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第2話 仲間の記憶


「私も、正直私なんかにこんな大役が務まるのか、不安で仕方ないです。

 でも私、こんなに必要とされるの、初めてなんです。幼い頃からずっと鈍臭かった私が、この場に立てて居ること自体、本当にありがたい話です。

 だから私は、私にできる最大限で、皆さんの足手纏いにならないように頑張るんです」


 そう言ったのは心優しい女性で、俺からしたらまだまだ子どもに見えて、でも一生懸命な一人の魔法使い。

 ある日のキャンプで、二人きりになった時、彼女はそう言った。


 彼女の出身は農民だ。それも、小作農を耕す貧しい家。

 俺と同じだった。だから話しやすかったのかもしれないけど、突然魔法の才能が開花して王立学校に特待生として入学したと言う話を聞くと、少し嫉妬してしまった。


 もう少し、心を開いていれば、あんな結末は迎えず、お互いに支え合えたかもしれない。




「小僧。俺は、お前のことを信じていない。ただ、王様の命令だから付いていってやってるんだ」


 当時の俺は、このきつい言葉に言い返すことができなかった。

 正直、戦士であるドワーフ野郎は今でも嫌いなくらいだから、当時の俺は老害糞野郎としか思ってなかった。


 だからその後の言葉は、強い印象を俺に与えた。


「だから俺に、お前さんを信じさせてくれよ」


 そのひと言が、異様な程印象に残った。


 今にしてみれば、彼は人間よりは少々じゅみょの長いドワーフとはいえ、歴戦と謳われていたくらいだからそこそこの歳だったのだろう。

 彼の、まっすぐに物事を見透かしたような、遠くを見る目はどこか師匠を彷彿とさせた。


 そうは言っても、いつもいつも鼻につくような言い方をするもんだからしょっちゅう殴り合っていた気がするが。




「大丈夫。私たちはあなたについて行きますから。女神様の祝福は自分自身にはかけられません。それは女神様が隣人を愛すことを諭すからです。私にあなたを支えさせてください」


 そう僧侶が言ったのは、俺が一度だけ、心が折れそうになったとき。


 それまで順調と言う文字がそのまま当てはまるような、そんな日々が続いていたからか、久しぶりの敗北に、俺は大人気もなく周りに喚き散らした。

 そう、当時の俺は……あれだ。ちょっとばかり、調子に乗っていたんだ。調子に乗っていて、自分が世界最強であるかのような錯覚をしていて、唐突に突きつけられた現実から目を背けようとしていたんだ。

 師匠にはあんなに厳しく教えて貰ったはずなのに。

 魔法使いがほんのちょっとばかりミスをしたからと、戦士が言うことを聞かないからと、俺は傍若無人に振る舞った。

 自分で喧嘩をふっかけておきながら、一丁前に傷ついていた。

 今思えば最低だったと思うが、そんな俺を優しく諌めつつも、確かに支え続けてくれたのは彼、僧侶であった。


 そんな彼には、迷惑ばかりかけていたから、もっとお礼とか、伝えたいことはいっぱいあったはずなのに、俺の矮小な心がそれをさせなかった。




 温かな日差しが肌を撫でる。

 その時俺は冷たくなった三人の身体を、何も言わずに土に埋めていた。


 欲を言うなら連れて帰りたかったけど、俺にそんな体力は残ってなくて、ここで鳥や獣の餌食になるくらいならと、埋葬を試みている。


 せめて俺にもうちょっと魔法の才能があれば、彼らを運ぶことも可能だったかもしれない。


 いや、もうちょっと信頼関係を高めて連携していれば、そもそも俺がもっと強ければ、もっと仲間のことを考えてパーティの雰囲気を気にしていれば、そんな起こり得なかった可能性ばかり考えてしまう。


 死んだと思った俺の身体をみれば、大きく開いた鳩尾みぞおちの傷は塞がっており、なんとか動けはする状態だ。


 恐らく最後に魔王にとどめを刺したのは僧侶だ。彼は魔法耐性が高かったから、炎に包まれても暫くは大丈夫だったのだろう。

 僧侶の扱う魔法──もとい女神様の祝福は回復や身体保護の類のものが多く、攻撃には向いていない。

 しかし僅かながら決して強くはない女神の祝福による攻撃魔法も存在しており、彼はそれを使ったのである。


 魔王と言ってもあまり前線に立って戦っていなかったからか、それとも単に油断していたのか、それだけで殺せたことには意外であった。

 いや、初撃の強さが他の魔物の比では無かったから、大抵のやつはあれで全滅するのだろう。

 そもそもこちらとしても十分過ぎる犠牲が出ているのだ。


 そうして、僧侶は自分が助からないと見たのか残った魔力をありったけ使ってまで、俺の回復に当たってくれたのだろう。文字通り、命懸けで。


 埋葬を終える頃には日は高く昇っていて、魔物の動きが鈍くなる昼を逃しては困る。

 今の俺には魔物と戦う体力は残されていない。僧侶による回復魔法は対象の生命力も使う訳だから当然だ。


 だから俺は、静かに、振り返ることなく、その場を離れた。

 身体中の骨折は治っていなかったから、身体中が痛いけど、無理矢理に前に進む。


 前にーーいや、来た道を戻っていく。


 来る時は四人で歩いた道を。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回第3話「帰路の記憶」は7/9(木)19:30公開予定

※都合により時刻を変更します


★★★★★評価、リアクション、感想等ありがとうございます(_ _).。o○

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