十三話
ソラはまずステータスを確認する事にした。
「ステータスオープン」
Name_ソラ
Rank_F
Levle_四
Job_冒険者
Skill_【殴打:六】、【蹴り:六】【短剣術:五】、【投擲:四】、【投げ:五】、【受け身:七】、【毒耐性:二】、【解読:二】、【薬草学:二】
レベルとスキルはそこまで戦闘をしていなかったため当初の予定より上がっていない。安定してボブゴブリンを狩れる様になる頃にはある程度の余裕が出来てくるだろうがスタートダッシュは完全に失敗している。
挽回はまだ可能だか早めに決着が着いて欲しいというのが本音だ。
今は邪魔になると理解しつつも素材保管庫で素材と睨めっこしている最中である。やることがないというのが一番の理由だが鑑定スキルは持っていて損する事はないからだ。
冒険者ギルドに滞在している最中は暇を見つけては護衛のマルコに説明を受けながら鑑定の真似事をしているがまだ得られないみたいだ。
SM
『プレイヤー【ソラ】はスキル【物品鑑定】を取得しました』
そう思っていたら鑑定を手に入れる事が出来たらしい。スキルは相応の行動をし続ける事により取得出来るが、熟練度を見る事は出来ない。
隠しパラメーターともされているが、事実はブラックボックスの中にあり、プレイヤーが知ることは出来ない。
大元のVRシステムにも分かっていない事は多く、体内の電気信号を無効化させてVR空間で仮の肉体を動かしているという自体が昔では考えられなかったことである。
物品鑑定はスキルレベルが低いうちはステータスオープンとあまり変わらない情報量しか得られないがスキルレベルが上がれば得られる情報も比例して多くなる。
【人物鑑定】、【物品鑑定】、【魔物鑑定】が統合された純粋な鑑定スキルを得る事が出来ればそれだけでジョブ【鑑定士】を得られると親切なギルド職員が教えてくれたのだ。
遥か昔に放送されていたとされる鑑定番組の鑑定士の口癖「良い仕事してますね」を不意に思い出したくらいだ。
壺や掛け軸の鑑定を得意とする鑑定士の印象は強く、見る目がないと簡単に騙されてしまう商人には必要な技術と言える。
間違いなく言えるのはスキルは多くて損はする事はないだろう。凹凸のない人間は突出した人間には敵わないものの引く手あまたである。
口が悪い人は器用貧乏と言うだろうが、どの様な場面でも対応出来る汎用性があると言える。それに何かに特化した人間は自信家であり扱い辛い面があることが多いが、オールグラウンダーは黙々と与えられた仕事をこなす人物が多いとソラは考えていた。
エバンスは老境に入り全盛期より衰えているとは言え、一対一で降せる使い手は少ないだろう。だがそれは戦闘面だけ評価した場合である。
エバンスが全く駄目とは言わないが、政治のスペシャリストである貴族には権力と言う面では劣るだろう。特化型には特化型なりの戦い方があり、悪く言う訳ではないが、汎用性に欠けるのは欠点だ。
ソラの性格がそうさせているのだが、能力を平均的に上げ、昔のRPGでは最初の街で徹底的にレベルを上げるタイプである。
某三色に分かれたポケットなモンスターでは、炎タイプを選んだ場合、進化するためにネズミや鳥を永遠に狩り続けるタイプだった。
バッチを手に入れる為にジムリーダーを倒さなくてはならないが、岩タイプと水と立て続けに炎の弱点とするタイプで攻めて来るので必要に駆られてではあるが、MWOでも効率的が悪いと自覚しつつも、スモールラビットとゴブリン狩りを止める事はないだろう。
本職には負けるだろうが備えていて損する事はない。デスペナが痛いということもあるがある程度、成功したら冒険者や傭兵を護衛として雇えば良いだけだ。
今マルコに護衛されている状況はその予行練習であり、盾役、攻撃役、支援役の動きを見る事は勉強になる。
レベルが違い過ぎて参考にならない事も多いがエバンスは後輩冒険者を育成してきた経験を持ち、厳しいながらも見守っていてくれる節があるのは教えを請うものからして見れば有難い。
エスカレーターではなく階段を一歩ずつ進む兎と亀の違いはあるかも知れない。だが人生は長く最終的に勝てば良いのだ。
エバンスに夕方にも訓練をつけて貰い何故か【衝撃耐性】と【打撃耐性】を得た。型が悪ければ最初は口で指摘するが次からは問答無用で木の棒を叩きつけられる。
槍の穂先がないだけで長さはエバンスが使用する槍と変わらないのだ。エバンス相手に訓練が出来る機会は普通の冒険者では滅多になく、マルコも護衛対象であるソラを放置して模擬戦を行っていた。
Aランクに近いBランクなのかソラからしてみればマルコの技量も一流だ。模擬戦を見ることで槍士、盾士の武技を知ることが出来たのは大きいが、対応できるかはまた別である。
最初にエバンスから聞いていた様に訓練所を使う冒険者は少ない。安全にスキルを上げられるのは利点だが実戦で鍛えた方が身につく。刃を潰した武器での対戦で負けなしの者が実戦では役に立たないというのは良くある事だ。
