8-2
夜、フユハは自宅にてリーゼットから貰った手記を眺めていた。
「寺院かぁ」
そこにはシスターリースがかつて探索者の治癒に当たった寺院について書かれていた。
”寺院に備え付けの補助設備が無くても蘇生は出来るが、魔力の消耗を考えればあるに越したことは無い“
“ダンジョン内にある死体の探索。これには強い味方が不可欠だ。ミイラ取りがミイラになる確率は、そう低くないのだから”
──コン、コン
フユハの家の扉が音を立てた。フユハが扉を開けると、そこには神妙な面持ちのフランシスが居た。
「ゴメン、こんな遅くに」
「どうしましたか?」
「この人を……治して欲しいんだけど…………」
フランシスは小さな箱を抱えていた。
「…………中へどうぞ」
フユハはそれが何なのか、直ぐに想像がついた。
部屋に案内されたフランシスは、そっと箱を机の上に置いた。静かにそれを開けると、中には白い砕けた枝のような物が沢山敷き詰められていた。
「……ゴメン。見ちゃったんだ」
「…………」
フユハは、先日の自宅前の蛇の一件の事を思い出した。その事から察するに、それはやはり骨で間違いない。そうフユハは考えた。
「こちらは……?」
「私の父……かな?」
「『かな?』とは?」
「もしかしたら母かもしれない。墓石には誰と書かれてなかったから……」
「そう……ですか」
それ以降、フユハは暫し沈黙した。
次の言葉を掛けるまで、フユハはどう断るべきか考えを巡らせてた。
リスクを説明した後に素直に断るか。法外な値段を吹っ掛けるべきか。それとも『出来ない』と誤魔化すか……フユハは揺れに揺れた。自らがその高みへと登った暁に、早くもこのような話が舞い降りるとは思ってもみなかったのだ。やはり軽率な行動はすべきでは無かったと、今更ながらに後悔をした。
「これ、お金……」
フランシスが妙に垂れ下がったポケットから、大量の金貨を取り出した。その額なんと5000G。フランシスの全財産である。
「えっ……」
「分かってる。蘇生ってお金掛かるんでしょ? 今までの貯筋全部使ってよ。ね?」
フユハの視線が左右に揺れ動き、焦点が定まらなくなる。先手を打つようなお金の登場は、フユハの思考を酷く乱した。
先日の蛇、あれが5000Gだと思うと、些か悪い話ではい。お金に目が眩むような身分ではなかったが、無いに越したことは無い。そんな思考が頭を掠めた──それが既に驕りであることは、まだ知るよしも無い。
「お願い、出来ないかな?」
フランシスの懇願する顔を、フユハは直視出来なかった。それは最後の抵抗であり、拒否の表れでもあるが、それでもフランシスはフユハに願い続けた。
「お願い。フユハが最後の望みなの……お願い!」
フユハは拳を握り締め、眼を強く閉じて決断した。
「確率は……二割以下……それでも良いなら…………」
「──!」
フランシスの顔が希望の光で満ち満ちる。フユハは覚悟を決めきれぬまま、蘇生を引き受けてしまった。それは術者としての未熟さ、そして圧倒的な経験不足が招いた事。何より、シスターリース、そしてリーゼットの教えに反する物である事に、フユハはまだ気付いていなかった。
そして何より、大事なことを一つ伝え忘れていた…………




