停滞する暗雲
「召喚!!」
リーゼットが杖を地面目がけて強く突くと、地の底から黒煙が噴き出し、一角の悪魔が二体姿を現した。
「ココでやるからには血族だろうが容赦はしないよ!?」
「マズい! 最上級のデーモンだ! 俺とフェリーがやるから、お前らでチャイナ姉ちゃんをなんとかしろ!」
「分かった!!」
リゼリアは杖を構え、詠唱へと入った。
「ほぅ、よく見たら見違える程魔力が溢れてるねぇ……何をしたんだい?」
リーゼットが脊椎の杖を、激しく笑いながら振り回した!
「させません!」
マニエルがベコベコに凹んだフライパンでそれを受け、攻撃を受け流した。
「聖焰!!」
透き通った青白い大火がリゼリアから放たれ、渦巻くようにリーゼットを襲った!
「チッ! でからしじゃなかったか!!」
リーゼットが機敏にそれを躱そうとするが、大火はリーゼットを追尾し、背中へとヒットした。
「グゥゥ……!!」
身を焦がす程の聖なる焰をその身に受け、苦悶の表情で睨み付けるリーゼットに、リゼリアは更に詠唱を始めた。
「この一撃は、お前を侮った戒めとして甘んじて受けよう……!! だが、これ以上はさせぬ!!」
激しい憤怒を振り撒き、杖を突く!
──ブシュュュ!!
「──ッ!!」
マニエルの肩を貫いた杖に、鮮血が滴った。
「快癒!」
直ぐさまに治癒に当たるフユハ。それを見たリーゼットの顔が更に強ばった。
「チッ!!」
「雹陣!」
凍てつく冷氷がリーゼットを覆った! リーゼットの皮膚が忽ちに凍り付き、動きが鈍くなってその場に跪いた。
──スコォォォォン……
そしてマニエルの一撃でリーゼットは倒れた。その顔は安らかであり、とても先程まで殺気を放っていたとは思えないほどに優しかった。
「……やった……の?」
「……そのようです」
「えっ? あ、倒れてる」
殴った張本人がプイプイと突いて眠りを確認すると、戦闘を終えてボロボロになったエルとフェリーが首を鳴らしながら寄った。
「……ったく、こちとら全盛期じゃねーんだからあんまり無茶させんなよな……」
「まあ、オイラはまだまだやれるけど、オジサンエルフには辛かったろうね」
「…………」
笑顔のまま、二人が無言で睨み合った。そして笑った。
「ふ、さて……後はコイツをゲロさせて終わりだな」
「その前に縛っとけ。後呪文使えねぇように封じとけ──」
エルが軽く詠唱し、リーゼットの呪文を封じた。そしてボロボロの上着を脱ぎ、半分に破りリーゼットの手と足を縛り始めた。
──チラッ
「エル……」
「んだよ、ちょっとしたご褒美だよ!!」
(最低……)
(下品な人……)
(…………)
女性三人の冷ややかな視線を背中に感じながら、リーゼットの頬を叩くエル。
「おい、起きろ」
──ペンペン!
「おーきーろー」
──ペンペンペンペン
「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ」
しかしリーゼットは起きる気配も無く、手が痛くなったエルは、やがて叩くのを止めた。
「ダメだ、きっちり火事ナートが決まってやがる……」
リーゼットの頬は叩かれ続けた衝撃で酷く腫れ上がっており、まるで個人的な恨みが晴らされた後のようになっていた…………。




