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十一話

 三人が来ているのはいつもソラがスモールラビットを狩りに来ている平原の反対側に位置する森である。ゴブリンが多く生息しており巣は定期的に出される討伐依頼により、排除される。


 領主によってはゴブリン程度の魔物でギルドに依頼料を支払うのが馬鹿馬鹿しいと思い放置したことによって甚大な被害を受ける事もある。


 ゴブリンの脅威は爆発的な繁殖能力と存在進化をしなくてもジョブに似た役割を持つということであり、厄介なのは司令官(コマンダー)に率いられた兵士(ソルジャー)がその役割に応じて拙いながらも集団戦を行うところにもある。


 兵士は剣士タイプ、弓士タイプ、盾タイプ、槍タイプに分かれているがレア級である魔法師、僧侶タイプも存在している。


 鉄則は大集団になる前に叩くことであって間違ってもボブゴブリン、オーガに存在進化させない事にある。集団戦の練習と治安維持を兼ねて領主軍によって討伐されれば良い方だ。


 冒険者ギルドに依頼したは良いが、巣が壊滅できなかったとして規定の報酬を渋る領主も多い。


 状況を理解しているのなら放置などあり得ない選択ではあるが、まかり通ってしまうのは貴族で選民意識に囚われた人間が多く利己主義者を許してしまう身分制度にも問題がある。


 だから各村や街は自分達の居場所を守る為に自警団を持つ。賢君であれば自衛の為の戦力保持を認め、ある程度の自治権を認めるだろう愚君であれば反乱の兆しありとして領民を虐殺するケースもある。


 命が軽い世界ではあるが地球も近代になるまでは身分上での支配者階級と被支配階級に分かれているし、悪く言えば企業戦士(サラリーマン)は全員が会社の奴隷とも言える存在である。


 宙人(ひろと)は企業戦士になりきれなかったが今ではそれほど後悔はしていない。


 マルコは突然、ソラの前で盾を構えた。その数瞬後にはソラの頭がある場所に矢が飛んできた。咄嗟に庇ったマルコは気付いていたのだろう。


 エバンスも背後から横に移動しており、マルコが矢を通してしまった場合は矢切りをするために行動していた。ソラはというと全く気付いていなかった。


「ソラ。ボヤボヤするな。森の様に視界が制限される場所では常に周囲に気を払え」


 もしマルコが矢を防いでいなければ即死はしないだろうが、クリティカル判定となり、状態異常【出血】になっていた可能性がある。


 普通のゲームであればHPが減って終わりだが、このゲームでは相手の攻撃力と自分の防御力で判定が行われ様々な状態異常が付与される。


 一度にHPの三分の二以上のダメージを受ければ確実に【昏睡】となり、自身で回復する手段を失う。


 仲間がいれば安全なところまで移動するか、気付け薬を飲ませることで昏睡から回復することもできるが、戦闘中に隙を見せる事になるので言うまでも無く危険な行為である。


 しかし、冒険者をしていれば当たり前にある話で全滅まではいかないものの仲間を数人失う等のことは日常茶飯事の事である。


 それが嫌なら冒険者にならなければ良いが、安定した職業に就けない者が否応なくなるケースが殆んどなので生まれた環境によってその後の人生が左右されてしまうのが当たり前なので仕方ない。


 それが嫌なら血路を己の力で切り開くしかない。大抵の場合、それが可能な人間ならどの様な分野でも大成している筈なので夢物語でしかないのだが。


「すみません。気をつけます」


 森の中の戦闘は思ったより難しい。平原の様に視界が広い場所ならば接敵に気付く事は経験の浅い者でも可能で、森の中ではそうはいかない。


 接敵は目と耳と鼻で敵を感じなけれならないが、人種は獣人などに比べると五感は鋭くないのだ。魔物はその殆んどが野生に生き、喰うか喰われるかの弱肉強食の世界で生きるので人間に比べるまでもなくただ生き残るという行為が難しい。


