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十六話

 ソラは早めに討伐を切り上げてポートロイヤルに戻った。事件が解決した事によって冒険者ギルドで寝泊まり出来なくなったからだ。


 宿は相変わらず最低ランクであるが、まだ贅沢は敵である。現実世界では腹は膨らむ事はないが、食事はそれなりに旨い物が提供されており、女性が仮想だと思ってはいてもダイエットに利用する位には現実世界と変わらない物が提供されていた。


 人間の思い込みは怖いもので死刑囚に目隠しをして実際にはただの棒を押し付けられたに過ぎないのに熱しられた鉄棒を押し付けられたと錯覚させられた死刑囚は絶叫と共にその体には火傷の傷跡が残ったという実験もある。


 社会学的な観点から立場が人に与える影響を調べた実験では囚人と看守に分けられた被験者達はそれぞれの役割を過剰なまでに再現し、看守は囚人に暴行まで加えたという記録が残っている。


 一週間の宿代として七千コルを支払ったソラは財布が軽くなると同時に解放感を覚えていた。普通に生活するのであれば現代社会学で護衛がつく事は先ず有り得ないと言って良い。


 常に誰かが近くに居るというのは慣れない者にとってはストレスとなるのだ。大商人ともなれば護衛がついていても可笑しくはないが、ソラのレベルであれば、いつ破産しても不思議ではないレベルだ。


 消費した回復薬を道具屋で購入して飯を食べて寝る(ログアウト)事にする。



 パソコンを操作してGGOの資産を現金に換える。RMTは両替には税金はかからないが、所得として自動的に税務署に報告が行くシステムになっているため、年末調整の為に税務署に行かなくてはならない。


 MWO一本で行くなら全資産とソフトを売却した方が良いがまだ軌道に乗っていないものに賭けるのは無謀過ぎる。


 まだ実家に戻って来ているからこそ収入が少なくても何とか生活が出来ているのだ。家賃・水道光熱費・食費と全てを負担していたらとっくに生活が出来なくなっていただろう。


 多めに渡された慰謝料は待機期間で殆んど手元に残っていなかった事を考えるとVR機器を買う余裕さえなくなっていたことが容易に想像できた。


 飯を買いに行くついでにコンビニでゲーム情報誌を購入する。MWOは注目されているゲームなだけあって次回購入分の倍率は物凄いことになっているらしい。


 抽選を受けるのはプレイをしたい者だけではなく、俗に転売ヤーと呼ばれる人気商品を購入して転売することによって利鞘を得る者達のカモになりそうな事が記事には載っていた。


 普通に購入するだけでも高額で転売ヤーが介入するとなると価格は更に上がる。


 欲しい者はそれでも購入できるだろうが、転売行為は開発元に少なくない打撃を与えるものだ。ソフト代で開発費を回収するのは極一部分であり月額料によって大半が回収される。


 購入の敷居が高くなってしまえばそれだけユーザーは敬遠し、商業活動として成り立たなくなったゲームはひっそりと閉鎖される。


 その際のゲーム資産の価値は倒産した株式会社の株と同じく零である。レア度の高いアイテムを売買するのにはゲーム内資産が必要になり、アイテム自体を現金で購入する事は不可能である。


 あくまでもゲーム内の貨幣を現金化できるのが現在の日本で認められているRMTの実態である。それはパチンコ屋のシステムに似ているのかも知れない。


 パチンコやスロットの玉やメダルは建前上は換金できない。玉やメダルと交換できるのはあくまでも特殊景品であり、パチンコ屋の傍にたまたま特殊景品を高額で買い取ってくれる古物屋があるという体裁を整えることで営業している。


 詭弁だが実際問題、世の中は綺麗事だけで回っている訳ではない。


 話がそれてしまったが、MWO公式ホームページ以外にも雑誌からの購入抽選が受ける事が可能で金に余裕がなくなってきているので転売目的でソフトを売るのもありかと思って雑誌を購入したのだ。


 金は少ないより多い方が良い。愛さえあれば金が無くてもとかほざく人間がいるが、金がなければ生活が出来ない。


 しかもそういう女に限って高収入な男しか男として認めないと来るのだから頭にくる。


 現実は糞ゲー正にその通りであるが、生きている以上は死にたくないと考えるのが正常な人間だ。消費税が上がり、終身雇用制度が無くなった現在で信用できるのは政治家ではなく、自分や金だけという人間も増えた。


 雇用形態も変化して必ずしも正社員として安定した生活が出来る様に整備された社会では無くなりつつある。


 一度の失敗で人生そのものが詰む社会にどれだけの希望があるのだろうか。現実世界を捨てて仮想世界にのめりこんでしまう若者が増えたのも時代の流れなのかもしれない。


 俺、自身はまだ若いと思っているが、一回り下の世代からみればお兄さんではなくおっさんに片足を踏み込み始めている様に映るだろう。


 金さえあれば人生を楽しめるとは言わないがなければ凄惨な人生を過ごすしかないのも事実だ。何でこうなってしまったのかと考えに耽りながら、頭の中ではいかにリスクを負わずに儲けるかを考えていた。


