参
俺は街中を必死に駆け回り、通りかかる警察官には人を探していると言って祈莉の容姿を細かく伝えた。
猟奇事件の件もあって警察官はあとは自分達に任せて家で待っているようにと言うがその場で俺は頷くも祈莉を探すのを止めなかった。
結局、三十分経っても祈莉は見つからず、俺は一旦交差点へ引き返す。
交差点には楽田がいて、辺りを見回していた。
今更ながら、楽田から連絡があったかもと携帯履歴を確認。
走っていて気づかなかったが五回も着信があった。
「おーい、どこ行ってたんだよー」
楽田の私服は意外とお洒落、祈莉を探すの手伝って欲しいとは言ったがお洒落してこいと言ったつもりは無いんだけどな。
「祈莉探してた」
「僕は放置!?」
「うん、ごめん」
誠意を込めずに謝罪した。
「律はまだ戻ってないか……」
彼女からの着信は無い、公園はそれほど時間の掛からない距離にあるのですぐ戻ってこれるはずなんだが、どうしたんだろう。
祈莉を見つけたとかなら、嬉しいのだが。
「電話掛けてみたら?」
「ああ、掛けてみる」
律に電話を掛けてみるがしばらくのコール音の後に留守番電話に繋がった。
着信に気づいてないのか、それとも……何かあったか? 心配だ。
公園まで探しに行くか?
もしすれ違ってもいいように彼にはここで待ってもらって、律がきたら電話するようにしてもらえばいい……よし、思考もかなり落ち着いてきた。
冷静に対処できている。
「楽田、ちょっとここで待っててくれ。律を探してくるから、律がここに戻ってきたら電話して」
「あ、了解」
ちょっと都合のいいように使いまわすようで申し訳ない。
公園までまた走って向かったが、如何せん運動不足が祟ってそろそろ呼吸が苦しくて走れなくなってきた。
少し休憩すればまたある程度は走れそうだ。
しかし休憩しつつ向かわねば、時間は貴重だ。
歩きながら、先へ進む事にする。
辺りをしっかり見回して、律と祈莉がいないかと確認も怠らない。
そうして進んで、そろそろ体力が回復してまた走れるなと思った頃、前方の脇道から一定の黄色い光が放たれていたのが目に留まった。
何だろう、この光は……。
覗きこんでみると車両が一台停車していた。
一定の光はウィンカーだ、ドアは開いており車のライトは消灯しているが中には人影が見える。
……見えたけど。
……見なきゃよかったと、後悔している。
首が異常な角度で曲がって、頭から血を流しているそれは……運転席と助手席に一体ずつ。
どこかで見た事のある顔……ああ、そうだ。
昨日俺に質問をしてきた刑事達だ……。
け、警察に……そう、先ずは警察に連絡!
落ち着け、ああ、落ち着こうっ。
自分に何度も言い聞かせても、心臓の鼓動は激しく脈動して、手足を震えさせた。
死体を見ると胃から沸き起こりそうな感覚にやられそうになるが踏ん張った。
祈莉や律も襲われたのでは?
そんな不安が脳裏を過ぎり、よろめきかけた。
体勢を立て直した時、何かを俺は踏んづけて飛び上がった。
「わわっ!」
……ん?
「……はあ」
ただの紙だ。
待てよ、これ……。
拾い上げてみる。
所々に赤い色が付着、血痕だろうか。
携帯の光で照らしてみると地図だ、この町全体が詳しく記されており、血痕に混じって赤い丸が書かれていた。
いくつかはその丸にバツ印が上書きされており、一つだけバツ印がついていないものがあった。
芹谷工場、そんな工場がどこかにあったな。
ここからは歩いて二十分以上かかる。
ただ、工場へ向かう道筋を立てるならば、俺の家を通ってその先の田んぼと工場しかない場所へと向かうとたどり着く。
レインコートの男が以前に手招きして、ついていった時とほぼ同じ道筋だ。
あの時は変な場所ばかり歩いてたけど。
この地図はどうしよう……。
先ず誰のものか、そこが問題だ。
律のものではない、彼女は持っていなかった。
刑事さんのものならば車両から離れた場所に落ちているのは奇妙。
血痕は乾ききっていないのでこの地図がここに落ちてからまだそれほど時間が経過していない。
刑事さんを殺害したのは、考えずともレインコートの男。
違うかもしれない?
いいや、合ってるね。自信がある。
この地図はレインコートの男のものか、若しくはそれに関わる誰かのものである可能性が高い。
一応、この地図はこの場に残して、地図は携帯のカメラで撮っておこう。
いや、それより携帯を使って地図を探してみるか。
新しい携帯をまったく有効活用していなくて宝の持ち腐れもいいところだったし。
携帯を操作しつつ……一つこの地図について推測してみる。
もしも、だけど祈莉がレインコートの男と何らかの関わりがあり、奴がいそうな場所をこの地図を見ながら探している最中に夜の監視か見回りをしていた刑事さんと遭遇、そこへレインコートの男が現れて刑事さん二人を殺害し、祈莉は奴に連れて行かれたか逃げる最中に地図を落とした、律はそれを目撃して追いかけた。律と祈莉の立場は逆の可能性もある――どうかは定かではないが、芹谷工場には行く価値がありそうだ。
地図も見つけられた、今の携帯電話というものは随分と進歩したものだ。
詳しく記載されていて解りやすかった、迷わずに向かえそうだ。
向かう前に、俺は楽田に一度電話をかけた。
『もしもし? 大丈夫?』
「……大丈夫じゃない」
『どうかしたのか!? 怪我でも!?』
「怪我はしてない、ただ……車の中に死体が二つ。多分猟奇事件の犯人……」
『……近くにいる?』
楽田の口調が、少し変わった。
死体よりも、完全にレインコートの男に興味を持ってかれている。
電話越しに感じさせるその重々しい感情、今彼が何を考えているのかは簡単に把握できる。
「近くには……いなそう、でも、いそうな場所なら解った」
『どこ?』
言うべきか? 言ったら混乱を招きかねないのではないか?
……ここで言わなくても、楽田はきっと電話を切った途端に探し回るに違いない。
楽田が来てくれるのならば頼もしいという面も見逃せない、ここは……言うべきだな。
「芹谷工場って知ってる?」
『芹谷工場……ああ、聞いた事はあるな』
「場所は解る?」
『名前さえ解れば場所はすぐ調べられるよ』
「よし、俺はそこに向かうから、楽田も来てくれ!」
『わかった、すぐに行くよ』
本当に、すぐに来そうだ。
電話を一度切り、俺は次に警察へ通報してから一応公園へと向かった。
公園は無人、祈莉も律もいない。
やはりレインコートの男に……?
辺りをある程度見回ってみたがどこにもおらず、ならば……と、俺は芹谷工場へと向かう。
それにしても短い時期に警察へ通報する機会が二回もあるとは思わなかった。
異常ともいえるくらいに俺の日常は一転してしまっている。
退屈な日常のほうが十倍マシだ。
退屈な日常に溜め息をついて、時間をただ無駄に過ごす。
そんな日常が恋しい、俺の中にあった特異者のいない現実が恋しい。
いくら考えても現状が変わらないのだから、仕方が無いのだけれど。
きっと退屈な日常にまた戻れるはず。
そう信じて、俺は走った。




