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「そろそろ来る頃だと思ってたわ」
「あの……あなたは一体…………」
フユハは訪ねた宿屋の一室でリーゼットと会っていた。
「その本は、昔寺院で働いていた奴が後生に託した寺院の運営を纏めた本。寺院の在り方、呪文の唱え方、そして心構え、ボッタクリ方なんかもね……それは写本だから好きになさい。とても役に立つと思うわ」
「……ありがとうございます」
フユハは、この街で探索者の蘇生に甚大なる助力を尽くしたかつてのシスターに、心の中で敬意を表した。
「ただ、一つだけ──」
「はい?」
「仲間を蘇生させることに躊躇う事もあるでしょう。それは大事なこと。そして他人を蘇生させることになったとき──迷ったら人を殺せる覚悟が出来た時だけになさいな」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「蘇生術に絶対は無い。あなたに涙を流し懇願したばかりの者が、蘇生に失敗したと分かれば今度は掌を返したように刃を抜くわ。その時、あなたにその人が殺せる?」
「……それは…………」
「ま、どちらにせよ今のあなたのレベルじゃ蘇生術は扱えない。その時までに覚悟を決めておくことね」
「…………」
フユハは本を大事に握り締め、リーゼットの泊まる部屋を後にした。
「凄い……この本があれば私も皆の役に立てる…………!」
その日、フユハは夜遅くまで、魔術書を読み耽った。時折端々に愚痴のような悪態のような走り書きがあるのを見たフユハは、コレを書いた人物は気が強くて口の悪い人だと感じた。
次の日、四人は懲りずに地下二階へと挑んだ。最早彼女等は進むことで自分達の存在意義を、己の価値を見いだそうとしていた。
石段を降りた先でフユハが呪文を唱える。
それは、白魔道士が使うことが出来る【照光】の呪文であり、瞬く間に地下二階の暗い石壁や天井が眩い光に晒され、通路の隅で彼女等を待ち構えていたブッシュワーカーが姿を現した。
「──居るわよ!」
「フユハやるぅ!」
「照光は暫く持ちます! 今のうちに!」
部屋の隅で睨み合う四人とブッシュワーカー。先に痺れを切らしたのはブッシュワーカーであった。
──シッ!
照らされた不気味な笑顔が、まじまじと曝け出される。リゼリアは肩口を軽く裂かれたが傷は浅い。そしてブッシュワーカーを逃がさぬようガッチリと掴み、後ろからマニエルが殴り付けた!
「そのまま掴んでなさい!」
フランシスがダーツを握り締め、その背中に思い切り突き立てる──!
「ゲェ……ェ…………」
背骨の隙間に荒々しく突き立てられたダーツを引き抜くと、ブッシュワーカーは激しく抵抗したが、やがて息も絶え絶えになり息絶えた。
「ハァ……! ハァ……!」
ブッシュワーカーから青白い光が伸び、四人の体へと引き込まれる。それは地下一階よりも遥かに多い経験値であり、乗り越えた壁に見合っただけの見返りであった。
「や、やったね……」
「やりました……!」
「……ようやくね」
「お疲れさまでした」
四人が喜びを分かち合うのも束の間、ブッシュワーカーの体から小さな木箱が零れ落ちた。
「おっ、ほれほれ」
リゼリアが肘でフランシスを小突いた。フランシスは木箱をノックし、カタカタと振ってみたが、罠があるのかすらも分からなかった。
「──えぇい!」
フランシスはヤケクソで木箱を開け放った!
──ゲェェェップ!!
「うわっ! 臭い!!」
魔神の咆哮の様なゲップ音が宝箱から響き渡り、鼻を劈く程の腐卵臭がフランシスの嗅覚器官に深刻なダメージを与えた。
「ウェェ……き、気持ち悪い…………!」
「大変です! 今治療しますね!」
フユハがフランシスの背中に手を当て、呪文を唱えた。
するとたちどころにフランシスの具合は回復し、嗅覚が戻った。
「ヤバい、フユハが神に見えるわ……」
三人はフユハに向かって手を合わせた。