 クルト村までは危険だが一度、行かない訳にもいかない。カイトはランスカ王国の中では重要人物ではないかも知れないが、MWOの中では重要な役割を果たしている可能性が高い。


 今のプレイヤーでは逆立ちをしても敵わないのがカイトであり物語(ストーリー)に重要な役割を果たしているであろう子の父でもある。


 エバンスが教導を取得している様にカイトも教導を取得している可能性が高い。エバンスに関連しているクエストがあったと言うことはカイトに関係したクエストも用意されているだろう。


 多くのベータテスターはより多くの戦闘経験と情報を集める事に躍起になっており、魔の森に近い小さな村よりも城塞都市アンデスで活動する者が多かった。


 レベリングの効率化は確かに必要な事でトッププレイヤーという他のプレイヤーから羨望の目で見られる事は自尊心を満たす行為かもしれないが、俺にとってレベリングはお金を得る手段であっても目的ではない。


 国中に販路を持ち外国にも販路を持つ大商人とAランク冒険者では戦えば確かに後者の方が強いだろうが収入や権力は前者の方が多く、自分以外の権力者に協力を要請することでAランク冒険者を害する事は不可能ではない。


 実際のところはRMTを主収入としていない者にとっては別世界の話であり、人間は自分の興味の無いことに関してはどこまでも無関心でいられる生物なのだがそれは割愛する。


 今はやることが無くなったので近所にあるパチンコ屋で時間を潰す。五千円を投資して換金したのは八千円と儲けはたいした事はなかったが、問題はない。


 負けなかっただけで十分だ。ログインの制限時間も過ぎた事だし夜間戦闘の経験を積む為にMWOにログインすることにした。


 タイラーから買った短剣の最大耐久値は研ぎ直しをしているうちに徐々にではあるが下がってきている。フレンドメッセージを飛ばそうとしてみるがタイラーは現在ログインしていないらしい。


 荒く扱っても壊れないのは助かるが、いざ戦闘となった時に戦闘中に武器が折れるのは勘弁してもらいたい。


 本業であれば簡易メンテナンスだけではなく、再強化や最大耐久度が落ちない様に研ぎ直しも可能だが、俺には鑑定による多少の良し悪しは分かっても武器を作成することは不可能だ。


 タイラー次第だが武器に関しての販売権を得る代わりに素材などの買い付けやメンテナンス業務の委託する契約を結びたいと考えている。


 趣味と実益を兼ねて錬金術師のジョブも得るつもりであるが、一番稼げるのは商人であり、クラン設立も商業系のものになるだろう。


 クランはパーティ以上ギルド未満と言った感じでギルド傘下に集まったギルド加盟員が結成できる派閥みたいなものである。


 冒険者ギルドであればパーティは六人で固定されそれ以上では申請が通らないが、クラン結成条件を満たし、クランレベルが上がればメンバーの数も増やすことが可能で何よりクランホームの設置が可能となるのが最大の違いである。


 個人でホームを持つ事は金次第で可能となるが正式サービスが始まったばかりのMWOではパーティレベルの総資産でも購入は出来ない。


 いまのところは自分の農地を持った農家プレイヤーも確認されておらず、農業ギルドを通してアルバイトして資金を貯めるか、なけなしのコルを叩いて猫の額ほどの土地を借りてジョブレベルとスキルレベルを上げているところだろう。


 ポートロイヤルの土地は高く、建物を建てるのにも職人を雇う必要があるため費用が掛かる。


 それならば村長であるカイトに村での生活を許可して貰い、土地を購入した方が経費を抑えることができる。


 クルト村は魔の森に近い事もあって大人達は例外無く魔物に対抗する力を持っている。中にはボブゴブリンと戦うだけで精一杯という者もいるが非戦闘員でそれだけ戦えれば十分である。


 夜間では魔物が活発化し、脅威度が上がる為に戦闘能力がないものが出歩く事は自殺行為であるがこの辺りであればまだ安全ではある。


 いつもの様にスモールラビットを短剣で仕留め、血抜きを行う。肉・皮・魔石と一匹で三度おいしい相手ではあるが、これは食堂に肉を持ち込めば料理を頼むより割安で済むからであってたいした金にはならない。


 微量ながらも経験値を得る事が出来るので続けている。歩きながらも途中で目に入ってきた薬草を採取する。辺りは月夜で薄暗い。


 人工的な光が少ない為に仕方がないことではあるが心細い。地図(マップ)で確認しながらあまりポートロイヤルからは離れない様にする。


 この時間は一つだけは門は開いているが他の門は全て封鎖されており、領主軍・自警団による監視がされているためポートロイヤルに入るのには時間が掛かるため離れない様にしている。


