7-4
マニエルはスカートのポケットから黄色いボールを取り出し、サーブの構えを見せた。
「それっ!」
──ポーン!
ラケットでボールをサーブすると、ボールは敵の方向へ向かうつもりが、とんでもない明後日の方向へと飛んでいった。
「あれ?」
ポケットからもう一つボールを取り出し、再びサーブの構えを見せる。
「それっ!!」
──ポーン!
ボールは一昨日の方向へと飛んでいった。
「…………ショック」
最初はボールが飛ぶ様子を見ていた魔物達も、これ幸いと前後からマニエルへと襲い掛かった!
「キキーッ!!」
「シュガッ!」
「嫌ーっ!!」
──グチャッ!!
ラケットを横にし、側面で思い切りスイングするマニエル。ラケットは吸血コウモリの胴を捉え、そのまま振り抜き、吸血コウモリは明後日の方向へと飛んでいった。
後ろからブッシュワーカーがマニエルの腰を斬り付けたが、テニスウェアの【初撃ダメージ無効化】により、ブッシュワーカーの一撃目はマニエルに傷一つ付かなかった。
「こっちも嫌ーっ!!」
──ボゴォッ!!
ブッシュワーカーの顔面にテニスラケットがめり込み、ブッシュワーカーの前歯が吹き飛んだ。鼻が折れ、ブッシュワーカーは前のめりに気絶した。
「うわ、エグ……」
遠くで様子を窺っていたフェリーが、あまりにもショッキングな光景に我が目を覆った。
そしてそのままラケットで物理三昧を見せたマニエルは、何処かへと消えたボールを探しだし、地下三階へ向けて進み始めた。
「あの子はあの子で何か変な方向に強くなってる気がするなぁ……」
後ろをこっそりついていくフェリー。スカートがヒラヒラと揺れる度にニヤニヤと微笑むスケベ魂は忘れずに、しっかりとその目に焼き付けた。
「嫌ーっ!!」
今度はゾンビの頭が明後日の方向へと飛んでいった。
小さな飛行生物は、まるでハエ叩きの様にラケットを振り下ろし、大きな魔物にはラケットの側面でフルスイング。見た目はふざけてはいるが、その実攻守共に地下の上層においては抜きん出た性能を誇っていた。
地下三階。マニエルにとって初めての場所。それも一人きりである。後ろにフェリーが控えてはいるが、マニエルはそれを知らない。
勢いで来たは良いものの、何が飛び出すか分からない恐怖がじわりじわりとマニエルの平常心を曇らせていった。
「……やだぁ。何も出て来ないのが逆に怖い…………」
階段付近でさっさと腕試しして帰るつもりが、魔物に遭遇せず、気が付いたらそれなりに進んでいたマニエル。
通路の行き止まりへと差し掛かると、そこには死肉を齧るウサギの群れが居た──!!
──クチャクチャクチャ
──ボリボリボリ
前歯で肉を削ぎ、骨を削る音が聞こえるほどに、マニエルの動きが止まった。
「キシャーッ!!」
死肉より美味しい新鮮な肉の登場に、ウサギ達は群れで襲い掛かってきた!
「嫌ーっ!!」
──ボフッ!
ラケットがウサギを丸ごと捉え、弾かれたウサギが別のウサギへ当たり、そのまま地面へと落ちる。
──ガブッ!
ウサギがマニエルの脚に齧り付いた!
「痛くない! ──やっぱり痛い!!」
ウサギが素早く何度も齧る。初撃は無効化するが追撃はそのままダメージとなる! マニエルの脚からは血が流れだし、素早くラケットを振り回すが、数の多さに中々上手く立ち回れない。
「危ないけど、後少しだけ様子を見よう……」
フェリーはいつでも助太刀出来るよう、静かに近くへと忍び寄る。小刀を抜き、そっと奇襲の構えで待機。準備は万端だ。
「回復!」
己を回復しながら、ラケットを振り回すマニエル。
ウサギ達は同胞の前歯が折れ、地に倒れようとも、果敢に攻め続ける。
そして──
「ハァ……ハァ………!!」
血塗れの脚と腕は呪文で回復した後も残り続け、戦闘の激しさを物語っていた。
「あー……疲れた…………」
ラケットを杖代わりに、マニエルはトボトボと帰り道を進む。
帰り道で二回ほど戦闘をしたが、ラケットの一撃は全ての敵を明後日か一昨日の方向へと吹き飛ばした。
「コレ、中々良かったです……」
マニエルは血に塗れた格好で武具屋のオヤジに手応えを報告した。
そして不足分の800Gを請求された。




