伍
祈莉の家に到着し、呼び鈴を鳴らす。
出てきたのは祈莉のお母さん、お見舞いに来たと話すと快く中に入れてくれた。
祈莉の具合を聞くと、良好――らしい。
どれくらい良好かというと、風邪薬や体温計など必要なく、布団に入っているだけで完治するほど。
……仮病だ。
何故仮病を使ったのか聞いてみるも祈莉は理由は話してくれないようで解らないらしく、是非俺達に聞いて欲しいと頼まれた。
祈莉の部屋に入るのは何時以来だろう。
扉をノックして、反応を待つ。
「……寝てるのかな」
「寝てても構わん、入ろう」
律はすぐに扉を開けた。
祈莉の部屋は前とまったく変わっていない。
テレビ、パソコン、ベッド、テーブル、本棚の配置も同じで、本棚に詰め込まれている本一冊すら同じ。
まるで前に来た時から時間が止まってしまったかのようだ。
俺は先ず窓に向かい、カーテンを開けた。
橙色が室内を照らし、ベッドの上の真ん丸い塊が橙色に染まる。
カーテンを開けた音に、一瞬その塊は動いた。
起きているようだ。
「祈莉」
「……」
無反応。
「おーい」
「……」
無反応。
律は揺さぶって様子見。
「祈莉ー」
「……」
まだ無反応。
「パソコンの画面を割るぞ」
「やめちくりっ」
塊の中から頭が出てきた。
「こんにちわ」
「……こんにちわ」
元気そうで何より。
「風邪の具合は?」
「か、風邪? あ、うん……げほっげほっ」
仮病ですねわかります。
頭に打撃を与えておきますのでゆっくり療養してください。
「痛いっ」
「仮病使うな馬鹿」
「そうだよ馬鹿」
律も加勢。
再び祈莉は布団を頭から被って真ん丸い塊になった。
「学校、行くの嫌になった?」
塊が左右に揺れた。
首を横に振ったのだ。
「じゃあなんだ? 仮病使ってさ。苛められてたりする?」
また左右に揺れる。
「お腹がすぐに減って授業が辛い?」
律の質問には即座に左右に揺れた。
まあその質問は無いだろ。
「よかったら仮病の理由、教えてくれないか?」
ぴくりとも動かなくなった。
まったく、何を抱え込んでるのやら。
「パソコンで何か調べてたのか? 電源入ったままだけど、見ていい?」
画面は消えたままだが、パソコンからは起動している音が聞こえる。
折角だし何か調べさせてもらうかなと思ったが、塊は左右に揺れる。
仕方ない、このまま祈莉の様子を窺うとしよう。
祈莉のお母さんがお菓子を持ってきてくれて、しばらくは部屋で祈莉の動きがあるまで寛ぐ事に。
律のお菓子を食べる速度が早くて五分もしないうちになくなりそうだ。
「明日は学校、来る?」
まだ動かない。
このまま俺達が帰るまでそれでやり過ごすつもりか。
律は溜め息をついて腰を上げる。
「……帰ろう」
「え、でもまた来たばかりだし……」
「このまま団子虫みたいな彼女を眺めていても仕方が無いだろう?」
それもそうだが。
「私達と話をしたい気分でもないようだ、これ以上居座ったところで話してくれるとは思えない」
俺は話してくれると思いたい。
「祈莉、お菓子でも食べて気分転換しなさい」
そのお菓子はもう一個しか残ってないけど。
俺も腰を上げて、今日はもう帰るとした。
祈莉の今の様子を見れただけでも良し、仮病の理由は聞けなかったのが心残りではあるが。
「明日は来るよな?」
塊から頭が出た。
祈莉は口をへの字にして、じっと俺を見つめるも来るか来ないかははっきりとさせなかった。
ただ、俺を見つめた後に視線は下に落とし、何か心の中に抱えてるものを過ぎらせて気持ちが落ちていくのははっきりと解った。
「……祈莉、もう隠し通せるとは思わないで」
律は最後にそう言って、先に階段を下りていく。
何だろう、律は何か知ってるのかな?
「祈莉、またな」
扉を閉める時、再び目が合った。
何かを伝えたいような、そんな目をしていた。
でも今は聞いたところで何も喋ってはくれないだろう。
自分達は何でも相談しあえる仲じゃなかったのか、そう思うと少し悔しい。
祈莉のお母さんには仮病の理由は解らなかったと伝えて俺は家を出た。
外で待っていた律に、一先ず聞いてみる。
「何か、祈莉の隠している事について知ってる?」
「知ってるかもしれないし、知らないかもしれない」
なんだその曖昧さは。
まあいい、仮病の理由や隠し事は祈莉の口から直接聞くとするさ。
隠し事といえば、気になるのは交差点と二月三日に関する事だ。
もしそれが彼女に仮病を使わせる原因になってるとしたら……?
いや……考えるのは止めておこう。
祈莉が話してくれるのを待つ、今はそれだけ。
そんでちゃんと学校に来てくれればいいが、不登校に発展してしまわないかと心配になる。




