8-7
あの一件以来、四人でダンジョンへ潜ることは無く、リゼリアとフユハは塞ぎ込み、フランシスとマニエルはそれぞれ単独での活動を行っていた。
カフェテリアのいつもの席は寂しそうに風に吹かれ、落ち葉だけがカサカサと静かな賑わいを見せていた。
「最近、何だか皆を見かけないねぇ……」
「……んだな」
暇潰しに出掛けたエルとフェリーが、通り掛かったカフェテリアの白いテーブルと椅子を眺めてポツリと呟いた。
「まぁ……丁度良いのかもね」
「……んだな」
エルが道端の小石を蹴飛ばした。小石はカッ、カッ、と二三跳ね、落ち葉の陰に隠れて消えた。
「……三日後に2000G」
「フフン、オイラは五日後に3000Gだね」
「フフッ」
「ハハッ」
二人は顔を見合わせ、ニヤリとした。どんな時でも賭け事精神を忘れない二人は、根っからの狂人であった。
「どれ、それじゃあそろそろ店の支度に掛かるか……っと」
二人が店の方向へと足を向けた。しかし、その足は直ぐに止まった。
「フ、フユハ……か?」
髪は激しく乱れ、服は酷いシワだらけ、そして何よりその顔は、柳の下に現れる霊に近しいものがある程に荒みきっていた。
「…………コレについてお話を聞かせて下さい」
フユハの手にはリースの写本が握られていた。
「なんか訳ありっぽいな……おい、一っ飛びで店の看板を休みにしといてくれ」
「あいよ」
フェリーは素早い飛行術で瞬く間に空へと消えた。エルがカフェテリアの椅子に座ると、ウェイトレスを呼び、水とサンドイッチを二人分頼んだ。
「ま、座って話そうや」
「…………はい」
フユハが座る。そして二人の間に沈黙が流れた。
暫し黙り込んだフユハは、やがて静かに口を開いた。
「この本を書いた方は、何人位の方に蘇生を施したのですか?」
荒んだ心から放たれた質問に、エルは何の事かその裏を探るのを止め、単純にその答えだけを答える事にした。
「さあね。数え切れない位なのは間違いないな」
「…………それで……その……成功率はどの位でしたか?」
「さあね。でも100%じゃないのは間違いないな」
「……………………失敗した後は…………」
「たまーに落ち込んでたな。それでも酒飲んで次の日には忘れてた。この街では死んだ奴の自己責任。蘇生はちょっとした保険だよ。保険」
「だ、誰か……誰かこの人の近しい方の蘇生は…………」
「…………そう言えば、俺も蘇生された事があるなぁ」
「あの……その…………」
「あー、言わなくていい。つまり、やらかしたんだな?」
エルが痺れを切らすと、フユハとビクリと背筋を動かした。また沈黙が訪れ、その間にフェリーが戻ってきた。オレンジジュースを注文すると、フユハの近く、テーブルに腰掛け、フユハをじっと見守った。
「わ、私は……フランシスの親を……ウウッ!!」
フユハは顔を強く覆い隠し、泣き出した。エルとフェリーは顔を見合わせ、静かにため息をついた。
「その様子だと、消失させたんだな? いやぁ、まぁ、初めての失敗が知り合いだと、そりゃあそうもなるわなぁ……」
「でも、オイラはフユハがそこまでの術者になった事に、嬉しくも思うよ?」
「我、蜜柑飲料欲……」
テーブルの下からひょっこりと顔を出した崙崙に、フェリーのオレンジジュースを手渡し、静かに追い払うエル。崙崙が去ると、静かにリースの写本を開いた。
「……諦めろ。消失したら二度と戻らねぇ」
「ウウッ、でも、でも、手が無い訳じゃ無いって……!」
「……無い。諦めろ」
エルは静かに、そして冷たく突き放した。フェリーは少し眉間にしわを寄せ、フユハの頭に手を置いた。
「……禁呪」
「誰からそれを聞いた!!!!」
声を荒げたエル、それに驚くフユハ。そしてフェリーは静かにオレンジジュースを頼み直した。




