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十五話

 ソラは別室に案内されアリシアとともにグリーンリーフ茶を楽しんでいた。ギルドで出された物よりも明らかに高品質であり、鑑定をしてみたら品質が高級だった。


 ソラからしてみれば多少の回復効果のある茶なのでもったいない気はしたがタダであるのなら遠慮し過ぎるのは失礼となるだろう。


 俺得なのは美人受付嬢として冒険者の羨望の的であるアリシアと会話できる事だ。美人と話すのは気後れするが、屈託のない笑顔を向けながら話す事を想像するだけで鼻血が出そうだ。


 実際は失礼にならない程度に執事さんと会話をしながらクライン伯家について情報収集をしている。客人をもてなす為か執事さんは質問をしてもきちんと答えてくれた。


 グリーンリーフ茶の産地の話からポートロイヤルで流行っている店の話。近付いては行けないスラムの話。執事さんも昔は冒険者をしていたらしくある程度は戦えるらしい。


 主人であるクライン伯と共に戦ったのであれば謙遜も過ぎる話だが嫌味ではない。


 冒険の話に絡めて冒険ギルドの重要性を説き、魔の森に近いと言うのに魔物による被害が少ない事からクライン伯が率いる領主軍は精鋭揃いなのだろう。


 会話が弾み時をが経つのも忘れた頃にエバンスが入室してきた。


 執事さんはお茶を差し出そうとするが、エバンスはそれを制した。


「済まないが、ギルドを長く留守にすることも出来ない。また次の機会に堪能させて貰うとする」


「かしこまりました。既に馬車の手配をさせております」


 クライン伯からある程度の事を聞いていたのだろう。緊急を要する事ではないが、無視できる事でもない。ギルド専属の冒険者を呼ぶにしても時間が掛かる。


 ポートロイヤルにはAランクの冒険者パーティもいるが、今は別の依頼を受けて留守にしている。技量はあるとはいえ専属でない冒険者に緊急依頼を出すかどうかはまだ微妙なところだ。


 カイトが妻フーカと探索に行けるとしてもその間は村の防衛力が落ち、魔の森に近い事が致命的になりかねない。


 成立過程から冒険者ギルドが直接依頼主となり調査するのは可笑しい事ではないが人々の注目を集めるのは得策ではない。


 限られた信用できる者に内密に依頼を出して探索に見せ掛けて調査をするのが一番良い方法だった。ギルドマスターの権限を越える事案であるためギルド本部に通信する必要がある。


 総帥は反対しないだろうが何事も根回しは必要になる。大人の世界においては建前も必要だからだ。


 今は都合の良い事にソロのAランク冒険者が滞在している。他の支部であれば最高ランクがBランクでも可笑しくは無いが、魔の森で狩りを終えた冒険者がポートロイヤルで休暇を楽しむ事はよくある事だ。


 カイトが剣術を極めるのに対してその冒険者は刀術を極めようと東の島国からやってきた異国の者である。魔の森の調査は単独では困難を極めるが、クロウなら浅い所なら問題なく情報を持って帰還できるだろう。


 ソラはとりあえずギルドに馬車で戻ってからゴブリン狩りに出かける事にする。浅い所なら森の中でも十分に戦えると考えたからである。


 最下級とはいえ魔法袋を手に入れたことで馬車を買う必要は無くなった。元手も欲をかかなければ十分な額と言えるし、なによりクライン伯の庇護を受けたのは大きい。


 今後の展開を考えながらも一先ずは少し休憩を取る事にしたのだ。


 ギルドについた所でマルコに起こされた。どうせならむさ苦しい男に起こされるのならアリシアさんに起こされたかった。


 ギルド職員として立ち会ったアリシアだったが、お茶を出されたあたりからは緊張するでもなく仕事をしていた。


 ソラとしては身分という概念が希薄な現代社会で育った為にそこまで偉い人という実感は無くなっていたが普通なら皇族に会うようなもので気軽に話せるものではない。


 何時もの様にエバンスの執務室に通されエバンスから警告を受ける。


「ソラ。クライン伯から貰った短剣と魔法袋はギルド証に代わる第二の身分証となるが悪用されれば首が飛ぶ」


 言われなくても分かっていた。先程、確認をするため鑑定を掛けたが、譲渡不可アイテムになっており、クエスト達成のシステムメッセージが流れた。


 家紋は貴族にとって重要なものであり、家名と同様に傷をつけられたら必ず報復をしなくてはならない。


 クライン辺境伯軍は王国近衛騎士団にひけをとらない練度を誇るだけあって誰が好き好んで敵対する道を取ると言うのだ。それは自殺と変わらないだろう。


「分かっています。本当に困った時には先ずギルドを頼ります」


 冒険者を守ることは力を持たない人々を守る事に繋がる。組織に守られるほど冒険者は弱い生物ではないがいくら肉体的に強い存在だからと言っても限界はある。


 不意を打たれれば力のない村人でも害する事は不可能ではなく、それが権力者ともなれば問題は厄介な事になる。冒険者は魔物を狩り人々の生活を豊かにすることで冒険者ギルドという巨大組織の後ろ盾を得る。


