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二十二話

 アルトが二人から離れたのには訳があった。アイカとソラは気付いてないようだったがクルト村のある方角から狼煙が上がっていた。


 クルト村の戦力は規模の小さい村にしては破格だったが、城塞都市アンデスを迂回して現れた魔族は弱いとしても知恵が回るのは間違いないだろう。


 アイカの事は心配だったが、クルト村が蹂躙されれば外壁はあっても大型魔物の攻勢に耐えられるだけの強度がないポートロイヤルの防衛力では不安が残る。


 今はパーティメンバーが滞在している為に普段よりは防衛力は高いが、人数が少なくポートロイヤルを拠点にする冒険者の質を考えると楽観視は出来ない。


 城塞都市アンデスの様に大暴走(スタンピード)に備えて食糧の備蓄や魔石の保管は行っているが全ての住民の食糧を都市内だけで賄うのには限界がある。


 領主軍も最終防衛ラインを城塞都市アンデスに置き各都市の防衛のために置かれる領主軍の兵士は新兵もしくは二線級の者ばかりだ。


 クルト村から上がった煙の色は黄色。大規模ではないが魔物の襲撃が予想され、外壁の外に居る者に対して警戒を促す事を意味していた。


 アルトはクルト村に住む【元深緑の森のクランマスター】トルウェイから預かった竜笛を吹く。仲間以外の竜を呼び寄せてしまうリスクはあるが、今アルトがすべき事はソラとアイカに急報を託しクルトの防衛に協力することである。


 数分もしないうちに竜を操った竜人が迎えに来た。彼はクルト村の自警団に所属する火竜人アリスターだった。


「アルト殿。クルト村の防衛に力を貸して頂きたい」


「分かっています。ただ竜騎士を一名。護衛としてポートロイヤルに帰還中のアイカにつけて欲しい」


「カイト殿なら断りますまい。助力に感謝します」


 護衛を直接つけ送って貰う事も考えたが、時間的にはまだ余裕があり、アイカも初級とはいえ魔法師だ。


 治癒に重点を置いてはいるが、魔境から離れたこの場所で、即死さえしなければ自身の傷くらいは治療できる実力はある。


 なら式神を召喚してポートロイヤルへは連絡を入れているのでもし二人に何かあっても急報が届かないという最悪の事態だけは避ける事が出来るだろう。


 式神はアルトの両親が生まれ育った東域の島国の魔法師が用いる手段でこの大陸の魔法理論とは体系を異なる理論が用いられている。


 紙を媒体とし精霊を憑依させる術は言われるまでもなく高度な技術と魔法に対する深い理解を必要とし使える術者は少ない。


 物に八百万(やおよろず)の意思が宿るとする考えとは異なりこの大陸では精霊は認知されているが全ての者が視れる訳ではなく、魔法が超常現象や物理法則を覆すものでも術者がイメージ出来ない事を現象として引き起こす程の力はない。


 竜に乗るのは初めてではないが地に足をつけられない状況は高所恐怖症でないアルトでも恐怖を感じる。実際に亜竜と戦った事があるのも恐怖を増長させる原因だ。


 遠距離攻撃はとれる手段が限られる。有効殺傷半径は数十メートルが限界であり、魔法も多くの魔力を込めればもう少し距離は延びるが、現実的な方法ではない。


 かといって近距離では肉体の大きさが膂力に影響を強く与えるので亜竜が有利な状況なのである。それを覆す事が出来るのは極一部の者だけだ。


 人種は気を竜人であれば竜気を鬼人であれば鬼気を纏うことで対抗する。肉体的に頑強な種族ですら苦戦するので人種は平均的な力を持つが突出した力がないので更に困難な戦いとなる。


 それを覆した冒険者のみがAランクの称号を与えられ、富と名声を得る事が出来る。


 冒険者の中でも限られた者のみに与えられるが、最底辺を脱出する機会はそう多く与えられる世界ではないので機会があるだけでも救いである。


 アルトは身体強化で竜から振り落とされない様に踏ん張る。竜を操り戦闘まで行う竜騎士は慣れているが、アルトは地に足をつけて戦う冒険者であり、空中戦は得意ではない。


 不可能と言わないのは風精霊の力を借り風に乗る事を可能とするが本来であれば空中戦を可能とする風魔法師は限られた者だけであるため他の者からしてみればアルトは十分に人外と言えるだけの力を有していることになる。


