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「あの方を治す呪文を今し方会得致しました。この本に書かれていた呪文がようやく理解出来ましたので、きっと治せると思います」
その言葉にフェルールは耳を疑った。
「そんなバカな!?」
「この本を書いた方は、誰でもその呪文が使えるように、優しい言葉で本質が書かれておりました。故に、駆け出しの私でも理解出来たのです」
にわかに信じがたい話ではあったが、三人は一先ずフユハの言うことを信じ、地下四階へ降りてすぐにある脱出口へと向かった。
「ここから転移する」
狭い壁の凹みに、小さな転移用の魔法陣が描かれていた。マグネがそれに手を触れると、一瞬でその姿が消えた。
続けてカルシとフェルールが触れ、フユハもそれに習い魔法陣へと手を置いた。すると目の前が一瞬で切り替わり、上から日の光がパッと差し込んできた。
上を見上げると円形の空が広がっており、今居る場所が井戸の底であることに気が付いた。
「おーい! 下ろしてくれー!!」
フェルールが声を掛けると、上からロープが下ろされ、四人はそれをよじ登り、井戸から脱出する事が出来た。
「お疲れさまです」
見張り番は四人が登り切るとロープを回収し、見張りへと戻った。三人は高鳴る期待を胸に、一人は緊張の面持ちでギルドへと向かう──
ギルドの古びたガタつく椅子に、目と片腕を失った青年、セレンが座っている。
フユハは静かに右手をセレンの頭へと乗せた。
(失った部位は月日が経つと復活が難しくなり、蘇生の如きリスクを胎み始める…………)
此処に来るまでの間、フユハの脳裏にリーゼットの言葉が、そしてリースの手記にまじまじと書かれていた他者への治癒、治療、蘇生の難しさと現実。
(蘇生か……治癒か…………)
そしてフユハは…………。
──数日後
「それでは、お世話になりました」
フユハはマグネとカルシに手を振り、村を後にした。帰りもフェルールが馬車に同伴しており、街までフユハを送り届けるのである。
「すまない。何から何まで世話になった」
「いえいえ、此方こそ良い経験と勉強になりました。なにより、あの方を完治させられなかったのは、私の実力不足でしたから……また力を付けて出直してきます」
見送りに来た青年は笑顔でフユハへと手を振った。白杖は無くなったが、片腕は失ったまま、袖がフラフラと風に揺れていた。
二人はお互いに頭を下げ、二人を乗せた馬車は村へと向かって進み始める。
「キミにはなんとお礼を申したら良いか……今度は此方が力を貸そう。何かあったら呼んでくれ」
「ありがとうございます」
フユハは馬車から見える森の暗さに瞳を閉じ、自らの選択が淀みなく清らかで間違いの無い物であったと、心の中で自分に言い聞かせた。




