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彼女もまた、一人はぐれバザーを楽しんでいた。
「…………」
すれ違う人々が時折振り向き彼女を静観する。見た目は麗しく清楚な佇まいで身振りも良く、しなやかな指先はついついその動きを眼で追ってしまう程だった。
その指がスクロールの山から一つを手にする。薄い黄ばんだ紙に書かれた魔術式の詠唱文字は、低レベルの術士でも一度だけ唱えられるような仕組みが施されており、それは神聖領域の攻撃呪文書で、白魔道士の彼女でも詠唱可能な物であった。
「レベル6の聖呪文……800Gじゃぞ?」
嗄れた老人の声がその値を告げる。一度きりの使い捨て呪文に800Gの値が高いか安いかは、その魂だけが真価を知っているだろう。彼女はスクロールを山に戻し、笑顔で老人に会釈した。
「待ちなさい。其方は白魔道士の中でも癒しと浄化に特化した魔道の気を感じるぞい? 特別にこれを100Gでやろうではないか」
彼女はその値段に手を振った。どんなに素晴らしい物だろうが貯蓄の殆どを失う買い物は恐ろしくて出来なかったのだ。
パーティで一番白魔道士らしい彼女は回復役として重宝されているが、一般的な白魔道士と比べるとやはり見劣りしてしまう。しかし彼女はめげることなく自分に出来ることをやるだけだと信じていた。
パーティの成長を確信し、更なる地下への侵入に備え何か出来ることは無いかとバザーを見渡すが、彼女に買える物は無く唯々手に取り眺めるだけしか出来なかった。
そして彼女は先程の老人の下へと戻り、頭を下げ古ぼけた書物を一つ100Gで譲って貰った……。
遠くのバザーで金属製の武器を見ているマニエルを見つけた。
彼女は白魔道士でありながら前衛で血を流し、また敵の血を浴びる事を余儀なくされた悲運な人だと彼女は認識していた。
しかし彼女の眼は死んでなかった。まるで楽しんでいるかのように武器を重そうに持ち上げ笑っている様子を見ていると、置いていかれているのは自分の方ではないかと錯覚してしまうほどに…………。
「あ、フユハ……!」
マニエルが彼女に気付き声を掛けた。私服の肩口から見える傷痕が実に痛々しい。チクリと胸が痛みながらも、彼女は笑顔で手を振った。
「何か良い物はありましたか?」
「んーん、なーんにも……」
くだけた笑顔を見せるマニエルに彼女の胸がまたチクリと痛む。
「それでは戻りましょうか」
「そだね」
集合場所に集まると、フランシスが買ったばかりのダーツを見せびらかし試し投げをして見せた。しかしそれは酔っ払いのお尻に刺さり、フユハは慌てて酔っ払いのお尻に回復魔法を掛けた。




