーに重量軽減の付加が掛かった装備が買えるほど安くはないのでハロルドはSTR値が高いビルド構成をしているのだろう。
どのビルド構成が良いという訳でもなく平均的に伸ばせば穴もないかわりに大したダメージを与えられない平凡なキャラが出来るだけだ。
短剣や革鎧は必要STR値は低いが要求されるのである程度は振っているが要求STRを大きく下回ってないかぎりは移動ペナルティは受けるが装備は出来るので機動力を犠牲にしてまで重装備をするプレイヤーは少ないが存在する。
クルト村へ行くのであれば一夜は夜営を覚悟しなくてはならなかったが結局は引き返してきている為に魔法袋に入ったテントは必要なくなった。
十万コルもした結界の魔道具も無駄になってしまった。買い付けた食料も消費しないといけない為に今回の出費は挽回は出来るがそれなりに痛い。
野菜は腐らせる位なら二束三文でも売却した方が良いだろう。メインの干し肉に関しては保存期間が長いためにまだ魔法袋に入れたままにしても問題はなさそうだ。
数は多いが大した戦闘能力を持たないゴブリンを相手にしていたことで感覚が鈍っていた様だ。
ハロルドがゴブリンに対して振り下ろした一撃は何故か頭を出してきたスモールアントの頭をゴブリン共々、打ち砕く。
「スマン。ソラ。スモールアントをやっちまった」
「分かった。早く移動するぞ」
だがソラ達の行動は遅すぎた。仲間の体液の匂いに惹かれて仇討ちの為にソルジャーアントの集団の気配をソラは感じとった。
「ハロルド。もう遅かったみたいだ。囲まれてるから覚悟しとけよ」
ソラはクレイクリエイトで土の盾を作り上げる。集団が相手の場合には、ダメージを与える事よりダメージを受けない事をソラは重視するからだった。
ハロルドもさきほど倒した魔物の魔石の回収を諦めて戦闘態勢に移行する。一体はそれほど強くないが、メンテナンス無しに魔物を斬り続けれ武器は磨耗して最終的には使い物にならなくなる。
ソラは無手での戦いをエバンスに師事していたがハロルドはそうではない。攻撃は大剣によるものだけで蹴りと殴打のスキルは持っていてもスキルレベルは低い。
戦場では武器破損で無手で敵を殺さなくてはならない事もあるし場所によっては武器を携帯できない事もあると言われ近接格闘を得る為にもスキル上げをしたが役に立ちそうな場面は今でなくても良いだろと内心で思うソラ。
蟻の甲殻の隙間を大剣を使って上手く切り裂くハロルド。武器の損耗をこれ以上させないために慎重に攻撃する。
ソラの一撃は大剣と比べると地味だが予備の短剣があるために二本までなら最悪、折れてしまっても戦闘は継続できる。
倒しても倒してもアント達は二人に群がっている既に倒した数は十を越えるかといったところだがアントの勢いはまだ衰えそうにない。
「ハロルド。武器はまだ持ちそうか」
「ああ。耐久力はまだ十分に残っているがこれ以上、長引けば武器が先に壊れかねない」
大剣を盾としてもハロルドは用いていて蟻酸によって表面が溶かされ武器としての性能も落ちている。
ビルドアントとソルジャーアントとしかまだ現れていないが近くに蟻塚がありそこから際限なく出現していているためにきりがなくなっている。
撤退するなら武器も防具もまだ機能している内にした方が堅実的でこのままだと蟻達に呑まれかねないのが現状だった。
「ソラ。ここは一旦引く。俺がある程度、武技で蟻を散らすからその時が絶好の機会だ」
ソラも戦闘中なので目の前の蟻達を少しでも近寄らせ無いために土魔法を詠唱する。
「万物を司る大地よ。我が魔力を糧にその姿を変えよ【クレイクリエイト】」
大剣の攻撃を阻害しない様に少し隙間を開けてハロルドと対峙できるアントの数を減らす事に成功したソラ。
左右の土魔法による盾は物理耐性を持ちバリケードとしての機能を果たしてから消えることとなる。
「ソラ。行くぞ。【ソニックブレイド】」
大剣から生じた衝撃波は固い甲殻の上から振動として伝わり内部を破壊する。
ソラは二体分のソルジャーアントの死骸を回収したがこれ以上は難しいそうなので欲張らずに背中に意識を向けながら走り出した。
ソラに追随しようと走り出すハロルドだが、装備が重いうえにソラの様に気闘術による身体強化が出来ない為に距離が開く。
ソラはアリシアの警告に従って消臭効果のある薬草でアントの体液の匂いを消す。ハロルドが遅れて来ている事に気付いたので少しペースを落としてハロルドと並走する。
「ハロルド。このアイテムでアント達の体液の匂いを落とせ。そうじゃないといつまでたってもアントは仲間の敵討ちを止めることはない」
ソラがそんな知識を身に付けているのか気になったハロルドだが、ソラに言われた通りにするのが先決だと考えて匂いを落とす。
「現実世界でもムカデみたいな昆虫が敵討ちをするのを知っていたが、ここまで執拗だとは思わなかった」
「そうだな。俺も冒険者ギルドの図書館の魔物図鑑で知ったが、Dランクでも迂濶に手を出せば全滅するらしいから当然だと思うぞ」
ソルジャーアントの脅威度はE+~D-だが、群れとしての脅威度はCランクに位置付けられている。
昆虫の中でも社会性を持ち単独で冒険者を攻撃した後に倒されても仲間を呼び続ける効果のある体液を分泌するため、消臭剤で匂いを落とすか水浴びでもしない限りはその脅威から逃げる事は出来ないのだ。
予備知識のない冒険者の死亡率は高く、この世界に生きる者でもアントの生息域に住んでいない限りは習性を知らないままに攻撃して取り返しのつかない事態に陥るという初心者殺しの魔物だ。
二人は戦闘で疲労が溜まったので少し休憩をしてからまたポートロイヤルに向けて歩き始めた。