 本来であれば門を完全に閉じるのが常識ではあるが、城塞都市からの伝令や今は魔の森に派遣された冒険者が急報を持ってやってくるかもしれないために解放されている。


 無論、侵入経路を一つに絞ることで敵対する貴族の密偵を炙りだす効果もある。定期的に起こると文献に残されている大暴走(スタンピード)の対策でもある。


 外縁に近いクルト村の戦力はクライン辺境伯軍からみても過剰と言えるものだ。剣聖に上級魔導師、上級剣士に森龍人と原始龍。


 これだけの戦力があればランスカ王国軍と対等な勝負が出来るほどであり、魔の森の近くに村を作るのであればこれ位は戦力がないと不可能であったのだろう。


 慣れない事をする際には基本に忠実であるべきと考えているソラは融通は効かないが、大きく失敗することもない冒険者向きの性格をしていた。


 冒険者ギルドに大半の資産を預けギルド証にその記載があるが、死ねばせっかく得た報酬が零になるなど馬鹿げている。


 ギルド金庫は冒険者であれば誰でも使用可能で預けられたコルは資産運用され、後進の育成や冒険者の地位向上の為に使用される。


 冒険者ギルドが営利に走ることも問題だが巨大な組織にもなると維持するだけで莫大な費用が掛かる。あくまでもその信念は戦う力のない者達を守る為に向けられているが金が無ければ食べる事も活動することも出来ないのだ。


 平民からしてみればいざというときに何もしないことが多い自領の領主よりも冒険者ギルドの方が役に立つと公言する者もいる。


 病によって亡くなる者も多いがそれに並んで魔物によって傷を負わされ亡くなる者が多い世界である。平民に対する貴族の横暴がそれに拍車を掛けているが平民からしてみれば害の多い貴族より多少粗暴でも魔物から間接的にでも守ってくれる冒険者の方が好まれるのだ。


 ソラ歩いている途中で衝撃を受けた。確認するとHPが減っている。薄暗い中で視野が狭まりゴブリンの奇襲を受けた。


 思わずソラは舌打ちする油断をしていた訳ではないが、視界が狭くなっていたことで普段であれば接近に気付くゴブリンに先手を取られた事は屈辱であった。


 棍棒は装備していたスモールラビットの革に阻まれ致命傷には至らないが体感で二割近くのHPが削られた。ゴブリンの目は闇夜の中で怪しく赤い光を放っていた。


 これはゴブリンのスキル【夜目】の効果であり、人種であるソラはSP(スキルポイント)を消費するか、夜間戦闘を続けることで取得するしか方法がない。弓士であれば視認距離を広げる【鷹の目】を取得していれば夜でも応用がきくが、ソラはどちらかといえば近接特化型である。


 頭に攻撃を受けて【気絶】や【昏睡】にならなかっただけましであると割り切るしかない。


 切り換えが出来なければそのまま死ぬしかない。冒険者がゴブリンに殺される事は珍しくない。寧ろ素直に殺されるだけ幸運なのかも知れない。


 男なら子供ゴブリンの狩りの標的にされ女なら苗床行きである。そうならない為にも冒険者ギルドはDランクに昇格する際に試験を設けている。


 事実、E・Fランク冒険者がゴブリンと遭遇して全滅こそ免れたもののパーティに被害を出すのは年に数回起きる。


 それも今のソラの様に無謀にも夜間に魔物を狩りに出掛けた者が毒牙にかかるのだ。短剣を投擲して棍棒を落とさせる。短剣が二本あるから出来る芸当であり投擲スキルもそれなりにレベルが上がっている。


 後は無手になったゴブリンを殴って良し。蹴って良し。投げて絞め落とすも良しである。これは純粋なスキル上げであって八つ当たりではないですよ。佐竹(馬鹿)に会ったのは悪い事ではない。


 気絶させた後で心臓に短剣による一突き。ゴブリンの血が流れ体からは生気が失われていく。そのまま耳と魔石を剥ぎ取って着火の魔道具で燃やす。


 明かりを確保できてしかも魔物を引き寄せる事が出来る一石二鳥だった。そのままゴブリン狩りとスモールラビット狩りを続行する。


 途中ボブゴブリンも現れたが問題なく仕留めた。仕留めたのだが短剣の耐久値は零になり初めて買った武器は使い物にならなくなった。


 タイラーにメンテナンスしてもらえばまだ使えた筈だが壊れてしまったものをどうこう言っても直る訳ではないので仕方がない。


 鑑定をした結果【折れた短剣】となっていたので屑鉄としてタイラーに引き取って貰うだけだ。


 投擲用の短剣がほしいと思っていたところなのでソラはフレンドメッセージを飛ばして返事を待つ事にした。 

GGOは宙人(ソラ)が仕事を辞めて友人に勧められて初めて買ったゲームのタイトルです。GGO編も書こうかと思いましたが長くなりそうだったのでカットし、(アキラ)から暴行を受けて仕事を辞めることにしたため二人には因縁がある設定となっています。

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