 移動するだけで魔力の消費を強いられるのは痛いが拙速は時として必要になる。ただ今がその時であるという話で一瞬の判断が生死を分ける冒険者稼業を続けながらも生き延びてきた勘を頼りにアルトはクルト村まで急ぐ。


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 まだ魔力に余裕はあるが先に武器が破壊される可能性が高い状況にクロウは苦笑するしかない。エバンスからの指名依頼が入り魔境を調査し始めてから二週間ほど経った時にこれといって成果は上がっていなかったが、一度ポートロイヤルに帰還を余儀なくされた。


 西洋剣を扱うこの大陸の鍛冶師は刀を鍛造できる程の腕を持つ者は皆無であり、刀のメンテナンスを行えるだけの腕を持つ者すら殆んどいない。


 剣は斬るよりは叩く事に特化しており、俺が生まれた国でも一部の鍛冶師しかその技術を相伝されていない為に、刀鍛冶は一定の地位を得ていた。


 治安を維持する武家に生まれた者しか基本的には帯刀を許されない。武士にとって外敵から身を護り討ち滅ぼす力となる刀は己の半身であり、魂でもある。


 その武士の魂である刀を平民が持つのは不敬であるとされるのが理由ではあるが、武士の部下として働く一部の者には役職を示す為に帯刀が許されるのだ。


 武士は特権階級であると同時に身命を懸けて力のない者を護るのが使命であった筈だが、無礼打ちを平民に対して行い命を奪う武士もいる。


 頼りにされていたのが次第に憎悪に変わり、武士に対する反乱も起こる様になるまで国は退廃した。俺の先祖は腐敗した武士を成敗し、同じ武家からは憎しみを向けられることもあるが、それ以上に尊敬を平民から受ける家に生まれた。


 そんな俺が異大陸であるこの国に居るのは武者修行であり、見聞を広めるのが主な理由だ。この国であるのなら貴族に該当する家に生まれているが俺は外国人であり修行中の身だ。


 家督を継ぐべくして生まれた俺には幼い頃より刀術の師による虐待とも言える苦行を越えて成長してきた俺からしてみれば異文化には驚きの連続であったが、生活に困る事はない。


 路銀は最低限でこの大陸に渡るだけで尽きてしまったが、陸路を歩けば盗賊が出て魔物が襲い掛かってくる。


 懸賞金を懸けられた者は生死問わずに治安維持組織に引き渡せば金が貰えるし、魔物は討伐報酬と素材を売れば生活には困らないどころか逆に資産が築ける位の稼ぎになった。


 王国の一部の者しか知らないが、身分証として持たされた家紋を見せれば大概の融通は効く。あまりにやり過ぎれば適性なしと判断されて家を継ぐ権利を剥奪されるが、外交問題にならない為に不可避な場合は黙認される。


 居場所を知らせておけば時間はかかるが本国との連絡も可能でそろそろ国に引き上げようかと考え始めていた時にこの騒動が起きた。


 ポートロイヤルに辿り着いたのもランスカ王国内で刀のメンテナンスが出来る刀鍛冶を探して該当するものがポートロイヤルに本拠地を置いていたからに過ぎない。


 混血であるとは言え祖を同じとする刀技を使うアルトに出会えた事は存外の喜びであった。アルトの両親は既に他界しているがアルトの片親と母国が同じでアルトはその血を強く引いていた。


 黒髪に黒目。明るい色の多いこの大陸では異端にもなりかねない色をしているが、俺の国では当たり前で外国人の血が混じっていない限りは例外はない。


 多神教である俺からしてみればこの大陸で幅を効かせているオリエンタル教の教えは理解し難いものがあるが数年も生活していれば嫌でも慣れる。


 珍しい人種であるのは否定できない事実であるが、力には力で対抗し親切にしてくれる人には同じく親切にする。


 そうやって言葉が不慣れだった俺を助けてくれた人は意外にも多かった為にポートロイヤルの危機と冒険者ギルドを預かるエバンスに頼まれて断ると言う選択肢は俺の中には無かった。


 妹のマドカも同じく武者修行の旅に出てポートロイヤルで再会した。腕は鈍らせていない様だったが武器のメンテナンスが出来ない事から大物以外には量産品である長剣を使っていたらしい。


