4-5
ダンジョンから脱出し、いつものカフェテリアのテーブルを囲むように、六人が座る。
「ぷにぷにのキミは俺の隣な」
「ぷ、ぷにぷ……?」
「良いから座んなさい」
フランシスに言われるがまま、エルの隣に座るマニエル。二人の距離は近く、エルが手を回せば腰にも伸びそうな程である。
「酒はあるかい?」
「いえ、全てノンアルコールです」
「チッ……じゃあ水でいいよ」
「まあまあ、たまにはいいじゃないか」
酒が無かったことに苛立つエルをフェリーが宥め、各々の飲み物が来たところで話を切り出したのはフユハだった。
「あの……これを書いた人と言うのは…………」
「ああ……昔この街で寺院をやっていた金にがめついシスターだ。俺達もタダで手伝わされたからな。腹いせに少し落書きを加えてやった」
エルとフェリーがニヤリと笑った。
「そのシスターという方はどんな方だったのですか!?」
フユハが珍しく自分からグイグイと話を進める。フランシスは特に興味も無く、マニエルはとにかくいつ襲われるか脅えており、リゼリアは面持ちならぬ状況であった。
「コイツのばあちゃんだ」
エルがリゼリアを指さし、リゼリアは咄嗟に目を逸らしてしまった。
「え?」
「?」
「えっ!?」
「ご、ゴメン……隠してたつもりは無くて…………その……」
リゼリアはバツが悪そうに、ジュースを一口飲んで目を伏せた。
「なんだ、言ってなかったのか。まあ良い。そんな訳だ。気にするな。ハッハッハ!」
「……うわぁ、適当」
「ウッセ! おおらかと言え!」
「アタッ!」
エルがフェリーにデコピンをお見舞いした。
「シスターリースは、当時荒れ果てていた寺院を一人で再生させたとして、後に寺院の女神とまで称されていた。シスターリース含め、俺等四人はこの街でトップクラスの冒険者として、ダンジョンの最下層を探索して暮らしていた。そして俺達のリーダーと結婚してやりまくって出来た子ども達の子孫が、コレ」
再び指差されたリゼリアが、軽やかに目を逸らした。
「その寺院は今何処にあるのですか?」
フユハの疑問に、エルとフェリーは沈黙した。そして口篭もるようにリゼリアを見ながら、静かに語り始めた。
「その……残念ながらシスターリースも高齢になり、その時に跡継ぎの話が出たんだがな、息子達は父親譲りの戦士になってどっか行っちまったし、残された娘も…………魔力の素質が微塵も無かったんだ」
「まあ、つまり全員脳筋の戦士だったんだよ。娘もこんな小さい頃から棒きれを握るのが好きだったからねぇ」
「てな訳で跡継ぎ不在で寺院は、老朽化もあって取り壊しが決定。今は自己責任で何とかしてくれー、って言う訳よ」
エルが指差した先、何も無い空き地は、手入れもされず名も無き雑草が所狭しと生い茂っていた。
「ところでさ、リゼリアはこの胡散臭い二人について知ってるの? 二人はリゼリアの事よく知ってるようだけどさ……」
それまで興味なさそうに紅茶をおかわりしていたフランシスが、ポツリと口を開いた。
「……小さい頃にはよく会ってたと思うけど、大きくなってからこうしてちゃんと会うのは初めてかも……」
「ププッ……エルったら、リースに「孫娘を頼む」って言われたのに、恥ずかしがってちっとも会おうとしないんだもん。そのくせこっそり物陰から覗いてるんだから、まるっきりストーカーだよね~。ま、最近は忙しくて顔も見てなかったから、いつの間にか四人で潜ってたのは知らなかったんだよね」
「だーってろ!」
エルのこぶしがフェリーを追う。空に逃げたフェリーは、リゼリアの頭の上へと降りた。
「チッ! 何か調子狂うな……とにかくよ、暫くダンジョンは変動期だ。あの手の奴がごまんと居るからよ。入るんじゃねーぞ」
「それはどの位の期間?」
「そうだな。早くて三日……長くて数年だろうな」
「下層まで潜って魔脈の流れを調べれば、もう少し正確な期間が分かるんだけどね」
「調査となると、俺達二人だけじゃあ重荷だな」
「なによ、ココに白魔道士が山ほど居るじゃないの!」
「論外が三人いるがな」
──ズブッ!
「──ってぇぇ!!」
顔に怒りマークを付けたフランシスが、マニエルの腰へと手が伸びたエルの手へ、ダーツを突き刺した。
「おい! 血が出てるじゃねーか!!」
「ホント、胡散臭いスケベ野郎ね!」
「直ぐにお手当を!」
フユハがエルの手を取り、快癒を唱えた。
「なんつーかさ。懐かしい暖かさだな……」
エルは当てられた手をまじまじと見つめ、ポツリと呟いた。




