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四章の始まりじゃー!
その日、黒魔道士であるサマサは、地下三階で僅かな異変を察知した。
「──待って……何か感じない?」
呼び止めた先の戦士と盗賊は、振り返るも首を傾げ少し笑った。魔力に乏しい前衛職に、しかも上層の微弱な魔脈の微かな変化を感じ取ることは到底出来なかったのだった。
「気のせいじゃないか?」
「先に進もうぜ」
「…………ダメ。さっきより強くなってる。急いで引き返すわよ」
サマサが一度決めたら意見を曲げない事を、二人は重々承知しているので、仕方なくサマサの言う通り引き返すことにした。
「まだ今日の酒代も稼いでないんだけどなぁ……」
「何か言ったかしら?」
「なーにーもー」
盗賊が頭の後ろで手を組み、やる気の無い返事で振り返ると、ドンと前を歩く戦士の背中にぶつかった。
「──った! 兜にモロぶつけたじゃねぇかよ!」
「サマサ、ロー、急げ。明日の酒代に殺されるぞ」
最前を歩いていた戦士、チャックが磨きに磨き上げられたロングソードを素早く抜いて身構えた。その表情は固く、直ぐに二人はのっぴきならぬ状態であることを察した。
「何か居るわ!」
「ああ……嗅いだことの無い臭いだ」
サマサは魔力で、盗賊であるローは嗅覚で、そして戦士であるチャックは張り詰める空気でそれを感じていた。
闇に光る両の眼、鋭く見えた牙の後に、深い翠色の胴体が現れ、岩をも掴むかぎ爪が、三人の前に行く手を阻む形で姿を現した──!!
「ドッ! ドラゴンじゃねーか!!」
「何で地下三階にこんなのが!?」
前衛二人が慌て驚くも、サマサは冷静にその瞳から目を逸らさずに思考を巡らせた。
『力及ばず死すは二流。力使わず死すは三流。どんな形であれ、生き延びた者だけが一流』
ギルドの受付に掲げられたその標語を、サマサは今一度心に深く刻み、目の前の脅威に立ち向かうことを決めた。
「──散開!!」
サマサの指示で二人は距離を取った。ドラゴンの吐くブレスを複数人で受けないようにするためである。
「昏睡!」
サマサが黒魔法を唱えた。ドラゴンの脳内に睡眠を促す波動を流し込み、意識を遠ざけようと試みたのだ!
「今だ!!」
ドラゴンの瞼が一瞬緩むのを、チャックは見逃さなかった。大きな跳躍から繰り出された斬擊は、ドラゴンの右眼を捉え、顔から血飛沫を撒き散らしながら、ドラゴンはその場に倒れた。
「……やった……んだよな……?」
「……手応えはあった」
「何ボサッとしてるの!? 昏睡が効いているだけよ! 今のウチに逃げるわよ!!」
「おいおい、下層の魔物は、魔力の薄い上層に上がって来られないんじゃなかったのか?」
「……どうやら魔脈の変動があったみたいだわ。ワタクシも詳しくは知らないけれど、ダンジョンでは魔脈の変動で魔物の生態系が大きく変わるそうよ」
「ったく……ようやく俺達も探索者として名を上げてきたってのによ…………」
「とにかく今日は帰るわよ。何が出てもおかしくない状況で気を抜くほど、ワタクシ達腐ってないわ」
サマサはいち早くダンジョンから引き返し、地上へと生還した。すれ違うように、ダンジョンへと向かうチャイナドレスの女と岩のように大きな男。サマサは肩で息をしながらも、二人に注意喚起を促すべく話し掛けた。
「──待って! 今ダンジョンに入ったら危ないわ……!」
チャイナドレスの女は一瞬立ち止まり、ニヤリと笑いながら振り向くと、何も言わずそのままダンジョンへと消えていった。