 元々の国民であろうと当該国は冒険者に対して税を納める事の引き換えに特権を与える。街に入る際の税金の免除であったり、国家間の移動の際の手続きの簡略化。


 国としても全ての魔物に国軍や領主軍で対応する事が不可能である以上は手綱を握る冒険者ギルドの存在が有る限りは粗暴な一面は国の法を犯さない限りは目を瞑るのが得策であり、過度に干渉しないのが得策である。


 特に魔境と国土を面しているランスカ王国ではその風潮が強い。モラルを守らない冒険者はギルドに選ばれた管理官(バスター)によって容赦なく制裁が加えられる。


 抑止力が弱くては話にならないため例えAランク冒険者が犯罪を犯した場合、Sランク冒険者に強制依頼を出してでも罪を償わせる力をギルドは持っている。


 それがSランクとなった場合、冒険者ギルド本部からSランク冒険者を複数を派遣して被害が拡大する前に討伐する。


 冒険者ギルド自体が一国に劣らない軍事力を有しており、Sランク冒険者は人外とも言える力を持つ。傭兵ギルドは雇われて国同士の戦争に荷担する一方で冒険者は一切の戦争への介入を禁じている。


 元Aランク冒険者が国に重用されて冒険者の身分を返上する事はあるが、行為自体は合法でも誉められた方法ではないしAランクともなれば高収入で金銭で国に縛られるよりかは比較的に自由な冒険者を続ける者が多い。


 エバンスの様に積極的には敵対しないものの冒険者になった経緯から国を嫌う者も多い。人類の共通の敵である魔族に対抗する手段として真っ先に上がるのが冒険者ギルドと冒険者である。


 英雄と呼ばれる者達の多くは軍人ではなく冒険者であることを世界の住民は知っている。強大な組織であるが故に腐敗することもあるが権力を握ったと勘違いする輩は創設者の遺志を継ぐ者達により粛清される。


 これからも冒険者ギルドとは懇意にしていきたい。魔物を狩るという経済活動が存在する以上は商人と魔物の素材は切っても切れない縁があると言えるだろう。


 冒険者ランクはFのままだがボブゴブリンを討伐できる実力があるのだからEに上がっても可笑しくはないが、エバンスとマルコがいなければ死んでいた可能性は高い。


 ポートロイヤルを出る際にギルド証を提示することはないが門兵から声を掛けてくれた。隊長をしているらしい彼はこの街で生まれ育ち街を守る為に門兵となった。


 貴族の横暴も知っているし、定期的に編成される討伐隊で魔物を狩った経験もある。貴族としての箔付けではなく生粋の戦士の顔がそこにはあった。


「気にしてないですよ。貴方がギルドに知らせてくれたからこそ無事でいられるのですから」


「そうか。そう言ってくれると助かる。何か困った事があれば何時でも相談にのろう」


 そう言ってくれた門兵さんに見送られながらポートロイヤルを後にする。その時には直ぐに戻ってくるとは思わなかった。


 平原に向かって歩き始めた頃、一人の男に話掛けられた。


「おい」


 見てみると忘れられる筈もない顔がそこにはあった。俺が仕事を辞めるきっかけになった佐竹(さたけ)がそこに居た。


 アバターの顔を変える者も居るが面倒なので基本的には変更していない。ゲームの中で知り合いに合う可能性は零ではないが発売本数が少ないMWOを購入できる可能性は低く正式サービス開始後に徐々にプレイヤー数が増える様に告知されていたからだ。


 正式サービス開始から一月毎に三千名のプレイヤーが増えると公式発表されていたが、一陣に選ばれる可能性は宝くじで高額当選するのと同じ位の可能性だった筈だ。


 そう考えると佐竹は運が良く俺は運が悪かったらしい。馬鹿の相手をして時間を浪費するのはつまらない。


 俺と違って仕事をしているであろう佐竹は多分、ログイン時間も満足に取れずにレベル差は殆んどないはずだ。


「屑が。話しかけんな」


 仕事仲間であり、年齢が上だったから佐竹の行動に我慢していたが仕事を辞めた今では関係がない。自分から手を出すことはないが相手から手を出されれば問題はない。


 挑発することで手を出してくれれば、犯罪者(オレンジ)プレイヤーを攻撃しても罪に問われる事はない。


 街中やフィールド上でも双方の合意を得た決闘(デュエル)であればオレンジプレイヤーになることはないがこいつにそんな頭があるわけがない。


 軽く挑発してやっただけにも関わらず手を出して来て、プレイヤーを示すネームカーソルは通常の黒からオレンジへと変化した。


 空手をやっていた事に余程の自信があったのか佐竹は武器を装備していない。それどころか冒険者ギルド登録もしていないのだろう。


 初期装備の服だけしか纏っていない。ゲーム初心者でもこれは有り得ない。自由を語るMWOと言えど最低限の情報は公開しており、チュートリアルで冒険者として登録してスモールラビットを狩るという一連の行動はプレイヤーであれば殆んどが通る道であるからだ。