 ソラがその難しさを感じていた僅かな間にゴブリンアーチャーはマルコの投剣によりその命を奪われていた。盾役であるマルコは攻撃不足は否めないが、それは高位の魔物を相手にする場合である。


 ゴブリン位なら嫌というほど狩ってきたし、ゴブリンに負ける様では既にこの世にはいない。


「ソラ。今の様に投擲をするなら頭ではなく心臓を狙え。百発百中の腕があるなら話は別だが、大抵の場合は敵も反応して回避行動にはいるか、迎撃してくる。当てるなら確実に当てなければ意味がないぞ」


 急所となる頭は当たれば効果は大きいが、当然、的は小さい。投擲する剣の材質によっては当たっても少しの傷しか与える事が出来ないのが一般的な認識である。


 投擲の様な中距離攻撃は力が込めにくい分だけ威力が劣るため通常であれば牽制にしか使えない。それでも多対一の場合は有効な手段であることは間違いのない事実だった。


 引率という形で外出したエバンスは戦いに餓えていた。毎日の鍛練は欠かす事の出来ない日課となっているが十の訓練より一の実戦を経験した方が実力が付く。


 最近は魔の森から出てくる魔物は少なくポートロイヤルは最前線の街ではない。エバンスが現役の時には、人類の生存圏は狭くポートロイヤルも準最前線ではあったが、今では下位の魔物が出る事はあっても自警団で狩れる位の安全な街である。


 エバンスは周囲に請われてギルドマスターに就任したが、根からの武人である。鍬やペンを持つよりかは槍を持つ方が性に合っていただけではあるが、冒険者としての生活が気に入っていた。


 確かに体力の衰えは感じていた。冒険者はそう長く続けられる仕事でないのは多くの仲間の死を看取ってきたエバンスは身に染みている。だから後進を育てる為に要請を受けたのだが、与えられた仕事は雑務が多く、槍聖として多くの魔物の命を奪い、また周囲を救ってきたエバンスにとっては異次元の戦いを強いられることとなった。


 今回、連れてきたソラには槍を扱う才能は全くとは言わないがないだろう。それでも訓練に付き合っているのは、冒険者が訓練所を使う事は滅多にないからであった。


 一人でする訓練は集中は出来るが、味気無い。命のやり取りに慣れきってしまった者にとって日常は退屈でしかないことはよくある話だった。


 戦いこそがエバンスの一生と言っても過言ではないのかも知れない。エバンスは考え事をしながらでもソラと違って周囲に浅く広い警戒網を拡げていた。


【気配察知】から始まり【索敵】に到達するスキルがあるから出来る芸当である。エバンス達を囲む様に八の生体反応があり、武器までは判別できなかったが、害意をこちらに向けている。


「ソラ。周囲を魔物に囲われている。死にたくなかったら必死になるしかないぞ。無理だったら下がっても良いから可能な範囲で行動しろ」


 ----


 獲物は三人だった粗末な服を来て領域(テリトリー)に侵入してきた愚か者だ。人間というのは限られた範囲と夜にはまともに行動が出来ない脆弱な生き物だ。簡単な狩りになるはずだった。


 迷い込んだ子供を倒した事があった中鬼(ボブゴブリン)はそう考えて配下に攻撃命令を下した。だが現実は違った。盾を持った男に必殺となるべくして放たれた矢は防がれ、一族の中でも一・二を争う腕を持つ筈の仲間が反撃にあい命を落とした。


 盾を持った男も鋭い攻撃をしていたが、槍を持った男は桁が違う。仲間が一人、また一人と倒れていく。覚悟を決めた俺は一矢を報いる為に乾坤一擲の勝負に出ることにした。


 相手は敵の中で一番弱そうな男だ。ここで命を落とす事になっても仲間に後悔のない報告で出来なくてはならない。矢に毒を塗って攻撃することにした。


 ----


 瞬く間にゴブリン達が倒されていく。二人にとってゴブリンは狩り慣れた獲物でしかなく、反撃を受ける事もなく淡々と流れ作業の様に行われていた。


 ソラはその光景を見ているだけしか出来ず本来の目的であるレベル上げは全くと言っていいほど出来ていない。


「ソラ。あそこにいるボブゴブリンはお前が仕留めろ。毒矢を使う者もいるから油断だけはするなよ」


 ソラは見慣れていたがボブゴブリンを見て笑いそうになった。【ホブゴブリン】でなく、MWOで【ボブゴブリン】なのは、何故かホブゴブリンの髪型は例外なくボブカットなのだ。


