8-9
リゼリアは一人ダンジョンに潜っていた。自らの弱さを嘆くのを諦め、強者への憧れを昇華させ、鍛錬を積むことにしたのだった。
(皆に迷惑を掛けない強さが欲しい……!!)
突出した強みがあるわけでもなく、術者としての価値すら見いだせない有様ではあったが、それでもリゼリアは諦めることなく、現状から何とか脱出しようと、ひたすらに魔物を狩り続けた。
そして精も根も尽き果てる程に修行に明け暮れ、家に帰ってひたすらに寝る。そんな日々を繰り返していた。
(フランシスもフユハも最近何か様子がおかしいし、もう前みたいには戻れないのかなぁ……)
自分達の弱さをネタに談笑するカフェテリアの風景が懐かしくなるリゼリアは、ベッドの中で四人の未来を案じていた。
そして疲れ果てた肉体と精神は、そんなリゼリアを案じて、速やかに眠りへと誘った。
「おーい」
リゼリアが早朝からダンジョンへと向かおうと、足を向けていた時、遠くからエルの声がした。小走りでリゼリアの方へと向かうエルの姿は、何処か親戚のオジさんの様相を呈しており、荒んだリゼリアの心に少し緩い風が吹いた。
「最近見ねえと思ったら、一人で危ねえマネしやがって……そろそろ変動期に入っから、もう行くんじゃねぇぞ?」
「えっ……またですか?」
「そうだよ。行けばお前みたいなへなちょこは一瞬でゲームオーバーかジエンドだ」
「でも、その分経験値も──」
「ダメだ」
焦るリゼリアの言葉を遮り、エルが強く拒絶を示した。それはリゼリアの身を案じての発言であることはリゼリア自身よく承知をしていたが、それでも皆に追いつきたい、追い越したいと切に願う気持ちが、より一層の焦りを生んでいた。
「それに……今回は何だか嫌な予感と言うか、間違いなくヤバい気配がする。お前を守れる自信もねぇ。だから、家で大人しく漫画でも読んでろ」
「……分かりました」
リゼリアが仕方なく家へと踵を返す。エルはその背中を見送り、安堵のため息をついた。次の変動期まで日は無い。支度している時間も無く、嫌な予感がエルの心にもやもやと、蠢き響めいた。
「あと一人……ったく、アイツは死んでからも厄介事を残しやがって……!」
フランシスの家へと向かうエル。しかしフランシスの家には人気が無く、郵便受けには、酒場のバイト募集や武具屋のセールのチラシ等が溜まっていた。
(暫く帰ってねぇのか……宿屋に泊まる金もあるようには見えなかったし……他の三人の家には行ってねぇ。となると…………)
──リーゼットの影がエルの脳裏を掠めた瞬間、それは起きた。
地下深くから僅かに感じ取れる魔力の流れ。その流れが大きく変化した瞬間を、エルは察知した。
「来やがった……!!」
地下の魔力の流れが大きく変化し、魔物達にも影響を及ぼす。目は血走り、更なる力、更なる種族の召喚が行われ、ダンジョンは瞬く間に豹変した!!
そして、建物の隙間から、見覚えのある帽子が見えた。
「あ、居たぞ!!」
エルがすかさず追うが、その姿は直ぐに見失ってしまった。
「相変わらずすばしっこい奴だ……! 畜生、ダンジョンの、前で待ち構えてれば良かったぜ! 完全に失敗した……!!」
そしてエルはフェリーの家へと駆けだした。
「うぉい! 起きろ!!」
妖精族の体には広すぎる家へと乗り込み、小さなベッドで寝ているフェリーをデコピンで叩き起こすエル。
──ビシッ!
「あだっ!!」
「起きろ!!」
「ふぇ? 何だい急に……」
「変動期が来やがった!!」
「え? だってあれから二日しか経ってないよ? ハハッ、賭けは皆外れだねぇ……」
「アホ抜かせ!! アイツの一人勝ちだ!! アイツワザと四日後とか言いやがったが、多分俺達の会話を盗み聞きしてやがったんだ!! チビが恐らくダンジョンへと行っちまった!! アイツに何か吹き込まれたに違いねぇ!! 手を貸せ! 俺一人じゃあ手に負えねぇ!!」
「えーっ、オイラあの娘は別に興味無いなぁ……」
「おい、寝るな寝るな!! チビが居なくなったと分かれば他の三人も小せえ命を省みずに行っちまうぞ!? そうすりゃ、ぷに子ちゃんもフユハも死んじまう!!」
──ガバッ!!
「オイラそれは困る」
二人は慌てて支度を済ませ、ダンジョンへと駆けだした。
ダンジョンから立ち込める気配は瘴気に満ちており、一筋縄ではいかないことを、いともたやすく二人に察知させていた…………。




