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 世間では猟奇事件で殺害された刑事さん二人の件で、新たな犠牲者! とまた大々的にニュースで取り上げられ、そんな中、工場全焼、身元不明の焼死体が出てきたニュースは軽く報じられるだけで終わっていた。

 新たな被害者が出ないようにと町は未だに警戒態勢が強まっている。

 学校も今週はまた部活動が休止らしい。

 楽田は右腕、肋骨を骨折、数箇所の打撲でしばらく入院だとか。

 律も二日ほど学校を休む事になった。

 腹部をかなり痛めたから入院とはいかなくとも痛みが抜けるまで辛いようだ。

 祈莉は、あれから三日経った今も学校には来ていない。

 来れる精神状態ではないだろう、仕方の無い事だ。

 俺も、今週はずっと休もうかと思った。

 学校なんてもうどうでもいいんじゃないか、自分は彼の生活を演じ続けるだけなのだからと考える時もあった。

 鏡を見て自分の顔が映っても、いつもとは何か違うような気もした。

 見つめていると俺という人格が、存在が、紙よりも薄っぺらく感じる。

 空しくも切なくも悲しくもなった。

 溜め息をついて、何も知らなかった退屈なあの日常が恋しかった。

 何かが、変わった気がする。

 自分の中で、とても大切な何かが。

 でも、そんな暗い考えはもう止めだ。

 いつもの交差点に行き、祈莉がいない事にまた溜め息。

 しかし律が俺を待っていて、小さく手を振っていた。

「具合は大丈夫?」

「問題無い」

「祈莉は……?」 

 律は首を小さく横に振った。

「……そっか」

 仕方ない、もう行こう。

 祈莉をここで待ったとしても、彼女はきっと今日も来ない。

 このまま登校拒否になられるのだけは避けたいな……。

「君は、調子はどうだい」

「特には」

「ふうん、何か……変わったりはした?」

「そうだな……居心地が悪いっていうか……説明しづらい気分」

「無理をして彼の生活を送らなくてもいいんだよ」

「どこか遠いところにでも行って暮らせとでも?」

「それもいいかも」

 冗談で言ったのに。

「君に植えつけたものは取り除く事も出来る」

「取り除く……ねえ」

 俺の記憶は彼のもので、俺の思い出も彼のもの。

 この人格さえも彼のもの、なのだ。

「いや、取り除かなくていいよ」

 だからといって、手放しはしない。

 悪いほうにばかり考えていた。

 自分を卑下してばかりいた。

 でも、違うんだ。

 俺は彼ではないけど、彼であるように生きなければならない。

 俺はそう思う、そうする事で俺は祈莉を傷つけないで済む。

 彼のためにでもあるし、皆のためにでもある。

「解ったわ」

 予想通りだったから驚かない、彼女の落ち着いた様子はそんな感情が込められている気がした。

「何か聞きたい事はある?」

「いきなりなんだ?」

「私は貴方に全てを話す義務があるから」

 だからといって登校中に言わなくてもさ、もっとゆっくりとした場所で話したいところなんだけど。

「なら……そうだな。一年二ヶ月前、あの交差点での事故の時……二人はどんな事を……どんな話をしたの?」

「祈莉は泣きながら彼の肉体を使って再構築すると言っていた、彼がいなきゃ生きていけない、私には彼が必要だ、何度も言っていたよ」

 愛されてるな。

 彼が聞いていたら実に幸せだっただろうに。

「可能性があるなら私もそれには賛成した。その夜、葛谷を通して遺体安置所へ行ったが、遺体は無くなっていたんだ。それも数体、今思えば……彼が持っていたんだろうな」

 人を喰らって自分の生命力にする……恐ろしい力だった。

 その力を目の当たりにしたから、尚更。

「私達は彼が生き返ったなんて思いもしなかった、数体消えた事に気をとられていてね。そして祈莉はゼロから作り出すと決めた。私は力を使って一年二ヶ月間……君の家族や周囲の人間をまるで彼が生きてるかのように心を操作して騙し続け、偽りの日常を与えていたのだから、罪深い」

 律も大変だったろう。

 彼の家族や近所の住民、彼に関わる知人友人親戚全ての人に力を使って彼が生きてると思わせるために力を使い続けたのは神経が磨り減るってもんじゃあない。

 少しでも穴が開けば、そこから彼の死が広まってしまう。

 不安の無い日などなかったんじゃないか。そして使うたびに、辛い気持ちに追いやられていたのは、同情すらしそうになる。

「あと家族に触れて、君が新しい携帯電話が欲しいと言っていたのを知って、携帯電話を買ってやった」

「えっ? 君が買ってくれたの?」

「家族に買わせる場合、店員やらも加わり力を使う相手が増えて面倒だったのでな。店員に力を使ってすぐに手続きを済ませた」

「高かった?」

 あれって値段結構いったはずだよね?

「高かった」

 めっちゃ真顔。

「い、いつかお金払うよ……」

「別に構わない、南奥高の入学と携帯電話は私からの贈り物だ」

「南奥高の入学、ってそれも君の力?」

 入学試験を彼が受けるはずがない。

「ええ、そうよ。君は平均的な点数を出して面接もばっちりで合格したと教師は受け付けられている」

 それはどうも。

 ある意味裏口入学だな。

「植え付けが今一弱くて、机を用意したりと大変だったがね。あの机も私からの誕生記念の一つという事で」

 学校の机を誕生記念に貰うなんてそうそうない事だな。

「そういや俺って彼の誕生日とは一応違う日に誕生って事になるのかな」

「気にしなくてもいいが、そうなるといえばそうなる。君が完全に完成したのは三月二十五日だ。最も目が覚める日は四月十五日に設定したがね。ま、誕生日なんて気にしなくていい。人が死へ近づく基準みたいなものなのだから」

 その言い方はちょっと誕生日を待ち望んでる人達がいたら悲しむぞ。

 でもまあ、自分の誕生日なんて憶えていなくてもいいかな。

 彼の誕生日を引き継ぐ事で、俺は彼を決して忘れないでいられて、彼を祝ってやれるのだから。

「他には何かあるかい?」

「あとは、ああ、あれだ。この前言ってたよな、律には干渉できないくらいの強い力で、なにやら植えつける事が出来なかったとかなんとか。あいつの力はそれほどすごかったのか?」

「ええ、それはとても。私が今まで見てきた中でも一番ね。でも、君を作る時に彼女は力を限界まで引き出して、今は簡単なものしか作れないくらいまで弱ってしまったわ」

 へえ……祈莉ってああ見えてすごかったんだな。

 まあ、俺を作るくらいだからそれはすごい奴なんだろうけど。

「さあ、どんどん聞いて」

「いや……他はない、かな。気になったらそのうち聞くさ」

 そのうち、気が向いたら、だけど。

 今日は午前授業だけらしい。

 ホームルームでは先生がそう言い、午後は事件の事も考えて遊ばずに自宅で大人しくしている事と言われた。

 でも俺は知っている。

 もう事件は起こらない事を。

 新たな犠牲者ももう出ない。

 鼻歌歌いながら街中を歩き回って、深夜まで遊んでいたって、もう誰かが襲われる事は無い。

 やろうとはしないけどな。

 きっと一ヶ月もすれば事件が起こらない事に皆安心して、いつしか事件を忘れて、いつもの日常に戻る。

 でも俺は事件をずっと忘れない。

 真実は誰にも言えない、真実を隠して過ごしていく、その罪を背負っていくから、事件を忘れない。




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