死んだら元も子もないと思うが中世では人の命は軽かったと聞く。魔法という特性がある以上は高度に発達した機械文明があったら興醒めだが、鹿などの野生生物ならともかく問答無用で人を襲う生物が居る世界では生き辛いだろう。
力こそが全てとは言わないが、力無き者は搾取され続ける世界だ。現実世界でもそれはあまり変わらないが、ここは特にそれが顕著だった。その日は見学と訓練で時間が過ぎていった。
早朝、いつもの様に朝食を済ませてからログインすると既にエバンスは訓練所に居たが、服装はいつもの軽装ではなく、ギルド職員が来ている制服に似てはいるものの素材は明らかに高級そうで普段からある威厳が更に強まって荒くれ者を統べるギルドマスターの風格が出ていた。
「ソラ。ようやく辺境伯からの使者が来た。今日は訓練は無しだ。一時間後に出れる様に準備してくれ」
始まりの街ポートロイヤルはクライン辺境伯が統治している領地の中で栄えている方ではあるが、辺境伯が直接、治めている土地ではない。
陪臣と呼ばれる代々、辺境伯に仕える家臣の中から執政官が選ばれ、辺境伯に代わって統治している。王国から貴族に任じられた直臣と違い正式には貴族ではないが、仕える主君の土地の中では絶大な力を持つ事が多い。
陪臣は王国の身分制度上は平民であるにも関わらず同じ平民に横柄な態度を取ることが多い。貴族の次男、三男に似ている状況だが、実際に家を継げなかった者が家臣となっている家も多い。
伯爵の陪臣ともなれば下手な騎士爵よりも裕福な生活をしている事が多いので納得いける話である。
稀人であるソラは勿論、ランスカ王国の中では平民という扱いだ。問題を起こしたコルナー男爵の次男は王国法に則れば処罰される事はない。
自家の領民で無いことだけが問題であり、例えば公爵家の人間が侯爵以下の貴族が治める土地で同様の騒動を起こした時、その平民が冒険者で無かった場合ここまでの問題に発展したかには疑問が残る。
それにもしギルドマスターがエバンスで無かった場合、冒険者ギルドが冒険者に庇護を与えていたかも疑問だ。ギルドの全権を握るのは統帥だが、各支部で起きた問題を解決する権限は冒険者ギルドの幹部であるギルドマスターが握っている。
ギルドマスターは非常時には冒険者を強制的に召集する権限を有しているがそれ以外ではギルド規則に則った処罰は出来てもそれ以上の干渉は出来ない。
貴族の次男、三男が冒険者になり高ランクになることも有り得ない話ではないがそこまでの実力があるのなら王国騎士となり、騎士爵に任じられる様に努力した方がてっとり早く、安全な道である。
平民であるギルドマスターが職責とはいえ貴族に喧嘩を売れるかはその者の資質によるところが大きい。冒険者となりその腕一つで成功しギルドマスターになった途端に腑抜けになる事は良くある事だ。
一度でも地位を手に入れた人間が以前の生活に戻る事は難しい。その点ではソラが稀人であり、ポートロイヤル支部のギルドマスターがエバンスであった事は幸運であると言える。
一時間後、いつも通りの冒険者の格好をしたソラとギルドマスターの正装をしたエバンス、護衛のマルコは細かい傷が入った鎧を身に付け、正装としては相応しくないかも知れないがその傷が歴戦の戦士といった雰囲気をマルコに与えていた。
威圧感を与えるのが今回の目的ではなく、場の雰囲気を和やかにする為にアリシアも同行をエバンスに命じられていたが、その役割は今回の会合の書記役である。
冒険者ギルドに横付けされた馬車に掲げられた紋章は剣と盾それが意味するのは冒険者ギルドの公用馬車であり、その馬車を襲撃する事は冒険者ギルドを敵に回すということである。
馬車を使える権限を持つものは限られており、普段は滅多に使用されることはない。エバンスは移動するなら馬車に乗るよりは馬に直接跨がって移動するタイプでありサブマスターは書類仕事に追われており、ギルドの正式な使者として貴族を訪ねる時やギルド支部間での移動でしか使われないからだ。
盗賊や無法者からしてみれば要人を守る護衛が弱い訳がない。魔境に面しているクライン辺境伯の冒険者は他の支部所属の冒険者に比べると質が良い。
しかも本来の護衛対象であるギルドマスターも戦える者が多く、ギルド職員には戦闘能力も要求される。下はボブゴブリン等の低位魔物しか狩れる実力はないが上は単独でオーガや地竜を倒す化け物もいる。
槍聖エバンスがポートロイヤル支部のギルドマスターになると知った無法者の多くは拠点を変え、臆病者と他者を罵っていた愚者はエバンスの槍に貫かれた。
魔境に面するクライン伯領にあるポートロイヤル支部のギルドマスターが戦えない者がなる事は有り得ない。
ギルド統帥も内部の反対を押し切ってエバンスを就任させており、ギルド外部、内部ともに納得させる必要があった。
