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「わたしよ?」
フユハの後ろから不意に現れたリーゼットは、和やかに手を振りながら、隣のテーブルへと緩く腰を掛けた。
「……この前の奇抜なチャイナ姉ちゃん?」
「局長と一緒に店に来た人だね」
チャイナドレスのスリットから一冊の黒い表紙の本を取り出すリーゼット。その本を見た二人の表情が瞬く間に険しくなる。
「それはリースの絶本!! お前っ! それを何処で──!?」
エルが手を伸ばし、本を奪い取ろうとしたが、僅かにリーゼットの手が素早く、本はスリットの中へとしまい込まれ消え去った。
「妹が随分と世話になったみたいだね。姉として礼を言うよ」
「あ、姉だと!?」
エルとフェリーが酷く取り乱した。姉の存在は認知していたが、その若さを残した容姿からは、目の前の女性が享年80超えのリースの姉だとは信じがたかったのだ。
「リーゼットって呼んで?」
「姉でも弟でも何でも良い!! そいつを何処で手に入れた!! 誰も知らぬ場所に隠してた筈だ!!」
「チッ、チッ」
人差し指を立て、全てお見通しかの様に振る舞う姿に、エルの堪忍袋の緒が切れた。素早い詠唱、先手必勝の真空波を放つ!
「フフ、慌てない慌てない」
指先一つを払い真空波を掻き消すリーゼット。僅かに指先から血が滲むが、それを口に含み不適な笑みを漏らした。
「四日後、変動期が訪れる。そこで全てを終わらせよう」
カフェテリアにリーゼットの高笑いが響き、そして静かに、まるで蜃気楼の様に、リーゼットはその姿を消した。
「おいおい、ふざけるなよ……アレには洒落にならねぇような禁呪が書いてあるんだぞ……!!」
「……オイラ初耳なんだけど、いつの間に書いたの? そんな物……」
「ああ、俺とリースと一部の術者しか知らねぇブツだ。俺は書き残すことに反対したんだが、いつの世も少なからず禁呪に溺れる者が居る。その戒めとしてリースが見聞きした物を書き残したんだ!」
「あ、あの……」
これまで口をつぐんでいたフユハが、怖ず怖ずと手を上げ、声を掛けた。
「やはり……消失した人を蘇らせる呪文が──」
「あるが絶対に使わせねぇ。使えば俺はお前を殺すしかねぇ……!」
「──!!」
声を押し殺すように答えたエルの気迫迫る表情は、実に真剣な面持ちであり、それが冗談で無いことは二人の目から見ても明らかであった。
そしてフユハは、とんでもない人達と関わってしまったのだと、痛感した。




