8-3
フユハは骨を並べ、なるべく本来の形に近い骨格を形取った。
しかし、その殆どが折れ砕け、何の骨であるかすらあやふやであった。
「お父様……お母様……」
フランシスが眼を閉じて強く祈りを捧げた。フユハは深く息を吸い込み、暫し体内に留めた。
そして息をゆっくりと吐き出すと、フユハは手袋をはめて蘇生の祈りを始めた──
──詠唱の最中、砕けた骨が光始め、その輝きにフランシスは期待の眼差しを送り続ける。強く手を合わせ、かつての思い出に胸が高鳴った。
光が白く、全てを包み込み、光と光の間から、温かい肌が見え始める。呼びかけに応じた魂が現世へと舞い戻ったのだ。
「ああ……! お母様だ……!!」
幼き頃の僅かな思い出が、それば母であることを告げた。
光は部屋中に溢れ、全てが白に包まれた。
「……おっと、まさかあの状態から成功するなんて……。やはりあの娘、本物だね。……でもね、成功されちゃあ困るんだよ──!」
窓から光が溢れるフユハの家の傍らに、不気味に微笑むリーゼットが居た。
「腐堕!」
リーゼットの指先から、エクトプラズムが飛び出し、光の中へと消えた。そして蘇生した肉体の中へと入ると、一瞬にして魂を追い出し、肉体を瞬く間に腐敗させ、生者としての機能を停止させ、すえた悪臭を放ち始めた!!
光が消え、肉が泡立ち、やがて消えた……。
骨すらも残らず、全てが無と化した。
「──っ!?」
「ああっ!!」
フランシスの笑顔は一瞬にして絶望へと切り替わり、その瞳からも光が消え失せた。
「なんで…………」
フユハは理解が追い付かず、隣で嘆き苦しむフランシスに合わせる顔が無いままに立ち尽くした。
「ウワァァァァッッー!!」
フランシスの絶叫が部屋に置かれたあらゆる物の深層へと染み、それはフユハも例外では無かった。
絶叫は止むこと無く、思考だけが駆け巡る。
「どうして!? どうして消えてしまったの!? もう二度と会えないの!?」
「!」
ようやく……フユハは気が付いた。
(あ……失敗時の事を話してなかったです…………)
そう。蘇生は絶対では無いことはフランシスも承知のこと。しかし、損傷の酷い死体は、その失敗により肝心の遺体が消失し、二度と蘇生の機会が訪れることが無い事を事前に説明せずに、フユハは蘇生に挑んでしまったのだ!
「消えてしまうなんて聞いてないわよ!!」
フランシスの悲しみは色を変えて怒りに変わり、瞬く間に腐り落ちて憎しみへと変化した──!
「え……あ……。フラ──」
フユハの言葉は言葉にならず、そしてフランシスはフユハの言葉を聞く耳を捨てた。
「許さない……!! こんなことになるなんて、分かっていれば頼まなかったのに!!!!」
その手には既に蒼のサーブルが握られていた。速さにおいて圧倒的に上回るフランシスから逃げ果せる事は不可能に近い。しかし、一瞬でも逃走の可能性を脳裏に過らせたフユハに、己の過ちを認めるだけの余力は残されていなかった。
「お母様はもう二度と戻らない!!」
──ズンッ!!
「グッ──!!」
フユハの肩に深々と刺さるサーブル。鮮血がサーブルを伝わり、雫がポタリと落ちた。まるで痛め付けるかのようにサーブルを捻るフランシス。フユハの顔に苦悶の表情が現れた。
「抜いたところで治癒するんでしょ? だったらこのまま抜かず…………に徹底的に痛め付けてあげる!!!!」
「グ……くぅぅ……!!」
激しく左右にサーブルを揺らし、引いては押し、フユハに詠唱の隙を与えぬほどに絶え間なく激痛を流し続けるが、それに耐える以外に為す術が無いフユハは、やがて痛みに耐えきれなくなり、ついに謝罪の言葉を口にした。
「ご、ごめ……なさい……許してくだ──」
「はあ!?」
──ザシュッ!
「アアアァ!!!!」
思い切り横へカットされたサーブルが、鮮血の雫を払いながらしなりを見せた。血が壁に弾かれ、肩からは止め処なく血が流れ続けた。
「詠唱したらその口も切ってやる……!!」
フランシスの怒りは、全てを呑み込もうとしていた。