そのための盗賊退治であり、懸賞金の懸かった首領を三人も始末した所でエバンスの就任に反対できる者はいなくなった。
元々、大暴走を冒険者を指揮して乗りきり国民の人気が高かったエバンスである。そして武の道を極める過程で得た槍聖の名前は王国どころか他国にも名が知られている。
ギルド職員としての実績はなくても冒険者としての実績は余りある。エバンス直接指揮の下、盗賊団を壊滅させた力腕は冒険者を管理する能力がある事を証明して反対派を沈黙させるには充分であった。
向かっているポーロイヤルの政治を統べる執政官の屋敷は官庁とは別に立てられた建物であり、辺境伯がこの問題を大きくしたくないという意思表示でもある。
「エバンスさん。何処に向かっているんですか」
「この街を治める執政官の館だ。辺境伯が事態を深刻に考えている証拠じゃな」
もし王都に近く治安の良い貴族が治める土地であったのであれば話は別であったかもしれないが、例え治安が良くても冒険者達は支部がなくなれば利便性が悪くなり他の土地に移動するだろうし、冒険者ギルドが問題視すれば理念は別として国から冒険者が引き揚げられることも充分に有り得た。
そうなれば自領だけの問題ではなくなり、家の取り潰しもあり得る。魔物から得られる素材が入手できなくなるだけでも財政的に痛手となるのに貴族としても生きていけなくなるどころか責任をとって一族が連座で処刑されることも考えられる。
辺境伯は武に優れてはいるが政治や内政に疎い。優れた弟がいる為に一任し、人類の最後の砦となるべく奮闘している。向かっている場所が執政官の自宅だと聞いて少し余裕がなくなるソラだが、問題を解決する方が先でエバンスがいる限りは悪い事にはならないだろうと思い直した。
「朝食は出るんですかね」
ソラはエバンスと組手はしなかったが軽く汗をかき風呂に入ってから出発の準備をしていた為に食事は抜いている。その為の質問であったが場違いである。
「余裕じゃな。儂がいるとはいえ平民一人くらいなら暗殺し、闇に葬ることなど辺境伯の力があれば容易い。いつまでもギルドの保護下にあるとは言えないし状況次第では切り捨てることもありえるぞ」
稀人を害する事は難しい。どんなに致命傷といえる傷を負っても教会の治癒師によって回復される。システムとしてNPCには効果がない蘇生魔法が使える治癒師が配備されているからであり、低レベルのうちは容易でも地道にレベルを上げた稀人に復讐される事を怖れない者はいない。
「師匠。自分が稀人だと知っての質問ですか」
「ああ。儂は衰えたとはいえ御主くらいなら簡単に殺せる。教会を敵に回す事になっても自給自足できれば生きる事に困る事はない」
エバンスがいう事ももっともである。割合から考えると極少数ではあるがエバンス位の実力があれば目標を殺害した後に逃亡し生き残る事も可能だ。
賞金首になろうが冒険者者や賞金ハンターを返り討ちにすれば済む問題で、労力さえ惜しまなければ魔境で単独で自活すれば良い。
「最大宗教である教会を敵に回す事は出来るものではないと思いますよ。それだったら無知な稀人を利益誘導して取り込む方がリスクは少なく、得る物が大きいのではないですか」
王国の実情として建国王が稀人とされている以上は敵対することは得策ではない。聖級すら数がすくないのに神級ともなればお伽噺の世界の話だ。
トッププレイヤーであれば効率の良い狩場でレベルを上げ得た金で装備を強化してスキルを惜しみなく使えば小国なら陥落させることはいずれは可能だ。
魔境に住む魔物や魔族にその力が向くならまだ良いが自分達に向かう可能性がある以上は迂濶な行動は取れない。ソラが楽観視している根拠であり、間違いではない。
「ソラが言う事も間違いではないが、貴族は特権意識に囚われている。何があっても不思議ではないぞ」
口を挟んだマルコは平民として生を受けてエバンスと同様に貴族の理不尽さを経験してきた。飢饉に苦しむ平民を他所に重税をかけて贅沢に余念がない貴族もいれば、クライン辺境伯の様に平民に人気がある貴族もいる。
平民からしてみれば見たこともない王族より自分達の生与奪権を握っている自領の当主や跡取りの方が気になるものだ。
「クライン辺境伯は武人の鏡とも言える気性の方だが、弟は政治に長けている分だけ冷酷な判断をされるお方だ。俺が住んでいた村を治める貴族よりはましだが平民にとっては貴族というだけで警戒に値するのが常識だぞ」
反乱さえ気にしなければ自領の中では王の様に振る舞えるのが貴族である。精強な軍を抱えている貴族と冒険者や兵士以外は殆んどが戦えない者で構成されている平民。
復讐者となりその復讐が果たされたとしても待っているのは悲惨な結末である。
アリシアが差し出してくれたグリーンリーフ茶を口に含みながら、エバンスとマルコの言葉に不安になるソラが居たが、丘の上に建てられた立派な家を見て覚悟を決めるソラの姿があった。




