オズワルドとアイシアとメイデアとウエスキン
「局長がもし魔鉱石を手に入れたらどうなさるおつもりですか?」
不意にアイシアが問い掛けた。それにオズワルドは無表情で答えた。
「売る。そして肉を食う」
「単純で良いですね」
「ありがとう」
皮肉を笑い飛ばし、オズワルド達は地下の更なる奥、鍾乳洞のような天井から溶けた石が滴る広間へと到着した。
「すげーな」
「綺麗ですね」
「いや、あれがだ」
オズワルドが指差した先、広間の隅では変動期で様変わりした魔物達の死体の山が連なっていた。
「ヒッ……!」
メイデアが竦み上がる。アイシアが冷たい戦闘態勢を取ると、死体の山の影から一人の大男が現れた。
「む、案外早く来たな。まぁ良い、退屈凌ぎは大歓迎だ……」
それは魔物の返り血を浴び、全身が朱、蒼、翠に染まったウエスキンだった。
「やり手の探索者か? 済まないが急いでるんでね」
オズワルドが歩を進めると、ウエスキンが道を塞ぐように、構えた。
「誰も通すなと言われている。まぁ、言われなくても通すつもりはないがな……」
「あー……アイシア。向こうさんはやる気でいらっしゃるが」
「やはり、あの時のチャイナドレスの回し者かと……」
「答える義理は無い……」
ウエスキンは構えを解かず、寄らば打つと言わんばかりに、拳に力を込めた。
「やっぱり魔鉱石を自由競争にしたのは間違いだと、俺は思うんだよね」
オズワルドが静かに口を開いた。
「……フン! 中央に与するしか脳が無い金魚の糞共が、何をのたうち回る!」
「いつか、こういう奴等が出ると思ってたよ。それ位に魔鉱石はヤバい品だ」
「仕方在りません。魔鉱石をギルド所有にしたら、だれも変動期を止めに行きませんので……変動期の度にギルド員が赴いては命がいくつあっても足りません」
「……けどよ」
「はい、何でしょう?」
「楽しいな」
オズワルドの口角が上がり、意に反してニヤつく顔と、震える拳が全てを物語っていた。構えに応じるオズワルド。そして相対する二人。
「……ハハ、同じ人種に出会えてサイコーだな!!」
「多くは語るまい! 拳で悟れ!!」
オズワルドが走り出した。
ウエスキンは静かに右足を引いた。
ウエスキンと正面からぶつかる刹那、オズワルドの体がウエスキンの視界から消えた。空を切ったウエスキンの拳、オズワルドは回り込んだウエスキンの体、左の脇腹へと捻じ込むように拳を放った!
──ギィィン!!
「──!?」
それはあまりにも見当違いな音。オズワルドの拳は衝撃で痺れ、思わず距離を取った。そしてウエスキンは何事も無かったかのように姿勢を戻す。
「テメェ……!! 何か金属防具かなんか仕込んでやがんな!?」
右手を振り、無事を確認するオズワルド。ウエスキンはニタリと笑い、大きく拳を引いた。
「おいおい、そっから届くのかよ……」
オズワルドが鼻で笑うが、ウエスキンはお構いなしに拳を突き出す。放たれた拳の周りの景色が歪み、オズワルドは危険を察知して咄嗟に飛び跳ねた!
「届くやつかよ!!」
突き出された拳から、衝撃波が放たれた!!
地面を割り、空気を裂いて衝撃波が突き進む! もう少し反応が遅れていれば、直撃は免れなかっただろう。
「局長!」
アイシアが曲刀を身構え駆けた。
「三人纏めて来ても構わん。死ぬ気で来い!!」
その声に、メイデアが杖を構え詠唱を始めた。
「破砕!!」
ウエスキンが地面を蹴り上げた。すると、脚から放たれた衝撃波が、まるで津波のように地面をめくり上げ隆起し、メイデアの方へと襲い掛かった!
「──させません!」
アイシアが襲い掛かる地割れの波を断ち切るように、衝撃を横へと弾いた。
「軟化!」
メイデアの防具性能を下げる呪文が放たれた。如何なる堅固な鎧、小手であろうが、布の如く柔らかくするこの呪文は、対象の肉体を覆い、あらゆる物体を軟化させ弱体化させる効果があった。
「行くぜぇぇ!!」
オズワルドが素早くウエスキンの周りを走り始めた。小回りで勝ると見たオズワルドは、アイシアと協力して死角からの奇襲を企てていた。
「シッ!」
アイシアが真横から斬り込んだ。脚を狙った斬り払いがウエスキンの脛を捉えた!
──ギィィン!!
「堅い!?」
アイシアが引く姿勢を見せる。見上げたウエスキンの顔は無表情で、拳は既に振り下ろされていた。しかし、それより上、ウエスキンの頭上には、上空から肘を突き下ろすオズワルドも見えていた。
「覚悟!!」
アイシアは引かず、曲刀をウエスキンの首へと向けた。しかしそれでもウエスキンの姿勢は変わらず、アイシアの曲刀と、ウエスキンの拳が交差した。
──ギィィン!!
──メギィィ……!!
金属同士がぶつかる音。そして骨が砕け肉が弾ける音がした。
「アイシアー!!!!」
オズワルドの肘がウエスキンの後頭部を捉えた!
──ギィン!!!!
本気で打った肘の一撃は、ウエスキンの後頭部で異な音を鳴らし、その反動はオズワルドの肘を砕き、血が噴き出す程であった!
「グッ……!!」
「快癒!」
アイシアが倒れる様を見たメイデアが慌てて回復呪文を唱えた。傷が回復し、強烈な一撃を受ける直前の状態へと戻ったが、アイシアの意識は途絶え、地面に倒れたままであった。
「コイツ……人間じゃ、ねぇ……!!」
「フン、一応人間だ。最も、半分以上は金属だがな」
曲刀の一撃を受けたウエスキンの首元が僅かにめくれ、中から無機質な金属光沢が顔を出した。ウエスキンは首元を押さえ首を振ると、めくれた箇所は再び隠れ、元の様子へと戻った。
「快癒!」
肘が治ったオズワルドは、素早くアイシアを回収すると、メイデアの後ろへと置いた。ウエスキンはそれを妨害するでもなく、静かに指を鳴らし待ち構えた。
「……メカ野郎め」
「ありがとうよ」
ウエスキンは右手の親指と人差し指で、銃の形を作った。
「……おいおい、ネタバレした途端に何しでかすんだよ」
「防壁!!」
三人を覆うように、呪文による防御壁が現れた。物理、呪文に関わらず、あらゆる攻撃をシャットアウトする優れた呪文だ。
「指電……一・閃!!」
ウエスキンの人差し指が爆発するかのように弾けた!!
「伏せろ!!」
衝撃が防御壁を突き破り、三人の後ろにあった壁へと突き刺さる。壁が崩れ、砂埃が酷く舞った。
「クソボケ野郎……何でもアリかよ…………!」
吹き飛ばされたオズワルドとメイデアは、そのまま意識を失った。