 鋳造が主流となりつつあるこの国を見たら武士として憂いずにはいられない。命を預けるべき武器を使い捨てにするなど俺の国では有り得ない事だ。


 鍛造式で鍛えあげられる剣は刀にも勝るとも劣らない逸品が多いが、変な癖をつけると修正に手間どる為に俺は剣を使うことはなるべく避けている。


 だが分かる者は鍛造された剣を使い若く金も経験もない冒険者や剣士が鋳造式の剣を使う様だった。


 戦闘中に剣が折れ大怪我を負う者が後を絶たない。鋳造式は長年の修行を必要としない代わりに職人の数は確保できるが質は悪い。


 鍛造式の鍛冶師は己の仕事に誇りを持っている者が多く使い手を選ぶ事も多い。利点・欠点はどちらにもあるが命を懸けるならそれなりの品を愛用した方が長く生きることが出来るだろう。


 ポートロイヤルに新しく拠点を置いた刀鍛冶師に有望そうな者が居た為に愛刀のメンテナンスを任せている刀鍛冶師ナガマサを紹介して後を任せた。


 ただでさえ折れやすい刀は不純物を極力取り除く為に鍛造式でないと駄目だがナガマサの目に適う者が居らず弟子をとる機会が無かった事を会う度に嘆かれていた身としてはタイラーは良い資質を持っている様に思えた。


 魔境の浅い箇所とはいえオーガは出てくる。奥に進む度に難易度は上がり、出てくる魔物も魔法を使うものや知性があり侵入者を罠に落とそうと行動する種が増えてくる。


 深部だと亜竜や竜が闊歩する危険極まりない混沌とした場所になっていると聞いているが、人類の手の届かない場所が魔境であり、確認して生きて帰れた者は少ない為に真偽は確かではない。


 浅瀬でも下手すればBランクパーティでも全滅する。個の力がSランク相当で無い限りは単独で深部に辿り着く事も不可能だろう。


 数が居ればそれだけ多くの魔物を引き寄せることとなり逆に少な過ぎれば対抗する手段が無いままに呑み込まれるだけだ。


 だからこそAランク以上の実力者がパーティを組んで探索するのが生存率が高く理想的だとされている。


 俺の場合はアルト達エレメンタルブレイブのメンバーは足を引っ張らず頼りになるメンバーだが、妹のマドカを含めてそれ以外の者は居ない方がましだというレベルでしかない。


 マドカもBランク相当の冒険者であり、後数年も経てば浅瀬で単独行動できる力量となる筈だが、一族の者もそうだったが女性に生まれた事が悔やまれる程の才能を持っていた。


 剣の腕は数年もすれば追い越され、後は離される一方となる筈だが、基本的な男女の性差を跳ね退けられるほど剣の道は甘くなく、母国は男尊女卑の志向が強い為に女性が家督を継ぐ事を一切認めていない。


 ランスカ王国は女性の継承を認めておりこの大陸でも進んだ考えを持つ国ではあるが実力を持つ者が生まれた性別によって不当な扱いを受ける国に未来はないと個人的には考えている。


 家風的に独立独歩な性質も持つ者が多いが、主君に仕える身である武士が主君の意向を無視して行動できる筈もなく、才能のあるマドカが家督を継ぐ事は有り得ない。


 クロウは帰還するために依頼主であるカイトの下へ急ぐ。剣聖の名は伊達ではないことを木剣と木刀での模擬戦で体感したが決して倒せない訳ではないと感じた。


 双方が本気を出し試合ではなく死合いとなればお互いがただでは済まないと感じた為に我慢した。


 騎士爵として最下級ではあるが貴族の末席に名を連ねる者にしては気概がある。訓練された部下を見ればそれだけで一目瞭然であり、その部下でさえ模擬戦では中々の手応えを感じたのを今でも覚えている。


 俺が上げた魔法弾の意味を正確に読み取ってくれるかは一種の賭けだが分はあまり悪くはないだろう。生還すべく歩を早めるクロウが居た。


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 ソラはアイカを持て余していた。見た目の年齢は十五・六で現実世界であれば成人している事は有り得ないだろう。


 日本の成人は二十歳であったが最近では十八歳で選挙権を与えられるようになっており、昔の武士であれば元服していてもおかしくはない年齢だが中世の世界観を考えてみると例え成人扱いされていても精神的に未成熟な子供そのものだ。


 アイカがどの様な生い立ちをしていて育ったのかはソラは知らない。ゲームの中のプレイヤーでない大地人(NPC)の事とはいえ、実際に人でないと言うだけで思考や行動原理は人と変わりないのだからソラはNPCを人工知能(AI)としてではなく人として扱う様にしている。


