第4話 謁見の記憶
「勇者よ。よくぞ魔王を討ち倒し、人類を魔の手から救ってくれた。よって余が直々に貴殿のどんな望みでも聞こうではないか」
そう仰々しく話し玉座の上からこちらを見下ろすのは、俺を派遣した国の王である。
今、俺は王都で王に魔王討伐成功の旨を報告しに、謁見の間にいる。
「どんな望みでも、ですか」
俺が反芻する。王の両脇に並び立つ騎士がこちらを睨んだ。変なお願いはするなってことだろう。
「ああ、金でも、領土でも、なんでもやろう」
年老いた王はなかなかに寛大な人物のようだ。そんな王ももうすぐ退位して息子にその座を明け渡そうとしているという噂を思い出す。
さて、どうしたものか。
まずは金か。金は使い勝手が良い。自由度が高くどんなことにも使えるはずだ。
その金で数年はのんびりバカンスを楽しんで、その後は孤児院でもつくっても良いかもしれない。
領土。これは金と違って価値が下がりにくい。案外悪くないかもしれない。
勇者になるための修行で俺だって簡単な便利魔法くらい使えるから自分の土地で悠々自適に理想郷をつくるのも悪くないだろう。
俺としては今はとりあえずしばらくの休暇ののち、幼い頃の俺のような孤児を救いたい、なんて思いが強い。そのためにここでの選択肢は重要な転換点であることに間違いないだろう。
そんな思いを巡らしているうちにひとつの案が脳裏に浮かぶ。
王の方を見る。険しい顔をしているが、その目は優しい。
俺は恐る恐るといったように、それを口にする。
「そういうことなら、国を、いただきたいです」
俺の故郷、ジェミナは魔物からの防衛対策など何もなく、だからといってみんな貧しい農民ばかりだから自衛するにも鍬や斧といった農具くらいしか武器が無かった。
魔物の被害を受けてどんなに貧しい家庭にも役人は無慈悲に税を巻き上げ、口減らしも絶えなかった。
金を得て影響力を高める?幼い頃から少しの生活の知恵と戦いのことしか教わってこなかった俺に、そんな商人みたいなことができるとは思えなかった。
だから、俺が思いついた一番の近道を実行する。国のトップを獲るのだ。
しかし、そんな俺の望みは案の定騎士たちの逆鱗に触れたようで、貴様、黙って聞いておれば、などと抜かした後すぐに彼らは剣を抜き、こちらを取り囲んだ。いやだってどんな望みでも言うたやん。
「やめなさい」
しかし、そんな一触即発の空気を切り裂いたのは王であった。
王が一声かけると、彼らはこちらを睨みつけながら元いた場所へと戻っていく。
「騎士たちが無礼を働いたな。すまなかった」
「いえいえ、俺もあと少しで切り掛かってしまいそうでしたので」
俺は半分冗談を交えて王に応える。
正直流石に厳しい気もするが、王の返答を待つ。
王ははっはっはと大口で笑いながら、続けた。
「結構な物言いだが、まあよい。その、国が欲しいと申したな。良いだろう、国王の座を譲ろう。来月にも戴冠の儀を執り行おうではないか」
予想外の返答に、自分でも驚く。俺でもこうなのだから騎士たちからすれば驚愕だろう。
面白いことになってきた。
王様との謁見を行った、数日後の夜。
その日も、俺は王宮の一室ーー貴賓室にて眠りについていた。
王宮のベッドは羽毛布団で、リネンのカバーだ。肌触りは良く、沈み込むようなふかふかさに、初日こそ慣れなかったものの、今では庶民の藁布団には戻れない身体になっていた。
その日も王宮をざらぶらと歩き、日課であった鍛錬をこなし、下街を見て回ったら、再び王宮をぶらぶらして、飯食って寝る。
実に素晴らしい悠々自適生活である。
そうして、眠りについた俺は唐突な違和感に目を覚ます。
肌がピリリと焼け付くような感覚。これは……。
「……っ!」
突如として振り下ろされたナイフを身を翻して避ける。
そう、さっきの感覚は、殺気だ。
何者だ。何故だ。そう不思議に思いながらも、一先ずは敵の制圧を試みる。
俺だって勇者だ。そうそう負けるはずもない。
暗闇に紛れる人影と対峙する。こちらは丸腰、相手は小刀を持っていた。
相手から目線を逸らさず、足に力を込める。勇者は身体能力が人よりも高いから、先手を取れば大抵は負けない。
すかさず相手の背後に回り、掴もうとして──。
「うっ」
腿を刺されたようだ。しかし致命傷ではないだろう。
俺は構わずにそいつを背負い、叩きつける。どたーん、という音が王宮に響いた。
なんだなんだという騎士たちの騒ぎが耳に入って、侵入者だと叫べば、こちらに走ってくる音が聞こえる。
ばたーんと扉が開けられたとき、異変は突然訪れる。
視界は歪み、意識が朦朧としたかと思うと、俺はその場に崩れたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回第5話「故郷の記憶」は7/12(日)19:30公開予定
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