フランシスとリーゼット
地下四階、ダークゾーンを抜けた玄室には、変動期による魔力溜まりが僅かに出来ていた。
「ようこそお嬢様」
「…………」
魔力溜まりに魔鉱石を仕付けるリーゼットは、ダークゾーンから姿を現したフランシスに向かって不気味な笑顔を見せていた。
「もうお嬢様ではないわ。蘇生代を支度するのに誇りを売った私に残された物はもう何も無いわ。それより、本当に大丈夫なんでしょうね……」
「大丈夫だ。後は仕上げだけだからな」
置いた魔鉱石に魔力が注がれ、内側から蒼白い光が滲みでる。光が強くなり、魔鉱石の輪郭が見えなくなった頃、リーゼットが合図を出した。
「よし、仕上げだ。そいつを抱えるように持ってくれ。落とさないようにな」
「…………」
手が光へと伸びた。ほのかに温かい魔鉱石はフランシスを包むようにその光を放っている。少し眩しく感じたフランシスは目を閉じて次の指示を待つことにした。
「さて……さてさてさてさてさてさてさて!!!!」
リーゼットの企みが、頬に、額に、そして瞳に露わになった! フランシスが少し目を開けるが、魔鉱石から放たれる蒼白い光しか見えなかった。しかし、その僅かな先に、禍禍しい嘲笑を放つ巨悪が居ることに、フランシスは気付けなかった。
リーゼットの詠唱がフランシスの耳に届いたが、魔術の素養教養に乏しいフランシスには、それが何の呪文であるかは知るよしも無かった。
「──転移!!」
リーゼットの転移呪文は、蒼白い光ごと、まるごとフランシスと魔鉱石を転移させ、その場には地面から漏れる静かな魔力溜まりだけが残った。
「来た!! ついに来た!! 嗚呼……迎えに行くのが実に待ち遠しい!!!!」
リーゼットは再び詠唱を始めた。
「転移!」
そしてリーゼットも消えた…………。
──フランシスは不思議な感覚に襲われた。
体を動かそうとしても動かせず、まるで体が固く、石のようになってしまったかと思うくらいに、微動だにしなかったのだ。
足音のような音が聞こえた。水の中で聞く音のように、鈍い響きがフランシスの耳へと届く。
「*石の中へようこそ*」
フランシスは我が耳を疑った! 自我を残しつつ、五感を残しつつ、我が身が石の中に在ろうとはどういう事なのか!? この身に何が起きたのか!? 兎にも角にもフランシスは説明を求めてやまなかった!!
「ああ……動けないだろうねぇ。お前は今、頭が天井辺りに、体は魔鉱石の中。そして腰から下は、壁の中だ。ちょっと滑稽だが、お似合いだよーん♪ ハハハハハ!!」
フランシスは石の中、口も利けない状態でその事実と向き合わなくてはいけない状態にあった。それはマヌケな探索者の末路と同じであり、そしてリーゼットに巧く利用されたマヌケなフランシスの末路である。
「さぁて、転移で重ねた魔鉱石が爆発的に魔力を吸い込むまであと僅か……。そして許容オーバーになる直前に、ありったけの魔力を酷使して、時間を戻そう! そうだ!! 憎きあの時に──!!!!」
大いなる野望がフランシスを飲み込んだ。渦中のフランシスは冷たい石の中、エルやフェリーに銃を向けた事、そしてフユハの事を思い出していた……。