 だが色々と面倒な事になっているのは否定できない。このまま足手まといになっているアイカを置いていくことも今後の事を考えれば避けたい。


 リザードマンみたいな強MOBはまだ遭遇してはいないが、出会ってしまえば無事で済む保証はどこにもない。いい加減にしろと内心で毒吐きながらも我慢する。


 アイカも警戒するなら俺よりも外に気を向けた方が良い筈なのに、周囲の警戒を疎かにしてまで異性であり素性の知れない者に過剰反応していることは必要なのかもしれないが愚か者のする事だった。


 案の定、奇襲を受けてアイカは怪我を負う。


「後ろに下がれ」


 反撃の為に詠唱に入ろうとしたアイカを強制的に下がらせる。携帯食を移動しながらも食べていたことで体力(スタミナ)を回復させていたので身体強化をしてボブゴブリンを牽制する。


「アイカ。周囲の警戒だけして後はポーションでも飲んでおけ」


 短剣を両手で構えて冒険者から奪ったであろう錆びた長剣がソラに向けて振り下ろされる。ステータスはレベル差が無い限りは人種の方がゴブリンより優れている。


 気闘術によって身体強化をしていたソラは片手で長剣を受け止めてもう片方の短剣でボブゴブリンを攻撃する。攻撃後に大きな隙を晒していた事もあってソラの短剣はボブゴブリンの心臓を捉えて息の根を止めた。


 毎回思うが、倒した魔物はポリゴンとして散って自動的にアイテムボックスにドロップしたアイテムが入る仕様にしても良いと思う。


 現代人は解体業に携わる職業に就いている人は稀で食肉もブロックで分けられたものしか見たことがないというのが一般的なのだ。中には鮮魚を三枚におろす事が出来ない人も多いのだから察して欲しい。


 ソラの冒険者ランクはEでアイカはDだ。本来であれば性別や年齢に関わらず実力で判断されるべき冒険者をしているのなら基本的には戦闘や移動の指示はアイカが出すべきであり、ソラはそれに従うべきであった。


 現実世界では、歳上の部下も居れば歳下の上司もいる。会社の評価で役職を与えられている以上は部下は上司の業務命令を聞くべきであるが、ただ在籍期間が長いというだけの無能な上司も居るために一概には言えないが、ソラは現状をあまり良く思っていなかった。


 臨時でパーティを組んだアイカは自分以上に経験が不足している様に感じられ討伐依頼を積極的に受けてきた雰囲気は無い。


 魔法師とパーティを組んだ事がないこともあるがアイカの正確な能力をソラは掴みかねていた。ソラの場合は致命的な一撃を受けても復活することは出来るがアイカの場合はそうはいかない。


 稀人(プレイヤー)は死んで覚えるのも一つの手段だが、現実世界では危険を避け安全に行動するのが常識である。


 アイカはエレメンタルブレイブというこの世界でも上位にあたる冒険者の庇護を受けていたために実感は薄れはじめているが、アイカが家族と過ごした村でも魔物により帰らぬ人となった者は少なくないのだ。


 迅速に移動する為に気闘術を使用するのは決して間違った判断ではないのだがアイカの場合はアルトに普段からそうするように言い聞かされているために盲目的に従っているだけにソラの目には映った。


 それをどうこう言っている余裕は無さそうだった。スキルによって数体の魔物が接近している事を感じた為だ。


「魔物が接近している不意打ちに気をつけろ」


 ポートロイヤルに辿り着くまでの臨時パーティだろうが、ソラはアイカを死なせるつもりはない。


 見捨てても明確な犯罪行為となるわけでもなく、ただ寝覚めが悪いというだけの理由だ。魔物はボブゴブリンとシャドウウルフという組み合わせだったが、ボブゴブリンはシャドウウルフに騎乗しており同種族間でも対立する魔物としては珍しい組み合わせだった。


 このボブゴブリンは【調教】スキルを持ったボブゴブリンテイマーなのかもしれない。三次元の動きは制限されるだろうがその機動性は実に厄介だ。


 ソラがアイカの能力を確認しようとしたのも連係して攻撃してくる魔物に対してこちらも各個撃破されない様に連係して対抗する為だった。


 戦闘が長引きそうだと覚悟しつつも迎撃を開始するソラとアイカであった。

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