 油断はしていないつもりだったが早速、矢が飛んできた。一番、最初にゴブリンが放った矢より威力はありそうだが、不意打ちでない限りは避けるか切り払いを行えば対処は可能だ。


 ゴブリンが中学生くらいの力を持つとしたらボブゴブリンは高校生位の力を持つ。レベル的にはボブゴブリンの方が格上であるはずだが種族的には人種の方が優れている。


 現実なら動体視力はお世辞でも良いとは言えないソラだったが、矢が見えていた。鏃に緑色の液体が塗られ明らかに毒矢であった。


 短剣ではリーチが短く切り払うには難易度が高い。かといって小さな矢に投擲して当てられる程の自信はない。ソラには迫ってくる矢を避ける以外の選択肢はなかった。


 ソラは完全に矢を避けきる事が出来ず、異常状態【弱毒一】を受けてしまう。状態異常は弱一から強五までの強さがあり、毒の強さによってダメージや状態異常の継続時間が異なる。


「ちっ」


 麻痺毒でなかっただけ状況はまだ良いが、ボブゴブリンは既に次の矢を構え発射態勢に入っている。状態異常は蓄積されるので弱い毒一でも受け続ければ、状態は悪化する。


 頭の中では完全に避けたつもりだったが、ベータ時代に比べるとステータスは確実に落ちている。矢切りを選択しなかったのもリーチの問題もあるが確実性が低かったからだ。


 もし今のソラのレベルが六を越えて入れば問題なく矢を払い落とす事が出来ただろう。


 毒を回復するのも重要だがこれ以上の毒を受けない為にもボブゴブリンに接近する必要がある。ボブゴブリンの領域(テリトリー)で戦う為、向こうが有利になるのは仕方がない事だがこれ以上の失態はなんとしても避けなくてはならない。


 (ホルスター)から短剣を抜き走りながら投擲する。矢さえ避けられれば問題ない為、胴体に向けて全力で投擲する。


 狙ったポイントとは少しずれてしまったがゴブリンは咄嗟に身を守るため右手で心臓を庇って負傷した。ソラにとっては好機であり逃すつもりはない。


 利き手を封じた事でボブゴブリンは不利になっている。人型の魔物は人間と同様に右利きが多い。諸説はあるが重要な器官である心臓を守る為には右利きの方が有利になるかららしい。


 かと言って左利きが悪いと言うわけでもない。左利きの相手が少ないため一般的には相手にし辛いのだ。圧倒的な実力差があるのなら話は別だが、実力が均衡している時には慣れているかどうかは重要なポイントとなる。


 ソラは元々は左利きであり、父親の方針により矯正されているため今は多くの人と同様に右手で文字を書き多くの事をこなすが、武器を左手で持って攻撃する事も可能だ。


 ベータ時代には武技を発した後の硬直時間は武器を持っている方の腕に発生する仕様だったので、武器を左手に持ち換えて再び武技を発動していた。


 今はまだ何の武技を覚えていないが感覚を忘れない為には必要で刺す払う位なら今でも右手と同じように出来るので、使える手段は有効活用するまでだ。


 スキルの中には当然の様に【双剣】、【双槍】がある。一撃の重さは両手で扱うより落ちてしまうが、手数は多い。


 魔物相手には不向きとされているが人型や人間であれば手数は時として力になる。幾ら力が強くても当たらなければ意味がない。


 力の無いものが強者に対抗する為に編み出された技であり、一撃で状況をひっくり返される可能性もあるが、戦闘スタイルは個人によって異なり最強を目指せるだけの実績がある。


