終
授業が終わって暫しの時が過ぎた午後。
自分なりの、考えってやつ。
結構、まとまった。
そして俺は、祈莉の家の前にいた。
呼び鈴を押すが誰も出てこない、家族全員留守なのかな。
祈莉は……多分いると思うが。
さて、どうする?
祈莉の部屋が見える場所まで、一先ず移動。
窓を見ると、カーテンが少しだけ揺れた。
祈莉が俺に気づいて、咄嗟に窓から離れてカーテンが揺れたんじゃあないかな。
祈莉は居留守を使ってるんじゃあないかな。
そこらに転がっている小石を拾い上げて俺は窓に投げた。
コツン、と小さな音を鳴らす。
反応無し。
もう一度、小石を投げた。
反応無し。
電話を掛けてみようと、携帯で電話をしてみるも留守番電話サービスに繋がり、電話に出る気も無い様子。
無視されるのは辛い、本当に。
この時期なら尚更。
「祈莉ー!」
叫んでみた。
彼女にはっきりと聞こえるくらいの大声で。
それでも反応は無い。
「いるんだろー!」
ついでに小石も投げて反応を待つ。
このままでずっと大声で喚き続ける事になるから早く出てきて欲しい。
「おーい! あのー! もしもしー! おーい!」
「……あ、あまり声、上げないで」
すると、玄関から彼女が出てきた。
視線は俺に合わせてくれない、後ろめたい気持ちでいっぱいなのか。
髪はぼさぼさ、服はよれよれ、目の下にはクマを作って言ってはなんだが、酷い有様だった。
でも祈莉の姿を見れて俺は嬉しかった。
「ちょっと、歩かないか?」
「……わ、私」
「いいからいいから」
強引に手を引いて家に逃げられるのを阻止。
俺は彼女の手を離さずに、歩き続ける。
しばらくして、祈莉は泣き始めた。
「どうしたの?」
「ご、ごめんなさい……」
「なんで謝るんだ?」
「わ、私……身勝手だった。貴方に、知られたくなくて……事件、隠して……貴方を傷つけた」
歩くのは止めた。
祈莉が、向き合って話してくれる姿勢を見せているから。
「結局、私は……彼の代わりを求めてただけだった、貴方に、その役柄を押し付けて、彼と過ごしていると錯覚できる事が幸せだった。私は、本当に最低な人間」
「違うよ、違う」
「一生、恨んで、私を、許さないで。私が背負うべき罪、私は一生掛けて貴方に、罪を償う」
「何を恨むっていうんだ? 何を許さないっていうんだ? 俺を作って、代用品にした事? そんなの、どうでもいい」
「よ、よくない」
涙が溢れて、今にも大声を上げて泣き叫びそうな祈莉。
「私は、命を、弄んだ……貴方と、彼の心を傷つけた」
「もういいじゃん。お前がさ、そう自分ひとりで背負わなくてもさ」
そっと、俺は祈莉を抱きしめてやった。
ご近所さんがジロジロとこっちを見ていたが、構うもんか。
「俺も背負っていくからさ。だって、ほら。彼の人生を背負ってるんだ、もうどんなもんでも背負っていける自身がある。君の罪だって、彼の罪だって、全部背負ってやる」
祈莉は、俺を抱きしめ返してくれた。
嬉しい。
嬉しくてたまらない。
「ごめん、なさい……」
「謝るなよ。俺、彼の分まで生きるから、君のために生きるから。またいつもの日常に戻ろうよ」
彼女は、大声で泣き、俺はただ彼女を抱きしめてやった。
涙で濡れる服、ハンカチくらい用意してくればよかったかな。
「俺の人格は、律が植えつけたものだ」
彼女の頭を優しく撫でてやった。
彼がやったように。
「俺は彼の代わりにはなれるけど、彼じゃない。でも、彼のように生きて……君を好きでいられる」
祈莉は顔を上げた。
彼女の涙を拭いてやる。
「俺の心の中に、彼は生きてる。三人でさ、一緒に生きようよ」
祈莉は、小さく頷く。
額と額をくっつけて、間近で笑顔を見せてやった。
もう泣いて欲しくないから、君も笑顔でいてほしいから。
「明日、学校行くよな」
「……行く」
「また、いつもの交差点で待ち合わせだからな?」
「わ、解った……遅れない」
多くの人が亡くなった。
多くの人が不安に心を締め付けられた。
多くの人が、悲しんだ。
多くの人に、俺は真実を隠す。
隠す事で、彼と彼女の罪を俺は背負い、生きていく。
これからどうなるかなんて、解らない。
でも、一つだけ確かな事がある。
この異常な日常も今日で終わり、平凡な日常を向かえるだろう。