 鞘から短剣を引き抜いて佐竹へと投擲する。これは当たらなくても問題はない。


 大したダメージを期待した行動ではなく、慣れていないと衝撃しかないと頭で理解していても刃物を相手に戦う事が先ず有り得ない現代日本で育った人間なら萎縮する事になるからだ。


 本命はもう一本のタイラーが鍛えた短剣を牽制に使い、接近する事にある。


 ゴブリンにも劣る存在にはもったいないが仕方ない。何?ゴブリン人権団体からこんな奴と一緒にするなだと。ここは同意見なので素直に謝罪しておく。


 馬鹿みたいというか馬鹿そのもので空手を習っていた事を自慢していた佐竹だが、はっきり言えば俺も警察官である叔父に幼少の頃から最低限、自分の身を守れるようにと柔道を習っていた。


 柔道というよりかは警察官の逮捕術と言った方が正確で犯罪者である佐竹に使用する事は正しい使い方だろう。


 短剣を片手に近付く俺を警戒する佐竹(犯罪者)。近付けば当然、打撃で迎撃されるだろうが師匠(エバンス)とマルコ相手にまだ数日でしかないとはいえ訓練をした俺の敵ではない。


 肩に短剣が突き刺さり継続ダメージを与えているようだ。殺すのは勿体ので意識だけを奪って領主軍に引き渡すのが利口だろう。


 デスペナは痛いがこの世界の犯罪者は保護される対象ではない。拷問も普通に行われ、軽犯罪でも牢へと強制的に入れられる事になる。


 クライン伯との繋がりが出来た今では、殺すより捕らえた方がきついペナルティが与えられる事になるだろう。


 牽制をいれつつ近付いて行く。短剣を鞘に納め、被弾覚悟で襟と袖を取る。後は綺麗に投げ飛ばしてむせている間に首を絞め殺さない様に手加減して意識を奪う。


 ステータスを確認したところで無事に気絶状態になっていた。面倒だが佐竹を担いでポートロイヤルの門まで戻る。


 鑑定の水晶があれば犯罪者だとはっきりするし、クライン伯から貰った短剣があれば問題なく身分を証明してくれるだろう。


「立ち止まれ。身分証を提示しろ」


 職務に忠実な門兵を責めるつもりはない。短剣を門兵に見せ責任者を呼んでもらう。急いで隊長を呼びに行く門兵。


 ソラの存在は周知が徹底して行われ、領主であるクライン伯の家紋を提示させられて協力を要請されれば一般兵でしかない門兵が断れる訳がない。


「ソラ君。もう戻って来たのか。早すぎはしないかね」


「犯罪者に襲われまして。仕方がなく戻ってきました」


 事情を軽く説明して身柄を引き渡す。本名が佐竹彰だからプレイヤー名【アキラ】か。


 クライン伯領では犯罪者として扱われ、クライン伯の庇護を受けたソラを襲ったとあっては前後関係を洗い出す為に徹底的な尋問(拷問)が行われるだろう。


 オレンジプレイヤーが治安維持組織である領主軍や自警団に捕まった場合、最悪は処刑されデスペナを受ける。


 そうでなくても現実世界で一日に近い時間のアクセス禁止処分を受けるのだ。


 実際には牢に入れられて自由を奪われるだけだが、罰金を払った上で留置をされるという泣きっ面に蜂の状態になり、犯罪者プレイはリターンも大きいがリスクが大きい仕様となっている。


 因みに運営は犯罪者プレイを推奨はしていないが否定もしないという体をとっている。


 PK(プレイヤーキラー)PKK(プレイヤーキラーキラー)もゲームを楽しむ上で必要不可欠な要素ということだろう。


 賞金が懸けられる程のオレンジプレイヤーは害悪ではあるが賞金ハンターにとっては生活資金を得られる一方で名声も一緒に得られるのだから危険はあるが美味しい獲物である事は間違いない。


 勘違いした馬鹿(佐竹)のせいで出発が遅れてしまったが順調にゴブリンを狩って行く。レベルが一つ上がったが、実入りはそこまで良くない。


 先ずは【錬金術】と【土魔法】を得られるだけのレベル上げが必要になるため、冒険者を続ける事に異論はない。朝に行うエバンスとの訓練はソラにとっては金を払ってでも受けたい訓練であった。


【教導】は言わば育成用のチートスキルだ。弱ければ生き残れない世界で必要に駆られて得たスキルだろうが成長を促すスキルはソラにとって値千金どころか値万金の価値があった。


 拠点をポートロイヤルに暫く置く十分な理由となり、農民との直接交渉で得た食材を行商として売るにも規模が大きい街でしか出来ない事もあるからだ。


 現実世界での借りを返した宙人(ソラ)であったが、(アキラ)から逆恨みでしかない恨みを買うのであった。


 この行動がどの様な結末になるかは誰も知らなかった。

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