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第5話 故郷の記憶


 どこまでも荒野が広がる地面は乾燥しており、そこにある緑といえばところどころに低木が散見されるのみ。

 その荒野の途中に流れる川は大きな渓谷を形成し、長く続く。


 そんな大渓谷が少しなだらかになった場所。

 そこに作られた集落が、ジェミナであり、崖の上にある一本の大木の脇に構えられた家が師匠の家であった。


 俺は今、故郷に向けて歩みを進めていた。


 数日前の襲撃事件。

 あの時のナイフには致死量の毒が塗られていたようで、俺は生死の淵を彷徨った……わけでもない。


 どうやら俺は今まで何度か毒を扱う魔物と戦っており、その時に戦い自体は苦戦しなかったが何度か毒を浴びて死にかけたことがあった。

 皮肉にもその時にできた抗体によって魔物から採取された猛毒は俺にはあまり効かなかったようだ。


 そうは言っても殺されかけたことに変わりはなく、国王は謝罪するとともに犯人を探すと仰ってくださったが、それで犯人を見つければ解決とは思えなかった。

 なんで狙われたのか原因を解決しなければ意味がない。


 王の見解では俺が国王になることが気に食わない──そう、例えば王子のような、者が刺客を送ったと言うことだった。

 確かに、次期国王だった王子や、王子と連んでいた貴族連中は面白くないのだろう。


 そこで王は、戴冠の儀のあるひと月後まで、俺に田舎にいるように進めたのである。

 正直、王宮で殺し合いがなされるのは御免だからどっか遠くで戦っといて、と言ってるようにも聞こえる。

 まあ今の王の身内でもなんでもない俺をそこまでして守る義務は無いと考えているのだろう。


 とりあえず次からは毒にも注意しよう。

 効きづらく死にはしないとはいえ気絶している間に刺されればひとたまりもない。


 そうこうしていると、ジェミナの村の入口についた。

 入口といっても木の柵が途切れた場所に櫓があるだけの粗末なものだ。

 この村、防衛としては軽く木の柵がある程度であり、この荒野の中、作物の育つ畑のある集落は魔物にとって絶好の標的となっている。

 昔から魔物による被害に、人々は苦しんでいたが、金も労働力も足りず、生活に余裕のない農民たちにはどうしようもなかったのである。


 俺は勇者であることは伏せてただの冒険者として、村長に一応の挨拶をして、集落の隅にある空き家に住むことになった。


 ひとまず、俺は田舎で過ごす際の宿泊費やら食費やらを王からかっぱらっ……頂いてきたので、金ならある。

 その金で農業が上手くいってない農民たちを中心に雇って集落の周りに堀でも掘らせるのはどうだろうか。


 よし、明日からやってみよう。他にも今後のことをいろいろ考えよう。


 丁度いい休暇である。


 そうして、俺のジェミナ復興プロジェクトが始まったのだった──。




 まず取り掛かったのは堀の建設である。

 これにら柵だけでは防ぎづらい魔物の侵入を防ぐべく、早急に取り掛かる必要があると思った。


 求人を募集すると、なかなかの人数が集まったが、若者や子どもが多い。

 やはり年長者の協力は得にくい。

 彼らは違うことに手を出して自分の畑仕事が疎かになることを恐れたのだろう。

 まあひとまず村長や村のことを取り仕切ってる人には一通り挨拶して、一定の理解は得られたのでそれで良しとしよう。


 それと並行して、生活水準を上げることも考えた。

 特産品などで稼げる基盤を作るのも悪くない。


 しかし困った。ここは何もない荒野の真ん中、特産品などどうしたものか。


 そう考えていたある日、仲良くなった友人の家に泊まらせてもらったときがあった。

 夜になり、そろそろ寝ようかという時、彼はある液体を身体に塗りたくっていた。


 聞けば、それはオリーブオイルだそうだ。


 言われてみればここはオリーブが生えているのを時々見る。

 俺が住んでいた頃は、貧しい家であった俺にオリーブオイルなんて贅沢なものを使わせてもらえるわけが無かったので知らなかったが、どうやら多くの家で普段は水浴びの代わりにオリーブオイルを塗るらしい。

 ここでは神聖なオイルだと言われて、身体を清める効果があるとか。正直効果については怪しいところだが、俺の脳裏に一つの案が浮んだ。

 オリーブを特産品にするのはどうか。

 俺は新たな計画の準備に入った。




 そうした、充実した日々を送っていたある日。


 その日は旅する商人が訪れており、彼からさまざまな情報を聞く。


 魔王軍を完全に壊滅させ、人類が長い長い戦争の歴史に終止符を打ったというのだ。


 ついに、この時がきたのだ。

 ここから、人類の大きな発展の歴史が紡がれていくのだろうと思うと感慨深い。


 その日の夜はジェミナでも宴が開かれた。

 けれど俺は飲めや歌えの馬鹿騒ぎに混じらず、物思いに耽っていたくて、村をあてもなく歩いていた。


「師匠、平和な時代が、来たんだよ」


 そう、口に出して、はたと気づく。


 何故今まで気づかなかったのか。忙しかったからか。


 俺はまだ師匠に会いに行っていなかったのだ。

 故郷に戻って来たというのに。


 今度、行こう。


 この時俺はそう考えてその日は家に帰った。

 もうすでに、心に余裕がなくなっていたことに気づかずに。




 数日後。今度は人の国同士で戦争を始めたという話を聞いた。

 どうやら魔王軍から奪った領土の分配について揉めているらしい。


 名前を聞いたことはあるくらいの遠くの国同士の戦争。

 正直、ほとんど知らない国同士の喧嘩くらいにしか思わなかったし、別に気にするほどのことでもないと思った。




 さらに数週間後。

 ジェミナの堀はほとんど完成し、そろそろ王都へ戻ろうかという時のこと。


 国王が死に、王子が王の座を継いで隣国に宣戦布告したことが、知らされた……。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回第6話「終わりの記憶」は7/15(水)19:30公開予定


★★★★★評価、リアクション、感想等よろしくお願いします(_ _).。o○

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