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サマサ達が命辛々逃げ果せた頃、リゼリア達は地下一階で巨大なカニのような甲殻類に襲われていた。鉄そのもので出来た鋏を鳴らし、四人を威嚇する甲殻類。そのギロチンのような恐ろしさに、リゼリアは足が竦み、マニエルは遺書を認めていた。
「障壁!」
フユハが憶えたての防御呪文を唱え、攻撃に備える。攻撃の軽減率は僅かだが、無いよりはマシだろう。
「ちょっと! 何なのよ一体!!」
「私が分かるわけないでしょーが!!」
「お母さんお父さん先立つ不孝を──」
極めて硬そうな赤黒い甲殻に、物理攻撃によるダメージを見込めないと見たリゼリアは、いつでも逃走出来るように、通路を確認する。幸い、全力で走れば三分程で地上に辿り着ける。リゼリアは三人に目配せをした。
「──!!」
その刹那、巨大な鋏がリゼリアへと襲い掛かった!
リゼリアは樫の杖で鋏を払おうとしたが、圧倒的力の差で弾かれ、樫の杖を鋏で挟まれ、そのままメキメキとへし折られてしまった。
「ああ! お気に入りの杖が!!」
「ヤバいわ! 逃げるわよ!!」
フランシスの掛け声で皆が一斉に駆け出した!
逃げ出した四人を追うように、カニも横歩きで走り始めた!
カニは想像を超えた速さで走り、あっと言う間にリゼリアに追い着いてしまった!!
それを見たリゼリアは、直ぐに立ち止まり、カニの足止めに入る!
「──リゼリア!?」
「先行ってて!! 直ぐに行くから!!」
「アホ!! 間違いなく死ぬわよ!?」
「いいから早く行って!!」
「アホ!! ボケー!! 死んだら許さないわよー!!」
三人はリゼリアに後を任せ先に地上を目指し逃げ出した。
「地上に戻ったら誰か呼んでくるわよ! いいわね!?」
「はい!」
「うん!」
幸い、他の敵に出くわすこと無く地上へ生還した三人は、直ぐに救助を求め散開した。
マニエルはギルドへと向かい、そして救助を断られた。理由は二つ。一つは所持金の不足。そしてもう一つは──
「──変動期?」
「ああ、たまに地下迷宮で起こる魔脈の変動さ。上層にも強敵が現れたり、見たことの無い魔物が溢れ出す危険な状態だ。行くこと自体がリスキーなのに人の命まで助ける奴はいないだろう」
「そ、そんな…………!?」
マニエルはギルドの受付で腰が抜けて泣き出してしまった。
フユハはリーゼットの泊まる宿へと向かった。
「あの……! チャイナドレスを着た女性の方は居りますか!?」
「ああ……それなら出掛けちまってるよ? ダンジョンに行くってチェックアウトしたよ」
「──!!」
行き違いになってしまったフユハ。今ならまだ近くでリーゼットを見つけられると、再びダンジョンへと向かった。もし見つけられなくても、リゼリアを助けに行かなくては…………その想いで全力で駆け続けた。
「ちょっとそこの胡散臭そうなオジサンと変な妖精!!」
フランシスは酒場の近くで偶然見つけた二人組に声を掛けていた。
「お願い助けて!! ダンジョンに見たことの無い魔物が居て、友達が私達を助けるために一人、殿を買って出たの!!」
二人組は顔を見合わせ、長身で長髪、そして何より胡散臭そうなエルフの男は、膝に手を着き荒々しく息をするフランシスの肩をそっと叩いた。
「丁度変動期に当たっちまったのは不幸だったな。だが、あそこは自己責任の世界だ…………じゃあな」
「──役立たず!!」
「……ひでぇ言われようだな」
「ゴメンよ。今は何が出るか分からない程に情報が真っ白で、誰もが他人に探りを入れている状態なんだ」
「地下に入って直ぐ傍なの!! お願い!!」
それまで強気だったフランシスの顔に、懇願の色が見えた。エルフの男にしがみつき、なり振り構わず助けを求める。
「…………ダメだ。さあ、離してくれ」
エルフの男がフランシスの手をそっと払った。フランシスは二人の背中に向かって酷く泣き崩れた。二人の足音が遠く離れていく…………。
「ゴメン……!! リゼリアッ……ゴメン…………!!」
フランシスの嗚咽が酒場街の入口に響いた。
「──おい、今なんて言った!!」
至近距離で大声を出され、驚いたフランシスが顔を上げると、そこには恐ろしい程に真面目な目付きをした、先程の二人組が居た。その顔に胡散臭さは微塵も感じられない。
「……リゼリア…………」
「──!! あれか!? 白魔道士で身長165くらいで、翠色の眼で茶髪で肩より僅かに下まで伸びた髪の奴か!?」
「!?」
フランシスは涙ながらに無言で強く頷いた。
「エル!! 何ボヤッとしてるんだい!!」
「急げ!! 案内しろ!!」
二人組に手を引かれ、走り出すフランシス。エルフの男はフランシスより足が速く、フランシスは直ぐに置いてけぼりを喰らいそうになった。
「──遅い!!」
エルフの男はフランシスを抱えた。
「クソ軽いなお前!」
小柄で細身のフランシスを抱え、変わらぬ速度でエルフの男はダンジョンへと向かった!