 ソラには現実でナイフを扱った経験はないが、システム的なアシストによって問題なく短剣を振るうことが出来る。


 スキルはあくまでも補助でしかないが一般人がVR空間で戦闘を行うには必須となる。現実世界に及ぼす影響を指摘する有識者はいる。実際にVRゲームが規制されそうになった凶悪事件も数件ではあるが発生している。


 裁判の過程で行われた精神鑑定では、直接の因果関係は証明されなかったために規制を逃れることはできたが、ゲームの中の人間関係が現実の世界にも影響するのが、VRゲームの怖い所でもある。


 ボブゴブリンはダメージが入った事により、一瞬の硬直時間が課せられた。普段なら何てことのない僅かな時間であったが、今は生存闘争の真っ最中であり、僅かな隙を見逃すほど甘くはない。


 投擲用の短剣は手放してしまったが戦闘用に使っている短剣がある。距離を詰める為にはもう少し時間が必要であり、時間を置けば、ボブゴブリンは体勢を立て直すだろう。


 ソラは躊躇することなく最後の武器を投擲する。格闘系のスキルはそこまで高くはないが、地力ではボブゴブリンが勝っているとはいえ、そこまで大きな差はない。


 寧ろ投擲によるダメージで戦いに集中できていない。魔物とは言え、痛覚はある。スキルによって軽減または無効化している場合や元々、痛みに対して強いなどの差はあるが、痛みは体が脳に対する危険信号であり生物である以上は無視できる物ではない。


 毒によりじわじわと目減りする体力をゲージで確認しながら投げの体勢に入る。スキルを発動しなくても行動(モーション)はできる。


 ただ何となくである程度の補助があるくらいだ。有段者ではないがそれなりに柔道の経験がある者にとっては僅かな差が大きな差となる。


 柔道の試合であれば一本勝ちだろうが生憎ゲームの中だとは言え投げられた=敗北ではない。きっちりと相手の息の根を止めて初めて勝利と言える。


 一本を取られた時点で既に死に体と言えるのだが。寝技の合わせ一本もそれだけ抑え込めればそれが戦場であったのなら死んでいるという意味である。


 人型であるボブゴブリンは基本的に人を殺害するのと同じ様に殺せる。魔物と人は対立しており殺せる時にはきちんと殺すのが常識だ。ゲームとはいえ、そのとき見逃した魔物が誰かを襲うかもしれない。


 鬼系の魔物の場合、拐われた女性は死ぬよりも辛い目にあう可能性が高い。


 片腕でボブゴブリンの気道を塞ぎ、もう片方の手でゴブリンに突き刺さった短剣を引き抜く。そしてソラはボブゴブリンに引導を渡した。


 SM

『プレーヤー【ソラ】の経験値が規定値を上回った為、レベルアップしました。BP(ボーナスポイント)SP(スキルポイント)がそれぞれ一付与されました。』


 久しぶりのレベルアップだ。スモールラビットやゴブリンと違い。ボブゴブリンは経験値が美味しい。討伐報酬も高めであり、安定して狩れるのであればその報酬は馬鹿には出来ない。


 先ずはレベルアップの達成感よりも優先しなくてはならない解毒に取り掛かる事にした。ゴブリンの使う毒は植物由来の物であり、魔物の体内で精製される毒とは違い解毒は比較的に容易に行える。


 余裕があれば耐性スキルを手に入れる為に、毒を受け続けても良いが、回復職(ヒーラー)を用意した上で行うのが常識であり、好んで毒を受けに行く程の人物は廃人かマゾの何れかに該当する人物だけだろう。


 スモールラビットの革で出来たカバンから解毒草を取り出して口に含む。口の中に広がるのは苦味だけだ。良薬口に苦しというがそれを地で行くのは勘弁して貰いたいと思う。毒を受けたくない理由の一つである。


 周囲を警戒しながら討伐部位である耳と魔石をボブゴブリンの体から剥ぎ取るのであった。

ボブカットなのでボブゴブリンと呼ばれています。どういう風に整えているかは不明で公式アナウンスでもボブゴブリンと呼称するように呼びかけていますがオーガはボブカットの設定はありません。

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