リゼリアとリース
エルやフェリー達がウエスキンと死闘を繰り広げている最中、フユハはリゼリアの治療に苦戦していた。
「ゴメンねリゼリア……!!」
治療に当たった時、既にリゼリアの心の臓は停止しており、フユハは邪念を振り払い、蘇生を開始した。
蘇生呪文が終わり、肉体は元の姿を取り戻し、呼吸は回復はしたが、何故か意識は戻らず、リゼリアは眠ったままであった……。
──ポーン
小さくゴムボールが跳ねる。
──ポーン、ポーン
芝の上にボールが転がり、ステイを着けた赤ちゃんが、ハイハイをしながらボールの後を追っていた。
「リゼたーん」
探索用の杖を歩行杖代わりに、老婆が赤子の側へと近寄った。芝の上に座り、杖を転がす。赤子を抱き寄せその胸に抱いた。暖かい風が吹き、赤子の細い前髪が揺れる。
「……私のせいで娘達には酷く苦労を掛けてしまった」
老婆が赤子の手のひらを開き、手のシワをしげしげと眺めた。その手相は魔術の素養に溢れており、そのシワは、老婆のそれよりも遙かに優れたシワであった。
「……孫にまで苦労を掛けると思うと、わたしの胸はいくつあっても足りやしない」
極上のカーペットよりも気持ちの良い赤子の髪を撫で、深々とつむじを覗き込む老婆。そのつむじはやはり魔術の素養に溢れている事を表しており、老婆は自分のつむじを撫でるが、いまいち本質を掴みきれずに眉をひそめた。
「……ゴメンね。すこーしだけ、ばぁばの悪戯を許しておくれ」
老婆が赤子の手の上に自らの手を重ねた。そして静かに、重く口を小さく開き、詠唱を始めた。
「ごめんよ。ばあばを許しておくれ……」
離された赤子の手はシワが短くなっており、つむじだけが変わらず溢れていた。
「……妖精族の占いとやらは本当かどうか怪しいねぇ……」
老婆がクスリと笑い、ゴムボールを転がした。
「ほれほれリゼたん」
赤子がゴムボール目掛けてハイハイを始めた…………。
──コロコロ
リゼリアの足下に、小さなゴムボールが転がった。
「?」
それを手に取るが、直ぐに消えてしまい、リゼリアは誰かが呼ぶ声に気が付いた。
「やはり血は争えんかったか……リゼには悪い事をしたのぅ。しかし、これで呪文が解ける。本当の始まりはココからじゃ……エルとフェリーにも、死んでからも苦労を掛けてしまったねぇ……」
遠くでゴムボールを手にした老婆が、静かにリゼリアの背中を見守っていた…………。
「──うっ……」
「ああっ! リゼリア!?」
フユハに揺さぶられ、リゼリアの意識が現世へと戻った。フユハは感激のあまりリゼリアを咄嗟に強く抱き締め、その傍らにはリースの写本がポトリと落ちた。
「ハハ、痛いよフユハ」
「ご、ごめんなさい!」
「あー……こっちこそゴメン。余計な心配掛けちゃったね……」
ハグを解かれたリゼリアがリースの写本を拾い上げ、ペラペラとめくり始めた。
「なんだか、お婆ちゃんに会ったような…………ウッ!!」
突如猛烈な吐き気がリゼリアを襲った!
「大丈夫リゼリア!?」
「ゴメンゴメン、ちょっと何だか変な感じがして……でも、やれる。今、コレを見てそんな気がした」
「?」
傍らに落ちていた杖を拾い上げ、血に塗れ背中に大きく穴の開いたローブの肩の埃を払い、リゼリアは手のひらをじっと眺めた。その手のひらのシワは、いつの間にか大きく伸びており、魔術の素養に溢れている事を強く表していた。




