リゼリアとマニエルとフェルール②
「──ヒッ!?」
入口から慎重に歩を進めたリゼリア。しかし岩陰から伸びる影と目が合い、悲鳴が僅かに漏れた。
「何あれ!? 何あれ!?」
「分かりません!」
「気を付けろ……きっとヤバい奴だ」
フェルールが矢を抜いた。
「影を縫う──!!」
──シュババッ!!
立て続けに矢を放ち、リゼリアに襲い掛かろうと口を開けた影の口に矢が刺さる。矢は壁に突き刺さり、影はその動きを止めて微動だに出来なくなった。
「フェルールさんナイスです!」
「一気に駆けろ! 近付く奴は全て縫い付ける!!」
あまりの数に突破を決めた三人。二人の後ろからフェルールが矢で援護する。影の住み家を抜けた三人は、三叉路へと出た。
「どっちなの……!?」
戸惑うリゼリアの後ろで、フェルールが鼻を鳴らした。そして少し考える素振りを見せ、静かに右を指差した。
「こっちだ」
フェルールが先陣を切る。足音を殺し、静かに狂気に歪む地面を駆けたが、岩陰から重装備に身を包んだ首無しの武者と、ゾンビ顔の侍が現れると、後ろに飛び跳ねて、矢を抜いて弓を構えた。
「アンデッドだ! あらゆる可能性に備えるんだ!」
「どどど、どうしましょう!?」
マニエルがフライパンを両手に握りしめ、プルプルと震えだした。そして親指に当たる不思議な感触、それは小さなボタンだった。
「……?」
マニエルがボタンを押すと、フライパンの底から弧を描いた刃が二つ飛び出し、ミキサーのようにフライパンの上部で勢い良く回り出した。
「ワワッ!?」
驚くマニエルにお構いなしの武者が、得物である折れた刀を振り上げ、マニエルに向かって斬りかかった!
「キャーッ!!」
マニエルが咄嗟に両手を突き出すと、フライパンから飛び出した刃が武者の重装備ごと引き裂き、上半身を激しくミンチにした!
「キャーッ!! キャーッ!!」
突如目の前にミンチになる武者に驚くマニエル。武者は崩れ落ち泡となり消え失せたが、今度は侍が袈裟斬りを仕掛けた!
「行けっ!」
──シュッ!!
フェルールが放った矢が侍の胴を貫いたが、侍の動きが鈍らなかった。
「リゼリア!!」
「イヤーッ!!」
──コインッ
マニエルがフライパンを振り回すと、軽い音がした。フライパンが当たった侍は突如動きが止まり、まるで眠るように倒れ、静かな寝息を立て始めた。
「……あれ?」
不思議そうにゾンビ顔の侍を突くマニエルは、フライパンのボタンをじっと見つめた。
「どうする? 今のうちにミンチに……する?」
「いや、そーっと抜けよう」
「マニエル……アンタ意外に過激なのね……」
リゼリアがそーっとゾンビ侍の隣を通り過ぎる最中、その寝顔はまさにやすらかな顔であった。
(やすらぎ付与25%って……これ?)
その実、25%の確率で睡眠へ誘うマニエルのフライパンは、軽くて堅くてその上回転刃が付いており、武器としてはリーチは短いものの、使い勝手はとても良く、見た目も普通のフライパンであったが為に、マニエルはとても良く気に入った様子であった。
そして、フライパンの取っ手には*家事ナート*と印が彫られてた…………。




